5_彼女の常識

■彼女が告白を受けない理由


「なあ、蒼さんってこれまでに何人くらいに告白された?」


「さあ?呼びだされるのは週1とかで、LINEとか、何となくとか含めると覚えてないけど」



本物だ!

本物のリア充だ!!

しかも、チート・リア充だ。

ヒエラルキーのトップだ!



「それなのに、なんでOKしなかったの?」


「だって、ほとんどの場合知らない人だよ?いきなり付き合ってとか言われたら怖いわ」


「そんなもんかな?」


「じゃあ、逆に考えてみて」


「知らない人が、鼻息荒く目つきギラギラで付き合ってって来たら身の危険を感じない?」


「なるほど。少しわかる」



そんなことを言っても、知ってるやつだって告白きてるだろう。

野村くんとか、野村くんとか、野村くんとか。



「じゃあ、クラスメイトとかは?」


「クラスメイトはクラスメイトでしょぉ?なんか付き合うのってイメージできない」


「じゃあ、俺は!?」


「うーん、何となく?ノリで?」



ノリで付き合ってると、ノリでフラれそうだな……

そんなことを考えていると、いきなり手を握られた。


「あ、でも、今はちゃんと好き。彼氏ってもんはいいもんだねぇ」


「そう……か?」



その彼氏って俺だぞ!?

俺にそんな良いところってあるのか?!





■スカートの丈と独占欲

椅子に座っていると、蒼さんが目の前の机の上に座った。



「なあ、スカート短すぎないか?」


「普通じゃない?脚長く見えるし、かわいいでしょ?」



ある意味目が離せない訳だが……



「あ、独占欲?独占欲だぁ!他の誰にも蒼のパンツは見せない的な!


「……」


「あ、マジだった?大丈夫だよ。ほら」



蒼さんがその場でスカートをめくった。



「ばっ!」



とっさに顔をそむけた。


反応がないので、視線を戻してみるとスカートはめくられたまま。

そして、そこには、白いパンツ……でなく、黒いショートパンツ。



「ね?」


「『ね?』じゃない。それでも恥ずかしいんだよ。スカート戻せ」


「見たかった?蒼さんのパンツ見たかった?」


「……」



プイと顔を逸らした。



「今度、二人きりの時にね」



耳元で小さく言われたけど、蒼さんが、ニマニマしてる……

その『二人きりの時』いつくるの!?

今すぐ二人きりになりたいんだけど……






■やきもち

この日は、なんか女子に囲まれた。

席についているのに前後左右に立たれると、さすがに逃げ道がない……



「ねぇ、橋本くん、カットどこでしてるの?」


「指長いねぇ」


「肌きれぇ」



蒼さんが教室に戻ってきた

その視線で威嚇したら、周囲の女子がいなくなった。


すげえな、ヒエラルキー・トップの眼力。






「なんか最近、橋本くんいっぱい話しかけられてない!?特に女子に!」


「うーん、確かに。ストレスを感じることが多くなった」


「ストレスなんか。ウケる」


「俺みたいな陰キャボッチが人気になる訳がないから、蒼さんのせいだな」


「どういうこと?」


「隣の芝生は青く見える的な?」


「それだけじゃないでしょ。倒れた私をお姫様抱っこして保健室に連れて行ったし。あれは割と伝説になってるみたい」


黒歴史だ……


「あと、屋上でキスしてる人がいたって噂も、屋上に行ける男子は限られてるし」


黒歴史だ……



「あと、今度の日曜、うち来ない?ママが会いたいって」



なんかついでで重要なこと言われたけど、蒼さん、お母さんのこと『ママ』って呼んでるんだ。

かわいい……



「俺なんかしたかな……」


「いつも一瞬しか会わないから、話したいって」



『話がしたい=説教』では!?

でも、逃げられるわけがない。



「……わかった…行く…」


「なんで、そんな深刻な顔なん?気軽でいいよ?気軽で」


「おう……」






■彼女のお宅訪問

菓子折…持った。

髪……先週切ったばっか。

服……蒼さんに選んでもらったヤツ。


完璧装備だ。

これなら、蒼さん家(ち)に行っても大丈夫。

何度も蒼さんを送っていったし、一度は家にあげてもらってお茶もいただいた。


お母さんと、妹さんには会ったけど、お父さんには会ったことがない。

蒼さんがバイトをしていたことから、母子家庭じゃないかと勝手に思ってる。

ただ、この辺り聞きにくいので、聞いていない。




家は、普通の一軒家なんだよなぁ。


色々わからない。

蒼さん自身、ギャルなのに優しい。


俺の中のギャルのイメージって、自分が好きなもの以外の全てに攻撃する感じ。

蒼さんは誰とでもフレンドリー。

誰も攻撃しない。


ありゃあ、男だったら誰でも勘違いするだろう。

俺も勘違いしている。


あ、でも、一応付き合ってるから勘違いとばかりも言えない感じ?




そんな、どうでもいいことを考えているうちに、蒼さん家についた。

ただ……チャイムが押せない……


プレッシャー……



(ガチャ)「あ、橋本くん、いらっしゃー」


「あ、あれ?まだチャイムおして……」


「ドア覗いたら見えたから」


「そか。サンキュ」



なんかお礼を言ってしまった。



「ささ、入って、入って!」



蒼さんに促されて、玄関に入る。

緊張ー。

蒼さんは、なんかひらひらの部屋着っぽいのを着てる。


学校の時と違ってドキドキする。



「あの……これ……」



蒼さんにお菓子の包みを渡した。



「気使わなくてよかったのに」


「いや、でも、ちゃんと来るの初めてだし……」


「真面目だね」



そう言いながらも、蒼さんは笑顔だった。

なんか嬉しかった。



蒼さんに誘導されて廊下を歩いた。



「ママね、陽葉里(ひより)と一緒にお買い物行っちゃった。あと1時間くらい戻らないかも」



呼びだしておいて、不在とか……自由だ。

さすが蒼さんの親。



「ママ帰ってくるまで部屋に行こう?」



部屋とは、蒼さんの部屋!?

なんか、めちゃくちゃ緊張するんだけど……


2階の部屋に通された。

3部屋あったから、蒼さんの部屋と、妹さんの部屋と、あと1つって感じか。


蒼さんの部屋は、蒼さんの匂いがした。

すげえいい匂い。

なんかエロイ。


部屋は、ベッドと机と、タンスくらい。

フローリングだし、きれいな部屋だった。



「ごめん、座るとこないからベッドに座ってて」



そう言って、蒼さんは部屋を出て行った。

なんかベッドに座っていいのか…

いっつも蒼さんが寝てるとこでしょ!?

罪悪感が出てきた……


部屋の色の基調はピンクだし、いかにも女子の部屋って感じ。

机の上には小さい鏡が置いてあり、メイクの道具っぽいやつがいっぱい置いてある。


俺の部屋と違って漫画とかは全くなくて、小さい本棚には雑誌とかが置かれている。



蒼さんの中身を見たような気がして、悪いことをしているような気がしてきた。



部屋を見渡していると、蒼さんが戻ってきた。



「あ、座っててよかったのに」


「あ、いや…部屋見てた」


「え、なんか恥ずかしいな」



蒼さんは、手にコップを二つ持っていて、ジュースを持ってきてくれたようだった。

ただ、置き場はないから、机の上に置いた。


座ったのはベッド。

なんか変な感じ。


蒼さんのベッドに二人横並びで座っている。



「なんか緊張するね」



そう言われたら、益々緊張するわ!



「その……男の子が部屋に来るの初めてで……」



前髪をしきりに触る蒼さん。

緊張してるのかな?

俺も女の子の部屋に行くのは初めてだよ!



「その……」


蒼さんが顔を真っ赤にして目を瞑ってこっちを向いた。

え?なに?


少し顎を上げて……キス?キスなの?


蒼さんの肩を抱いて、キスした。


唇が離れると、蒼さんが戸惑いながらベッドに寝転がった。


はあ!?


蒼さんは前髪を触りながら言った。



「ごめん、今まで付き合ったことなくて、彼氏が部屋に来た時どうしたらいいかわかんないんだよね」



俺だって初めて彼女の部屋にきたわっ!



「あの……初めてだから……優しくして欲しいっていうか……」


「ちょっと待て!」


「え?」


「俺は部屋に来るなり押し倒すと思ってる感じ?」


「彼氏って部屋にきたらそんなかなぁって……」


「そりゃあ、押し倒してくださいって言われたら、据え膳はいただくよ?でも、来たからそうって、変だろ?」


「そうなの?私の部屋とか来てもなにも楽しくないよ?」


「そんなことはないよ。いい匂いするし、ドキドキするし……」


「え?橋本くんも?ドキドキしてんの私だけかと……」


「めちゃめちゃドキドキするわ!部屋にきてすぐキスしちゃったし」


「ホント?」


「義務的にえっちぃことすんなよ」


「でも、男子ってえっちぃことばっか考えてるって……」



うん、それは否定しない。

でも、義務的に、接待的に差し出されるのはなんか嫌だ。



「バカ、そういうことなくてもお前のこと好きだから」


「……」


「…」


「橋本くん良い人だね。さすが私の初ちゅーを奪った男」


「バカ、俺も初だったってーの」


「んー!」


「どした?」


「なんか、きゅーに愛情がドバドバあふれてきた!」


「なんだそりゃ」


「んー、ちゅーしたい!」



蒼さんが目を瞑った。

そりゃあ、こんな美味しい据え膳、喰わない理由がない。


改めて抱きしめて、キスをした。

蒼さんの匂いがいつもより強くて頭がくらくらした。



「やっぱりする?」



そう言って、蒼さんが胸のボダンを外し始める。



「押し倒したくなったら、押し倒すから……」


「…」


「…」


「ぷっ、顔真っ赤!」


「しょうがないだろ!」


「でも、よかった。橋本くんが彼氏で」


「それはこっちのセリフだろ。普通、陰キャボッチとは付き合わないぞ?」


「それは好きなった方が負けっていうか……あれ?私って魅力ない?」


「バカ、どうでもよかったら、既に押し倒してるよ」



なんか抱きしめた。

蒼さんは首の辺りから、蒼さんの匂いがすごくしたからドキドキした。


首に鼻を近づけて、においを嗅いでいると、『恥ずかしい』と言われたので、少しだけ控えた。

でも、すげえいい匂い。

なんかエロイ。



(ガチャ)「おねえちゃ……」



部屋のドアが開けられて、妹さんが入ってきそうになった。


(ガチャ)再びドアが閉められる。


「……」


「……」




「ママーっ!お姉ちゃんが彼氏連れ込んで抱き合ってた!」


「あらあら、邪魔したらダメよ?」


「大丈夫!気づかれないように、ちゃんとドア閉めてきた!」



気付いてるから!

最高に気まずいから!!


蒼さんも顔が真っ赤だった。

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