2_好きなのは見た目だけ?
「ねぇ、なんで私といると微妙に緊張してんの!?な~んか壁を感じるんだけど…」
教室の俺の隣の席に座って蒼さんが聞いた。
「しょうがないだろ。ギャルは怖いじゃないか」
「なに、その先入観。ウケる」
「だって、イジメられそうで……」
「別にいじめてないでしょ!?」
肩を強めに叩かれた。
ギャルのスキンシップ痛い……
「なんかギャルがいっぱいいたら、いじめられそう」
「私がコンビニから帰るときは、嬉しそうにホイホイ迎えに来るのに…」
「地味メガネは双葉さんを思わせるんだよねぇ。双葉さんはかわいいんだよぉ」
双葉さんのかわいさを表す動きを全身で示す。
「もう!本人の目の前でのろけるな!どっちも私でしょ!?」
「うん、確かに、お前はカワイイ。憎らしいくらいにカワイイ。目が自然に追いかけるくらいカワイイ。だけど、いまいち腑に落ちない感じ」
「褒められているのに、褒められている気がしない……」
◇◇◇◇◇
(俺的には)衝撃的な出会いから数日、ちょくちょく夜にコンビニに迎えに行くのが日課になっていた。
それにしても、日ごろ無意識に目で追ってしまうくらい見た目が好きな『蒼さん』と、めちゃくちゃ好きだったおとなしい感じの『双葉さん』が、同一人物だったとは……
蒼さん(双葉さん)は、ほとんど毎日バイトしていた。
うちの学校はバイトが禁止なので、地味な見た目は変装の意味もあったのかもしれない。
バイトが終わる夜10時ともなれば、さすがに暗いので、コンビニから家まで送り届ける感じで迎えに行っていた。
家の前までは何度か行っていたので、つい先日はお母さんにも会ってしまった。
お宅でお茶までいただいた。
ついでに、中学生の妹さんにも会ってしまった。
なんか付き合っているような、付き合っていないような……
もしかしたら、付き合う前ってこんな感じなのかも。
これまで付き合ったことなんてないから分からんけど。
■□■□■□
「蒼さん、なんか最近顔色悪くない?」
「あ、教室では『蒼さん』って呼ぶことに落ち着いたんだ」
「だって、蒼さんリア充だから……」
「なんだそりゃ」
実際、教室でもみんな『蒼さん』とか『蒼』とか呼ばれていた。
だから俺はてっきり『蒼』が苗字だと思っていたほどだ。
「今度の土曜、珍しく休みなんだけど、どっか行かない?」
「え?休みの日に?わざわざ出かけるの!?」
「え?休みの日に出かけないの!?」
二人が『人種の壁』を感じた瞬間だった……
□□□□□
休み時間、教室の後ろの方では何人かが話していた。
「なぁ、蒼、最近、坂本と仲いいのな」
「仲いいっていうかぁ……」
「なんだよ、はっきりしないなぁ」
「あと、名前、『橋本』だから」
そんな会話を教室の後ろで見かけた。
確かあの男子は、野村。
いや、野々村?
その野々村(仮)が自分の席で座っている俺のところにきてガッチリ肩を組んできた。
「おう、傘本!最近、蒼と仲いいな」
顔が近い。
これだから陽キャのリア充は……
「仲がいいっていうか…」
「むかつくくらいにお前ら同じリアクションな……」
「あと、俺、橋本だから 」
「……」
「……」
「なにスマホで調べてんだよ」
「『傘本』って、全国で10人のレアな名前らしい」
「つまんねえこと調べるなぁ」
「気になった事はすぐに調べる質(たち)で」
「……」
「……」
共通の話題なんてないから、会話終了。
ボッチとリア充の会話なんてこれ以上どうにも膨らまない。
そのうち、野々村(仮)がもう一度顔を近づけて、小さい声で言った。
「なぁ、俺今週末、蒼に告るけどいいよな?」
「……」
なんて答えたらいいのか分からなかった。
■■■■■
昼休み、屋上で天文部員と一緒に弁当を食べている。
一応、天文部に入ったので、俺も天文部か。
「で、結局、どうなの?あんたは私のこと好きなの?嫌いなの?」
「見た目が好き」
「見た目だけなの~。じゃあ、ダサいかっこしてたら?」
「すごく好き!」
「ああ……そうだった……」
『たとえ話を間違えた』とばかりに頭を抱える蒼さん。
□□□□□
その日の放課後、早速、野々村(仮)が、実際は野村なのだが、双葉蒼を呼びだしていた。
『週末』と橋本には予告したくせに、木曜日に告白する当たり焦っていたのかもしれない。
「なんでなんだよ!?橋本がいいのかよ!?」
「うーん、それは関係なくて……」
「あいつはお前を見た目じゃなく、中身で見ているとか!?」
「いや、あいつほど私を見た目でしか見ていないやつはいない」
双葉蒼は、ぴしゃり答えた。
「ダメじゃん!」
「そうなんだけど、なんかうまく説明は出来ない……」
そんなあいまいな理由で野々村(仮)は、実は野村、双葉蒼にフラれていた。
■■■■■
翌日、金曜日は3~4限目が体育だった。
体力測定とかで、やたら動かされた。
飛んだり跳ねたりした後に、5km走らされた。
季節外れのマラソンにみんな不満だった。
みんな着替えて教室に戻ったとき、事件は起きた。
「あれ?」
蒼さんが、休み時間に立って話している最中に違和感を感じたみたい。
「ごめん、ちょっと座るわ」
そう言って、椅子に座ったら、そのまま液体の様に地面に流れ落ちるように崩れていった。
「え?!え!?なに!?なに!?」
「蒼、大丈夫!?」
クラスメイトがわあわあなる中、誰も動かないので、俺が蒼さんを抱きかかえて保健室に連れて行った。
「なに!?なに!?」
「橋本!?」
「私、リアルお姫様抱っこ初めて見た」
教室はキャーキャーなっていたが、それは後で考えよう。
保健室では、保険の先生には怒られた。
「貧血だとしても、動かさない方がいい場合だってあるんだからね!」
「あ、はい。さーせん」
蒼さんは、保健室のベッドに横になって、布団から顔だけ出していた。
「大丈夫なん?」
「うん、過労と貧血だろうって」
『てへっ』と笑ってごまかす蒼さん。
「そんなに働いてないけどなぁ」
そうは言いながら、週5とか週6でバイトしている。
バイトをしていない俺からしたら考えられない程、働いていると思う。
「俺よりは働いてる」
「ま、ね」
「そんなに金(かね)が要るの?いじめ?」
「違うわ!」
ツッコめるだけ元気は出てきたみたい。
低血糖とかではないらしい。
やっぱり、貧血かな。
「私、妹いるからさ、家計を助けて妹は大学に行かせたいんだよね」
「俺は嫌だな」
「え?」
「俺、一人っ子だからわかんないけど、お姉ちゃんが倒れるまで働いて大学行けても嫌だな」
「……」
「考えはすごく嬉しいと思うけど、お姉ちゃんのほうが大事かな」
蒼さんは、そう言われて、ちょっと考えているようだった。
「……聞いてみる。お母さんと陽葉里(ひより)に。」
妹、『ひよりちゃん』だったのか。
……名前かわいい。
「うん、聞いてみよう」
■□■□■□
■□■□
■□
翌日の昼休み。
いつもの様に屋上で天文部員と弁当を食べていた。
「昨日、お母さんと陽葉里(ひより)に聞いてみた」
「どうだった?」
「迷惑って言われた」
「辛辣!」
「お金は大丈夫だから、お姉ちゃんにはもっと高校生活を楽しんでほしいってさ」
「よかったね」
「うーん、頑張りすぎてたのかも」
「倒れたしな」
「倒れた訳じゃないけど!」
「いや、十分倒れただろう」
絶対認めなかった。
恥ずかしかったのかな?
「今度からバイトは週3くらいにする」
「ふーん」
「時間がいっぱいできるんだけど……」
「うん」
「で?どこで楽しませてくれるの?」
「ん?俺?」
「だって、ほら、責任ってもんがあるじゃない?」
「俺!?責任を問われてるの!?」
「映画とか?ウインドウショッピングとか?」
「週末はたまったドラマとアニメを消化したい」
「えー、いきなり家に行ったら、えっちぃことするでしょ!?」
「するか!」
そんなやり取りを、他の天文部員がニマニマしながら見ていることにに、俺は気づかないでいた。
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