依頼人-弍
× × ×
「猫の呪いを解いてほしいのです」
依頼人である三俣青年は、意を決した固い表情で云う。懇願を受けた萬屋の表向きの主人・稲生
「猫の呪いねぇ……するってーとアンタ、呪われるようなことでもしたか?」
徹平の失礼な物云いに、三俣はムッと眉を顰めた。
「呪われているのは自分ではありません。自分は書生としてあるお屋敷に住み込みで働かせていただいているのですが、屋敷の主人の婚約者のゆかり様が被害に遭われているのです。彼女の苗字が
試すような問いに、徹平は打てば響く調子で答えた。
「化け猫騒動の?」
「はい、やはりご存知でしたか」
「そりゃまあ……じゃあ、そのゆかりさんってのは」
「鍋島家の子孫です。といっても、分家の遠縁の血筋だそうですが」
鍋島の化け猫騒動とは、旧佐賀藩に伝わる化け猫伝承のことだ。鍋島氏は、それまで藩を治めていた
「実は、主人が猫を飼っておりまして」
「猫ぉ? でも、婚約者の祖先は……」
「はい、そうなんです。主人は化け猫騒動のことを知らずに大層可愛がってくださいました。でも、ゆかり様がお屋敷に見えるようになってから、猫はふらりと姿を消してしまったんです」
徹平はボリボリと頭を掻き毟った。
「まー、猫は気まぐれだし、そんなこともあるだろ」
「真面目に聞いてください!」
適当な態度の徹平に思わず声を荒げた三俣青年は、咳払いして続ける。
「主人の猫がいなくなってから、ゆかり様が目に見えて憔悴し始めたのです。事情を訊ねてみると、夜な夜な彼女の夢に猫が現れるようになったそうなのです。そこで祖先の化け猫騒動を思い出されて、恐ろしくなってしまったようで。ほら、猫は末代まで祟ると言うでしょう? 寝不足が祟ったゆかり様はどんどん窶れてしまい、お労しい姿に……」
心底悔しそうに歯噛みする三俣青年は、自身の無力さを痛感しているようだった。
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