それぞれの恋愛エンド 10000PV突破記念
メラルーシィの場合
一年が経ち、新学期を迎えた頃。
「あ、メル。どうかしたの?」
「お姉様、私お姉様に大事なお話があるのです。今日の夕方校舎裏でお待ちいたしております」
メラルーシィとの好感度イベントを気付かぬうちに全てクリアーして親友の誓いを果たしたリリアーナの前に彼女が現れ、頬を赤らめ恥ずかしがりながら声をかけられる。
「校舎裏に? 分かったわ」
「必ずいらして下さいね。私ずっと、ずっとお待ちいたしております。それでは!」
不思議そうに首を傾げながら了承する彼女の様子にメラルーシィが言うと慌てて立ち去っていった。
「校舎裏に来いなんて……なんだか決闘を申し込まれるみたい……まさかメル私と決闘を!?」
(そんなわけありませんわ。いいかげんその脳みそお花畑を何とかなさった方がよろしくてよ)
冷汗を流すリリアーナへと心の中からもう一人の自分の声が返って来る。
「それじゃあ、メルはどうして私を呼び出したりなんかしたのよ」
(はぁ~。……本当に分かっていらっしゃらないの? 貴女メルさんと親友の儀を交わしたのでしょう。という事は亜由美の世界で言うメラルーシィさんとの攻略イベント全てクリアーしているではありませんの)
分らないと言いたげな彼女へともう一人のリリアが盛大に溜息を吐き出し話した。
「へ、えぇえっ!? まさか、私が他の攻略者達を差し置いてメルとの恋愛イベント全てクリアーしてしまったって事!?」
(そうなりますわね。となれば残るイベントは一つ。メラルーシィさんからの逆告白イベントですわ)
「っぅ!?」
驚き焦るリリアーナへともう一人の自分が冷静な声ではっきりと言い切る。それに絶句して固まってしまう。
「ど、ど、ど、如何しよう!? いや、如何すれば良い?」
(もう、ここは快く認めて彼女と恋人になれば宜しいのではなくて。亜由美もメラルーシィさんの事が好きなのでしょう?)
余りの現実に挙動不審になり慌てて尋ねる彼女へともう一人リリアが話す。
「確かにメルの事は前の世界からずっと好きよ。ゲームを何度もやったし、ファンブックやグッズを買ってもらったりしたくらい大好きな子よ。でも、私がメルのこ、恋人になるなんてそんなこと……」
(いい加減腹をくくりなさいな。好きなの? 好きじゃないの? どちらなんですの)
リリアーナの言葉に内心から冷静な声で問いかけられ彼女は頬を赤らめ口ごもる。
「す、好きよ。リリアーナになる前から亜由美の頃から。ゲームのファンとして彼女の事をずっと画面越しで見ていたのだから」
(それなら、躊躇う必要なんて御座いませんわ。今日の夕方、運命のイベントの場所へと向かえばよろしいのですわ)
赤面して答えた彼女へともう一人の自分が優しい口調で言った。
そうしてリリアに言われてはじめて自分の本当の気持ちに気付いたリリアーナは夕方運命の恋愛成就イベントの場である校舎裏へと向かっていった。
「あ、お姉様必ず来てくださると思っておりました」
「メ、メル。それで、私にどうしても話したい大事な事って何?」
頬を赤らめ喜ぶメラルーシィの前へと立ち緊張しながら尋ねると彼女が真剣な瞳でリリアーナを見詰めた。
「私、初めてお会いした時からお姉様の事をお慕い申しておりました。お姉様……いいえ、リリアーナ様。その、私……貴女の事が好きです。ずっとリリアーナ様のお側にいる事をお許し願えますか?」
「そ、それって、つまり告白って事よね?」
赤面しながらもじもじとしていたメラルーシィだが決意を込めて告白する。その言葉に確認するようにリリアーナは尋ねた。
「も、勿論です。お姉様の事どうしても諦めきれなくて、アルベルト様とはずいぶん前に婚約廃棄の話を付けてきました。ですから、今の私は誰とも婚約しておりません。リリアーナ様と結婚したいのです。どうぞ私の婚約者としてお付き合いくださいませんか」
「わ、私もね。ずっと前からメルの事大好きだった。だけど、貴女には婚約者であるアルベルトさんや他にも沢山のご友人がいる。……貴女をいじめる事をエルさんから命令されてその通りにしてきたけれど、それは本意ではなくて、メルが誰か好きな人と結ばれるのであればとの思いでやってきた。でも……メルはずっと私の事を見てくれていたのね。ごめんね、貴女の想いに気付くのが遅くなってしまって――きゃあ」
お互い赤面しながら話し合っていると急に彼女に抱きつかれリリアーナは驚く。
「お姉様。嬉しいです。お姉様も私の事が大好きだって言ってくれて……私、私はずっとそのお言葉をお待ちいたしておりました。これからもどうぞよろしくお願い致します」
「勿論よ。メルは私がずっと守りたいと思っていた程大好きで大切な人なのだから」
頬をすり寄せ嬉し涙で語るメラルーシィへと彼女も優しく微笑み答える。
桜吹雪の中二人はゆっくりと重なり合いその頬にキスを落とした。
******
エルシアの場合
季節が一巡して春を向かる。三年生へとなったエルシアはリリアーナの下へとやってきた。
「リリア、少し宜しくて」
「エルさんどうかされましたか?」
始業式も終り寮へと戻ろうかと思っていたリリアーナの前へと令嬢が訪れる。
既に人が出払い二人だけの教室に一瞬の静寂が訪れた。
「……い、一度しか言いませんわ。よくお聞きになっていましてね」
「はい?」
頬を赤らめ言う事をためらっている様子のエルシアへと彼女は首をかしげて次の言葉を待つ。
「~~っ。わ、私は貴女のことが……す……」
「す?」
赤面してもじもじする彼女の様子が今までの悪役令嬢と呼ばれていた姿に似つかわしくなくてリリアーナは一体どうしたのだろうと思う。
「ですから、その。す、好き……なのですわ」
「私もエルさんの事好きですよ」
頬を赤らめようやく紡がれた言葉にいつもと同じ口調で答える。
「そ、その友人として好きと言っているわけではございませんの! 私は恋愛対象者として貴女の事が好きだと言って差し上げているのですわ」
「っ!?」
しかしその「好き」ではないとエルシアが半分叫ぶように言う。その言葉で令嬢がどうしても伝えたがっている言葉の意味に気付いたリリアーナは衝撃を受け固まる。
「つ、つまり。エルさんは私の事を愛しているという意味での好きという事ですか」
「そ、そうですわよ。何度も言わせないでくださいな……ばか」
驚いた顔で話す彼女へと令嬢が頬を赤らめたまま震える声で呟く。
「……」
「リリア、返事をなさい」
余りの事に思考が停止している様子のリリアーナへとエルシアが命令する口調で尋ねる。
「私も、エルさんのことその、す、好きです。最初はとても嫌な事ばかりされるので好きにはなれませんでしたが、でも、ここ最近のエルさんの様子を見ていたら何だか可愛らしく見えてきて、気が付いたら好きになっていました」
「リリアにいろいろと酷いことした事は謝っても謝り切れませんわ。でも、貴女の事を好きだと気付いた時から私変わろうと思いましたの。ですから、これからも私の側で変わっていく姿を見守ってくださいません事」
「勿論です。誰よりも一番長く貴女の側にいた私がエルさんが変わっていく姿を見てきましたので、これからもどうぞお側に置かせてくださいな」
二人だけの空間で遠慮することなくお互いの気持ちをぶちまける。
「っ、リリア!」
「きゃあ」
途端に堪えていた感情があふれ出した様子でリリアーナへと抱きつき涙を流すエルシアに驚きながらも受け止める。
「私、貴女に嫌われても当然でしたのに……私の事をそこまで想ってくださっていて嬉しくて……涙が止まりませんの」
「うん。エルさん……私はちゃんと分ってますので、大丈夫ですよ」
「リリア、あ……有り難う。私貴女の事本当に心から大好きですわよ」
「私もです。これからもよろしくお願い致します」
涙でぬれた顔で朱に染まる頬で美しく微笑み言い切った令嬢へと彼女も赤面しながら答えた。
(ゲーム画面で見ていた時には大嫌いだったけれど、でも。この世界に来て側に居続けて気付いたエル様の素顔に、私はいつの間にか好きになっていたのよね)
「エルさん。愛してます」
「私の方が貴女の事を愛しておりますわ」
内心で呟くとリリアーナはにこりと微笑み言う。するとエルシアも頬をさらに赤らめて答える。そうして静かな教室で二つの陰が一つになった。この甘く幸せな時が一瞬でも永遠に続きますようにと願いながら。
******
アルベルトの場合
冬休みも終り始業式が始まった日の午後。リリアーナは寮へ戻るために学校を出た。
「リリア、あ、あのさ。ちょっといいか」
「アルベルトさん?」
校門の前まで行くとアルベルトに声をかけられ立ち止まる。
「ちょっと付き合ってもらいたいんだが」
「はい?」
「だ、だからさ。お前に話があるんだよ」
「分かりました」
いまいち彼の言葉の意味が分かっていない彼女へとアルベルトが照れた顔で話す。
リリアーナは不思議に思いながらも彼の後を付いて行くと中庭の花壇の前で立ち止まる。
「……前にお前に言っただろう。メルとの関係をどうするのかちゃんと考えるって。そうして二人で話し合った結果俺達は婚約を破棄し、お互いそれぞれの人生を歩んでいこうって事で納得し合ったんだ」
「え、本当に婚約を破棄なさったのですか?」
(まさか、本当に婚約破棄するとは。という事はフレアと恋仲に!?)
静かな口調で語り出した彼の言葉に驚いて呟くとともに内心でも言葉を零し頬を赤らめアルベルトの次の言葉を待つ。
「あ、あぁ。お互いの為にもその方がいいだろうって事で話は決まった。だから、あの時言えなかった俺の想いをリリアに伝えたい」
「……」
真剣な瞳で彼女を見詰め彼が口を開く。リリアーナは黙って聞く態勢になった。
「……俺、お前と初めて出会った時メルの事をいじめるリリアの事が嫌いだった。だけど、お前をずっと側で見ていたらいつの間にか目が離せなくなって、気付いたらリリアの事好きになっていたんだ。リリア……君の事を誰よりも幸せにすると誓う。だから俺と付き合ってくれ」
「……へ? ……ええっ!?」
熱い瞳で言われた言葉に彼女は盛大に驚く。
「つ、つまり。それはその……婚約者としてお付き合いして欲しいとそうおっしゃっておりますの?」
「そ、そうだよ。それ以外に何があるっていうんだ」
「冗談でからかっていらっしゃるとか?」
「ばか、こんなこと冗談でも言うわけないだろう」
頭が混乱してしまったリリアーナの言葉に真面目に一言ずつ答えてくれるアルベルト。
「そ、それでは、本当に?」
「あぁ。好きだよ。付き合ってくれ……って照れるからこんな事何度も言わせんな」
ようやく整理出来た彼女が頬を赤らめ尋ねると彼が大きく頷く。
「……私もアルベルトさんの事ずっと前から好きでした。優しくて頼りがいがあって誰よりも人の為に動くそんな貴方が……ずっと」
(ゲームをしていた頃から大好きでした)
声に出して言えない言葉を心の中で呟いた。
「そっか……良かった」
「ぅ~ぅ。は、恥ずかしい~」
安堵した様子で微笑むアルベルトの姿を直視できなくてリリアーナは顔を覆って隠す。
「リリア……さっそくで悪いが、春休み期間中に両親に話を付けに行かないといけない。メルと一緒に俺の家敷まで来てくれないか」
「メルさんもご一緒に話を付けてくると言うわけですわね。分かりました。付き合います」
彼の言葉に了承するとそっと彼が近寄って来る。
「それじゃあ、寮まで送るよ」
「はい、ナイト様。私を無事に部屋まで送ってくださいな」
右手を差し出すアルベルトの手を取ると照れた顔で微笑みお願いした。
ぎこちない二人のお付き合いはまだ始まったばかりである。
******
ルシフェルの場合
季節が廻り春がまた訪れた。始業式が終わって寮まで戻ってきたリリアーナは扉を叩く音に反応して立ち上がる。
そこには難しい顔をして突っ立っているルシフェルがいて彼女は不思議そうに彼を見上げた。
「何か御用ですか?」
「……これを君に」
「はい?」
用件を尋ねると高級な紙で作られた封筒を差し出す。それを受け取りながらもルシフェルの意図が分からず怪訝そうにする。
封筒を手渡したら早々に立ち去ってしまう彼を見送るとリリアーナは手渡されたそれを見詰めた。
「ねぇ、この封筒なんだと思う?」
(気になるなら開けて中を確認したらよろしいではありませんの)
一人の空間の為大声でもう一人のリリアに尋ねる彼女へと心から返事が戻って来る。
「それもそうね……これって、チケット?」
(有名な音楽家の演奏会のチケットのようですわね。このチケットは中々手に入るものではありませんのよ。貴族の間でも手に入れるのに何年もかかると言われているほどすごく有名な音楽家の……それをルシフェルさんが貴女に贈るとは……何か意味がありましてよ)
封筒の中に入っていたチケットを見て不思議がるリリアーナへと心の中の自分が話す。
「意味があるって、どんな?」
(鈍いですわね。デートのお誘いに決まっているではありませんの)
「へぇ!? デ、デート?」
もう一人の自分の言葉に驚いて慌てふためく。
「なんで、どうして、ルシフェルが?」
(落ち着きなさいな。これは彼にしてみてもかなり勇気を持った行動ですわよ。彼からのお誘い受けますの? それとも断りますの? どちらなのです)
パニックになっているリリアーナへとリリアが落ち着かせるように話し決断を迫る。
「う……い、いくよ! だって、ルシフェルが勇気をもって誘ってくれたんだもの」
(そうと決まったらさっそく準備ですわ)
彼女の答えにもう一人の自分がやる気満々で話す。
ドレスアップしたリリアーナは時間がないとリリアに急かされ待ち合わせ場所である広場へと向かう。
その頃、待ち合わせ場所で待っていたルシフェルが時間まで待ってもやってこないリリアーナの様子に帰ろうかと思ったところで彼女が全力で走って来る姿が見えてきてそちらへと体を向けた。
「っ!? その格好で走って来たのか? 転んだりしたらどうするつもりだったんだ」
「時間に遅れてしまいそうだったのでって……きぁあっ」
「っ!?」
彼の言葉に応えているとドレスの裾を踏んづけて転んでしまう。瞬間ルシフェルの上へと倒れてくるリリアーナを慌てて受け止めた。
「だから言っただろう。転んだらどうすると……」
「ご、ごめんなさい。ルシフェルさん有難う御座います」
抱き留められて顔が近くなった二人は頬を赤らめ照れながら話す。
「さ、行こう。コンサートが始まってしまう」
「はい」
そうして彼のエスコートの下コンサートを楽しんだ二人は夜の闇に染まるテラスへと向かった。
「その、お前の事妹みたいな存在だと前に言ったが、それについて違和感を覚えていた。その答えが見出せなくてずっともやもやしていたが、ようやく気付いたんだ。いや、気付いてはいけないと蓋をしていただけだった。おれはリリアの事が好きだ。だから今日コンサートに誘った。君にとっては突然の事で戸惑っただろうが来てくれたという事は……」
「答えは勿論、イエスですよ。私ルシフェルさんの事ずっと前から好きでしたので」
(亜由美として生きていた頃、ゲームをした時に見た貴方のルートを知ってからずっと……)
暗闇の中でもわかる程頬を赤らめているルシフェルへとリリアーナは答えた。同時に内心で呟き彼をじっと見つめる。
「リリア、愛している」
「私も愛してます」
二人はお互い微笑み合い月明かりに照らされるテラスでそっと愛を誓い合った。
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リックの場合
季節が一巡りし心おどる春が訪れる。リリアーナは桜並木を歩き学校へと向かっていた。
「リリア!」
「リックさん?」
リックの声が聞こえ周囲を見回すもどこにも姿がみえなくて不思議に思う。
「上だよ、上……よっと」
「きゃあ? ……はぁ、びっくりした」
桜の木から飛び降りてくる彼の様子にリリアーナは盛大に驚く。
「ここで君が来るのを待っていたんだ。あのさ、前に言いかけて邪魔が入って言えなかった言葉の続きいってもいい?」
「前に……あ、あの裏庭での出来事ですね。はい」
真剣な顔でそう話すリックの言葉に一瞬不思議に思ったがすぐに記憶が蘇り頷いた。
「リリア、僕は……君の事が好きだ。他の誰にも渡したくないって思えるほどに。だからちゃんと授業にも出るし、恥じない生き方をしていくって宣言する。僕が真っ当な生き方が出来るようになったら僕と結婚して下さい」
「……え、結婚!?」
彼の口から飛び出した言葉に彼女は驚く。
「うん、僕結構頑張ってるんだよ。ちゃんと三年生にもなれたしね。この学校を卒業して会社を立ち上げるんだ。そうしてきちんと生きていけれるだけの生計が立てられたら僕と結婚して欲しい」
「ちょ、とょっと待って下さい。本気で私と結婚を考えておりますの?」
リックの意外な言葉に慌ててリリアーナは声を挟み止めると頬を赤らめたまま尋ねる。
「冗談でもからかってもいない。真剣なんだけどな……」
「っぅ!? そ、それじゃあ……本当にわた、わた、私と」
勇気をもって告白したのにといった感じで悲しむ彼の様子に彼女は赤面してパニックになった。
「リリア、今すぐに答えられないかもしれないなら返事は急がない。だけど、僕の気持ちはちゃんと伝えたよ」
「待ってください! 私もリックさんの事が大好きですわ。貴方の過去に触れて、いろいろな物を背負いながら懸命に生きようとするリックさんの事が好きでした」
(ゲームをプレイしてリックの過去に触れるイベントを見てからずっと……ずっと好きだった)
立ち去ってしまいそうな彼を慌てて呼び止めリリアーナは話す。
「リリア、有り難う! 大好き」
「っぅ~~!?」
途端にリックが抱きついて彼女の頬へとキスを落とす。その言動に赤面してしまった彼女は暫くその場で固まる。
(はいはい。お幸せに)
心の中から呆れながらも祝福してくれるもう一人の自分の声を遠くに聞きながらリリアーナは彼へとお返しに抱き締め返した。
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フレアの場合
春になりフレアは三年生になる。そうなって来るとそろそろ卒業を考えるようになり、いてもたってもいられなくなった彼女はリリアーナの部屋へとやってきた。
「フレア様如何なさいましたの?」
「うん、今日はリリアにちゃんと伝えたい事があってね。話、聞いてくれる」
行き成りやってきたフレアの様子を不思議に思い見つめる彼女へと王女が説明するように話す。
「はい?」
「前にリリアが私に尋ねて来たでしょ。この学園の中に好きな人がいるって話して誰の事が好きなのかって」
「はい、尋ねました。それで、その相手とは一体……」
不思議がるリリアーナへとフレアが話し出す。その言葉に瞳を輝かせ食らいつく彼女へと真剣な眼差しで王女は次の言葉を口にするため姿勢を正した。
「それは……それはね」
いざ言おうとすると恥ずかしくなってしまったようで口ごもる王女の様子に、リリアーナは次の言葉を待つ。
「それはね、わたしがこの学園で好きになり、結婚したいとまで考えている相手は……リリア、あ、貴女の事よ」
「…………へ?」
頬を赤らめ話切ったフレアの様子を呆気に取られて見詰める。まさか自分の名前が出てくるとは思わず思考が止まってしまったのだ。
「え、えっ!? 私ぃ!?」
「あははっ。いきなりで驚くわよね、そりゃ」
盛大に驚くリリアーナの様子に王女がひとしきり笑うと、真面目な顔へと戻る。
「他のライバル達に先を越される前に貴女に気持ちを伝えておきたいと思ってね。リリア、わたしは本気で貴女を愛しているの。他の誰にも渡したくない程にね。返事はすぐに出せなくても構わないわ。でも、わたしが卒業するまでには答えを出してもらいたい」
「フレア様……私の事を本気で好きになってくださったのですね。……私もフレア様に出会って、側で一緒にいるようになって貴女の魅力にずっと惹かれておりました。これが恋心なのかどうかわかりませんが、私貴女の事友人としての好きでは見ていないと思います。だからその……きぁ!?」
王女の気持ちを知ったリリアーナは抱いている想いを伝えた。途端に抱き締められ驚く。
「今はそのままでいいわ。でも、その気持ちが本物だって事わたしがこれから教えてあげるから」
「フレア様顔が近い、近すぎますわぁ~」
抱きついてそう囁くフレアへと彼女は顔を真っ赤にして叫ぶ。
これが恋心というのか今は分からないリリアーナでも両思いだと気付く日が来るのはそう遠くなさそうだ。
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ルーティーの場合
春になりリリアーナは三年生になった。始業式も終わりを迎え日常が戻り始めた頃。
「リリアさ~ん」
「ルーティーさん。今日はお一人ですか?」
明るい声が聞こえてきてルーティーが駆け寄って来る。いつも一緒にいるマノンの姿がないことを不思議に思いながら彼女がやって来るのを待つ。
「今日はとても大事なお話をしたくて、それでマノンには向こうで待っていてもらっているんです」
「大事なお話?」
ルーティーの言葉に彼女は首を傾げた。
「はい。あのですね、私この気持ちの正体に気付いてしまってからずっと悩み続けて、でももううじうじと考えるのはやめにしました。リリアさん聞いてください。あのですね、私リリアさんの事が大好きです。ですからこの気持ちを受け取ってください」
「私もルーティーさんの事大好きですわよ」
「違います~。その大好きではなくて恋愛対象者としての大好きなんです」
「へ?」
ルーティーの言葉に笑顔で答えると、途端に困った顔で説明する彼女の発言にリリアーナは硬直した。
「女の子同士の恋愛なんて良くないかもしれませんが、でもこの気持ちに嘘を吐くことが出来なくて……ご迷惑でしたか」
「そ、そんなことは……私もルーティーさんの事大好きですわ。ただ、恋愛感情を持って良い訳がないとずっと思っていましたので、とても大切なお友達のまま関係が壊れて欲しくないと思っていましたの」
困った顔で話すルーティーへと彼女は慌てて答える。
「へへへっ……な~んだ。それなら相思相愛だったんですね」
「そ、そのようですわね」
お互い照れてもじもじしながら赤くなった顔を隠すように俯く。
「ルーティーさん、お姉様。おめでとうございます」
「しっかりと見届けたよ。ルーティー良かったね」
「っ!? メルさん、マノンさん?」
ふいにかけられた声の方へと見るとにこやかに微笑むメラルーシィとにやりと笑うマノンの姿がありリリアーナは驚く。
「さぁて、今日は二人が恋人として結ばれた記念日としてお祝いしないとね」
「私ケーキを焼きますね」
「ちょ、ちょっと待って二人ともいつから見てましたの?」
勝手に話を進める二人へと彼女は慌てて問いかける。
「最初からですわ」
「最初からだよ」
「!?」
二人同時に言われた言葉にリリアーナは衝撃を受けた。
「私がちゃんと告白できるか二人は見守ってくれていたんです。さ、リリアさん参りましょう。今日は記念日ですから」
ルーティーが言うと彼女の手を取り寮へと向けて歩いていく。リリアーナはまぁいいかと思い微笑んだ。
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マノンの場合
始業式も終わりを迎え、日常が始まったある日。
「リリア、ちょっといいかな」
「マノンさん、ルーティーさんと一緒ではありませんの?」
図書室へと向かうリリアーナへと声をかけて来たマノンの隣にルーティーの姿がなく不思議に思う。
「今日はとても大事な日になるだろうからルーティーには向こうで待っていてもらっているんだよ」
「大事な日?」
彼の言葉に彼女はさらに不思議そうに首をかしげる。
「まぁ、いいからちょっと付き合ってよ」
「はい」
マノンに連れられて向かった先は学校の屋上。そこに来て何をするのだろうと思っていると彼が口を開いた。
「ぼく、これ以上は待ってあげられないから気持ちを伝えようと思う」
「?」
リリアーナの前に立ち口を開いたマノンの言葉に彼女は首を傾げる。
「……リリア、ぼくは君の事がす、好きだ。だからぼくと付き合ってほしい」
(なんだろう。どこかで聞いたことある台詞だなぁ……ってこれってマノンの好感度イベントの告白シーンと同じじゃ)
照れた顔で明後日の方向へと視線を向け語るマノンの姿にリリアーナは内心で呟き思い出した記憶に驚愕の表情で固まる。
「つ、つまり、私に告白なさっておりますの?」
「そうだけど、それ以外の何だと思ったのさ」
「っぅ~~」
確認する彼女へと彼が淡々とした口調で説明する。それに赤面してしまったリリアーナは俯く。
「リリア、返事は?」
「わ、私もマノンさんの事が好きですわ。側で貴方の事を見ていたらいつの間にか本気で好きになっていましたの」
(ゲームをやっていた時マノンのルートで彼の過去に触れたりした時よりも実際に目の前で本人から語られた言葉を聞いていたらいつの間にか本気でマノンの事好きになっていたのよね)
意地悪く微笑み尋ねるマノンへと彼女は火照った顔のまま答える。同時に内心でも言葉を紡ぐ。
「それじゃあ、今日からよろしくね」
「はい」
「ふふ、良かった。マノン、リリアさんおめでとうございます」
満足そうな顔で微笑む彼にリリアーナは返事をした。すると背後から拍手が聞こえてきて振り向くとそこにはルーティーが笑顔で立っていた。
「ルーティーさん何時からそこに?」
「最初からですよ。今日はとっても嬉しい日です。寮に帰ったら早速記念日のパーティーを開かないとですね」
驚くリリアーナへと彼女が答える。
こうしてルーティーに祝福されながら二人はお付き合いすることとなった。
******
セレスの場合
冬の終わり。ついに三年生が卒業を迎える日。セレスは誇らしいその日に憂鬱な気持ちで溜息を吐き出す。
「ついにこの日が来てしまいましたわ。……卒業してしまったらもうリリアに会えなくなってしまいます」
卒業おめでとうと言われるたびに実感する事実に彼女の表情は暗くなっていく。
「わたくし、このまま終わってしまうのは耐えられませんわ。せめてこの想いをリリアに伝えなくては」
思い立ったセレスが彼女の下へと向かう。
「リリア!」
「あ、セレスさん。ご卒業おめでとうございます。これから皆でお伺いしようとしていた所でしたのよ」
卒業生を見送る為沢山の在学生達が集まるグラウンドの前へとやってきた彼女がリリアーナの姿を見つけて声をかけ駆け寄る、その姿に彼女も笑顔になり近寄っていった。
「リリア、あ、あのですね。貴女にお伝えしたい事が御座いますの。少し場所を変えてお話宜しいですか」
「お話ですか? はい、分かりました」
セレスの言葉にリリアーナは答えると彼女の背について歩く。
「それで、お話とは何でしょうか」
「リリア。驚かないで聞いていただきたいのです。その、わたくし貴女と過ごすうちに特別な思いを寄せるようになりましたの。つまり……わたくしは貴女の事が恋愛対象者として好きなのですわ」
「へ?」
桜並木の広がる裏庭へとやって来ると立ち止まるセレスへと彼女は尋ねる。すると思ってもいない言葉が返ってきて驚いてしまった。
「驚くのも無理はありませんわ。わたくしも自分の感情を理解した時驚いてしまいましたもの。でも抱いたこの気持ちは本物ですわ。ですからこの想いだけでもリリアに伝えておきたいと思いまして」
「セレスさんが私の事をそこまで思っていてくださっていたなんて。私、私も貴女のこと好きですわ。でも、この気持ちが恋愛感情としての好きなのか普通にお友達として好きなのか分かりませんの」
頬を赤らめもじもじしながら話す彼女へとリリアーナは困惑した顔で答える。
「そ、そうよね。理解しろという方のが無理なお話ですものね。……っぅ。わたくしなんてことを。リリアを悩ませてしまっているなんて。ごめんんさい」
「あ、セレスさん待ってください! ……私、別に好きという気持ちの正体が分からなくて戸惑っているわけではございませんの。ただ、こんな感情初めてでその、異性ではなく同姓を好きになってしまった事が初めてなのでこの気持ちを素直に受け止めていいのかどうか迷ってしまって……」
自分の発言に後悔して慌ててこの場を立ち去ろうとするセレスの右手を掴むと彼女は自分の気持ちを一生懸命説明した。
「っ、リリア! わたくし嬉しいですわ。貴女もわたくしの事が好きだって言ってくれて……ゆっくりお互いの気持ちが本物なのかどうなのか確かめてまいりましょう」
「はい」
彼女がその言葉に感激して抱きついてくるとそれを受け止めながらリリアーナは笑顔で返事をした。セレスが卒業してもこれからも二人の関係は続いていく事だろう。
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フレンの場合
桜の花が咲き誇る春の陽気が暖かいある日。
「リリア、ここにいたのか」
「あ、フレン。如何したの?」
笑顔で中庭へとやってきたフレンがリリアーナの姿を見つけて微笑む。
「あぁ、リリアに話しておきたい事があってな」
「話?」
改まった口調で語る彼の様子に彼女は不思議そうに首をかしげる。
「……俺は、今まで君の事を妹の亜由美として見てきたつもりだった」
「……」
語り始めたフレンの言葉をリリアーナは黙って聞く。
「だが、フレンとして過ごしていくうちにその気持ちがいつの間にか変わっていた。妹ではなく異性として見るようになっていたんだ」
「フレン?」
そこで口を閉ざし次の言葉を言うべきかどうか迷っている彼の様子に彼女は不思議そうに見詰める。
「……リリア、君の事を兄妹としての好きではなく、恋愛感情の好きとして見るようになってしまった俺は変なのだろうか」
「え?」
真面目な顔で質問されてリリアーナはつい変な声を出してしまう。
「やはり、俺は変なんだろう。君の事に恋愛感情を抱いてしまうなんて。これは許されない事だ。リリアは亜由美でフレンである俺は君の兄だ。だからこんな感情抱いてはいけなかったのだ……」
「ちょ、ちょっと待ってフレン! 落ち着いて。全然変なんかじゃないわよ。だって、私も……」
苦しげな顔で語るフレンへと彼女は慌てて止めるように話すも自分の発言に口を噤む。
「リリア?」
「わ、私もお兄ちゃんだって思ってみていた時期が確かにあったわ。でもこの世界でリリアーナとして過ごして、フレンとして過ごす貴方の事をずっと側で見ていたら気付いたら私フレンの事を恋愛感情の方の好きで見るようになっていたのよ」
「っ!?」
急に黙り込んでしまったリリアーナへと彼が首をかしげる。気持ちを落ち着かせながら彼女は続きを語った。その言葉にフレンが驚く。
「だ、だから。全然変なんかじゃないわよ。それとも私達二人とも変になってしまったのかしら? 禁断の恋ってやつ?」
「くっ……はははっ。そうだとしたらそれこそ漫画や小説やゲームの設定だな」
自分の発言に頬を赤らめパニックになりながら言っている言葉が分からなくなっているリリアーナの様子に、可笑しくなって笑ってしまった彼がそう話す。
「そもそもこの世界自体が私達の世界ではゲームの世界だったのだものね」
「そうだったな。……リリア、今すぐにお互いこの気持ちの正体に答えを出さなくてもいいと思う。だからこれからゆっくりと答え合わせをしていこう」
「そうね」
彼女の言葉に笑顔でそう話すフレン。そんな彼を見て笑顔になったリリアーナは大きく頷き答える。
兄でも妹でもないリリアーナとフレンとしての人生はここからまた新たな始まりを迎える事となった。
******
エドワードの場合
季節が廻り冬が訪れた。三年生は卒業となりこの学園を去っていく。
「……もう、迷っている場合ではない。リリアに会いに行こう」
卒業証書を持つ手に力を込めながら決意を固めたエドワードは独り言を零しある場所へと向かっていった。
「リリア」
「あ、副会長。ご卒業おめでとうございます」
粉雪が舞う中リリアーナの姿を見つけた彼が声をかける。
「あぁ。有り難う……その。今日を逃すと後はないと思い。リリアに話をしなくてはと思っていたんだ。聞いてくれるか」
「ずいぶんと改まって一体どのようなお話なのですか?」
真面目な顔で話す彼の言葉に今日しかないという程の話とはいったい何だろうと身構えた。
「そ、そのだな……俺はずっとある事で悩み続けていた」
「前に言っていた人には相談できない程の悩みの事ですか」
エドワードの言葉に彼女は真剣な顔で話を聞く。
「あぁ、そうだ。それで悩み続けてついに答えが出せないまま今日まで来てしまった。だが……卒業してしまったら俺は家業を継ぐこととなる。そうなるともう今までのようにリリアに会うことも無くなるだろうと考え、このままではいけないと思った」
「はぁ……」
しかし語られる言葉の意味が分からず気の抜けた声しか出せなかった。
「それで、本日。こうして君に時間を取ってもらったわけだ」
「副会長。相変わらず生真面目な性格ですね。難し過ぎておっしゃっている意味がよく分かりませんわ」
堅苦しい言葉で話す彼の様子にリリアーナはついに訳が分からなくなってしまい困惑する。
「す、すまない。難しくしているつもりはないのだが……リリアにはもう少しストレートに伝えた方がいいのか?」
「そうですね。分かりやすく簡単な言葉でお伝えくだされば私でも理解できます」
まさか伝わっていないとはと焦るエドワードへと彼女は小さく頷く。
「わ、分った。簡単に手短に伝えよう。……つ、つまりだな」
「……」
そこまで言って顔を真っ赤にして俯いてしまう彼の様子に如何したのだろうと首をかしげる。
「お、俺はリリアの事が好きだ。愛しているといった方のが伝わるだろうか」
「っ!? 副会長が私を愛してるぅ!?」
赤面した顔を隠すように右手で覆い隠しながら早口で告げられた言葉にリリアーナは驚いて叫ぶ。
「め、迷惑だったらすまない。だが、今日を逃したらこの気持ちを伝える場がないと思ってな」
「い、いいえ。驚きは致しましたが、嬉しいです。私、副会長の事を側でずっと見ているうちに貴方の事が好きになっていって。でも副会長は一度だって私に好意を寄せているそぶりを見せなかったので諦めておりました」
「俺は密かにアピールしていたつもりだったのだが、そうか、気付いていなかったか。…………いや、ちょっと待て。今リリアも俺の事が好きになっていたといったか?」
「い、言いましたわ。言いましたけど」
お互い顔が沸騰しているのではないかという程赤く染めてたじろぐ。
「つ、つまり。リリアも俺の事をあ、愛してくれていたのだな」
「は、はい。いつの間にか愛しておりましたわ」
(ゲームでは分からなかった貴方の素顔や過去を知って惹かれていったんです)
エドワードの言葉に答えながら内心でも話す。
「「……」」
(まったく、お互い初心ですわね……でも、おめでたいお話ですわ)
お互い恥ずかしいやら嬉しいやらで赤面したまま俯く。そんな二人の様子はリリアーナの中にいるもう一人のリリアが見守っていたのであった。
******
キールの場合
卒業式が終わり在学生達に見送られながら三年生はこの学園の敷地を出ていった。そこまでが恒例の流れになっており、この後卒業生を盛大にお見送りするパーティーが開催される。最後の交流会というわけだ。そうしてその交流会の場で在学生は最後につながりを持ちたい先輩のネクタイやリボンを貰うというある意味ジンクス的な事が流行っていた。
「キール様卒業おめでとうございます。ぜひわたくしにネクタイを」
「ちょっと貴女何をおっしゃっていまして。キール様のネクタイは私のものよ」
「いいえ。わたくしが一番お側で長くお慕いしておりましたのよ。当然わたくしの物ですわ」
学園でも人気者で生徒会会長を務め特等生で学園ナンバーツーの成績を誇るキールとつながりを持ちたいという在学生の女生徒達が詰めかけ押し問答が起こっていた。
「うぁ~。やばい場面に遭遇してしまった……」
メラルーシィ達と生徒会のメンバーを見送ろうと彼等を探していたリリアーナはその様子に引きつった笑みを浮かべる。
「……失礼するよ」
「キール様? どちらに行かれますの」
「お待ちくださいキール様」
「わたくしのお話を――」
「邪魔だって言ってるんだよ。さっさとどいてくれない?」
『!?』
彼女を見つけそちらへと向かおうとするキールを止めるように女生徒達が群がる。ついに我慢の限界を超えた彼が黒い笑みを浮かべて言うと彼女達は慌てて道を開けた。
「……」
「へ?」
(何、会長顔が怖いよぅ~)
無言で近寄って来る彼の様子が怖くて怯えるリリアーナ。しかし長年の付き合いで逃げたらもっと怖い目にあうことを理解しているためその場にとどまる。
「……」
「え?」
彼女の前で立ち止まったキールがネクタイを外してリリアーナの右手を取り握らせる。その一連の行動に驚く彼女とざわつく会場。
「僕がネクタイを渡したいのはリリア、君以外にいるはずないだろう」
「か、会長?」
柔らかく微笑み語る彼の言葉にリリアーナは呆けた顔で呟く。
「リリア、このネクタイを受け取って頂けますか」
「……」
キールの言葉に彼女がどう返事をするのだろうと会場内が固唾をのんで見守る。
「私にネクタイを……それってつまり卒業した後も変わらないお付き合いをということですか」
「少し違うかな。僕の婚約者としてこれからお付き合い願いたい」
「……はい!? か、会長まさか本気で……ぅ~~」
冷静な態度を装い笑顔で尋ねるリリアーナに彼が即答で返す。その言葉に彼女は赤面して俯く。
「リリア……いや、かな」
「ち、違います。私まさか本当に会長が私なんかのことを好きでいてくれたなんて思っていなくてその、嬉しいのですが、言葉が出てこないのですわ――っぅ!?」
悲しげに揺れる瞳で言われた言葉に慌てて首を振って答えていると唇に軽くキスされ驚く。
「それが答えならもう躊躇ったりしない。君の事逃がしたりなんてしないから覚悟しておいてね」
「ぅ~~」
意地悪く微笑み言われた言葉に顔中沸騰して硬直するリリアーナ。
会場内から祝福する声と共に溢れんばかりの拍手と、フラれた女生徒達の諦めの溜息が響き渡った。
******
エミリーの場合
春が訪れ午後の陽気に包まれたある日。エミリーはリリアーナの様子を遠くからじっと見つめていた。
「はぁ~。本日もお美しいですわ。……どうして貴女様はそんなにわたくしの心を焦がしますの」
彼女を見る度に高鳴る鼓動に火照る頬。その正体はただの憧れではないのではないかと考え始める。
「もしや、そのような大事な事実に今まで気づかなかったなんて……わたくしはなんておまぬけですの。こうしてはいられませんわ。今すぐにでもこの事実をリリアーナ様にお伝えしなくては!」
ようやく自分の気持ちの正体に気付いたエミリーは急いでリリアーナの前へと駆け寄る。
「あ、あの……リリアーナ様」
「エミリーどうかしましたの」
勢い余って駆け寄ったはいいが彼女の顔を見た途端次の言葉を伝えることが出来ずに俯く。
「あ、あのですね。ですから、その……」
「落ち着きなさいな。一体どうなさいましたの」
もじもじとしているだけの彼女へとリリアーナは落ち着かせるように言葉をかける。
「で、ですから。わたくしはリリアーナ様の事がそのす……好きなのですわ」
「私もエミリーのこと好きよ」
ようやく口に出して言えたと安堵した時彼女もにこりと笑い答える。
「その、恐らく違うと思います。わたくしの言う好きという言葉の意味は恋愛対象者として愛しているという意味の好きなのですわ」
「へぇっ!?」
エミリーの言葉にリリアーナは驚く。
「わたくし自分の気持ちにようやく気付いたのですわ。リリアーナ様をお慕いしているうちに本当に恋をしてしまいましたの。ですからわたくしいてもたってもいられなくて……リリアーナ様愛しておりますぅ」
「ちょ、ちょっとエミリー貴女の気持ちは分かたわ。でも、私は今とても混乱してしまっていて、つ、つまり。エミリーは私の事を恋愛感情で見ているという事ですわね。でも私はまだエミリーの気持ちを受け取れませんわ」
抱きついてくる彼女へとリリアーナは慌てて説明する。
「リリアーナ様……」
「だって、私まだ貴女の事について知らない事ばかりですもの。で、ですからこれからもっとお付き合いを深めていきたいと」
フラれてしまったと思い涙目になるエミリー。彼女は今の発言では自分の気持ちがちゃんと相手に伝わっていないと思い言い直す。
「はい、これからもっともっと愛を深めてまいりましょう」
「……」
彼女が嬉し涙を浮かべながら言うとリリアーナの身体を抱きしめる。それに受け止め返しながら彼女は火照る顔を隠した。
******
シャルロットの場合
冬の終わりが訪れると三年生は卒業式を迎える。
「せっかくロトと仲良くなれましたのに、もうお別れなんて寂しいですわ」
「そうだね、僕ももっと早く君と知り合っていればと思うよ」
卒業生を見送るパーティーの席でテラスに立ち話し合うリリアーナとシャルロット。
「卒業なさったらハーバート家をお継になりますの?」
「いや、先生方の推薦を受けて王都にある大学へ行く事になっているんだ」
「あの、学力がないと入れないと言われている王都の名門大学校に推薦を受けていましたの?」
王都にある大学と言えば一つしかなく驚くリリアーナへと彼女がくすりと笑う。
「うん。だから当分こっちには帰ってこれない。大学を卒業したら家を継ぐことになっているんだ」
「そうでしたの……会えなくなると思うとまた更に寂しさが増しますわね」
シャルロットの言葉に彼女は寂しさで瞳を潤ませ呟く。
「そんなに僕と別れる事を寂しく思ってもらえて嬉しいよ。それに……そんな顔されてしまったらずっと隠しておこうと思っていたことも隠せなくなりそうだ」
「え?」
彼女の言葉の意味が分からなくて不思議そうに首をかしげる。
「リリアさん。僕は君と出会った日からずっと君の事が好きだった。大学を卒業して戻ってきたら僕と結婚して欲しい」
「……へ。け、けっ……結婚!?」
真剣な瞳でそう言われた言葉にリリアーナは驚く。
「待って下さいな。どうして行き成り結婚になるのですか?」
「だって、待っている間に他の誰かに君を取られたくないし。先に結婚の約束を取り付けておけば誰にもとられないでしょ」
「だからって婚約者を通り越して行き成り結婚だなんて……」
慌てる彼女へとシャルロットが説明する。その言葉に肩を落としてリリアーナは溜息を吐き出す。
「……君がどうしても今すぐ婚約者になりたいっていうなら婚約者としてお付き合いしてあげてもいいよ。そうすれば正式に結婚もできるでしょ」
「うっ……そう来ますか。……はぁ~。私の負けですわ。ロトの好きなようになさって下さいな」
にこりと笑い話す彼女の言葉に盛大に溜息を吐き出し呟く。
「それって、僕との結婚を了承してくれたってとってもいいのかな」
「私、ロトの事は好きですわ。ですから結婚だろうと、婚約だろうとかまいませんの」
「!?」
くすりと笑いシャルロットが言うとリリアーナは頬を赤らめ俯き答える。その言葉に彼女は目を見開いた。
「……っぅ!?」
「……僕のお姫様。君の事は絶対世界で一番幸せにしてあげる。だから今日の約束をずっと忘れないでね」
不意にふさがれる唇と伝わる熱に驚いて目を見開くと月明かりにあやしく照らし出されたシャルロットが美しく笑い語る。
「っ~~~~」
「はははっ。ごめん、つい。嬉しくてね」
沸騰しているのではないかという程赤面してしまったリリアーナの様子に彼女はおかしそうに笑って謝った。ここから二人の物語は幕を開ける事となる。
乙女ゲームの悪役令嬢に付き従ういじめっ子グループのリーダーというモブキャラに転生したので悪役を演じてみせましょう 水竜寺葵 @kuonnkanata
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