依頼人-惨
「誰か……例えば、その婚約者に相談は? お前の猫のせいで困ってるとでも言えば、何とかしてくれるんじゃ」
「それができないから、こうして貴方に助力を求めているのです。江戸の頃ならともかく、西洋化が著しく進んだ今、猫の呪いなんて旧時代のモノがあってはならないのは貴方も解っているでしょう? 彼らに目をつけられたら、せっかくの縁談も破談になってしまい、双方のお家にも傷がつく。それだけは避けねばならぬのです」
険しい顔の三俣の主張を受け、徹平は密かに嘆息した。
(こりゃ面倒なことになりそうだな……)
辟易してやる気を失くす徹平の肘をちょいちょいと突いてきたのは、隣に腰掛けたゴローだった。つぶらな瞳でこちらを見上げてくる。その奥には、底知れぬ圧が隠れていた。
「てっぺー、助けてあげよ?」
(こいつ、思ってもないことを……!)
しかし、徹平はゴローには逆らえない。大人しく言うことを聞くしかなかった。
「ゴローさんは優しいんですね」
それに比べてお前は……と言わんばかりの冷ややかな視線を向けられ、徹平は折れた。内心で舌打ちしながら、三俣に問う。
「わかりました。近いうち……明日にでもお屋敷に伺っても?」
「ええ、自分の学友という名目ならば大丈夫かと。主人にはあなた方の来訪を伝えておきますので、
約束を取りつけ、どこか安堵した様子で三俣は退室した。頻りに頭を下げながら去ってゆく後ろ姿を見届けると、ゴローはソファに小柄な身体を投げ、ふんぞり返った。
「全く貴様には向上心の欠片もないな。人助けの心を持っておらんのか?」
「オマエにだきゃ言われたくねーよ……」
徹平はげんなりとぼやいた。ゴローの金の双眸が爛々と輝く。
「猫の呪いなどどうでもよいが、小槌を取り戻す一助になるやもしれん。抜かるなよ、徹平」
「へーへー、わかってますよ。魔王様」
魔王・
ゴロー少年という人畜無害な少年を装う魔王こそ稲生萬屋改め〈もののけ屋〉の真の主人であり、徹平を奴隷の如くこき使う雇い主でもある。
何故、こんなことになったのか――話は、ひと月前まで遡る。
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