エピローグ
それから数か月後。リリアーナはシャルロットの様子を見に行く。
「ロト、あれからどうなりましたか」
「
部屋をノックし中へと入ると書類の山を整理するシャルロットの姿があり、彼女に気付いた途端にこりと優しく微笑み語り出す。
「それから、君に一つ謝らないといけないことがあるんだ。あの学園祭の時君を連れ去った男達を雇ったのは僕だよ」
「え?」
申し訳なさそうな顔でそう告げられてリリアーナは驚く。
「……あの悪役令嬢で有名なエルシアや裏の顔を持つと恐れられているキールを変えた君に興味を持ってね。それで、一度会ってみたいと思ったんだ。あの時はリリアさんの事なんて知らなかったから、抵抗されたら怪我を負わせてでもいいから連れて来いなんて言ったけど、君の事をちゃんと知っていたらあんな依頼なんかしなかった。怖い思いをさせてしまってごめんね」
「あぁ。そんなこともう気にしておりませんわ。それに皆が助けに来てくれたから怪我もなくこうして無事ですもの。だから、その事でもう自分を責めないで」
シャルロットの言葉に彼女はそんなこともう気にしていないと言って笑う。
「君は僕を許してくれるんだね。……リリアさん……貴女に頼みがあるんです」
「頼み?」
”彼”の言葉にリリアーナは目を瞬く。一体どんな頼みが飛び出してくるのだろうと見詰めた。
「本当は魔法を解く方法だって分かっていた。だけど、勇気がなくて……臆病だったんだよ。魔法を解いて女の子の姿に戻れば義父(おとうさま)と義母(おかあさま)を落胆させて悲しませてしまうんじゃないかって思ってね。……でも、もうその心配はないから。だから魔法を解こうと思うんだ。リリアさんには僕が元の姿に戻るのを見届けてもらいたい」
「ロト……分かったわ。私がちゃんと見届けますわ」
シャルロットの言葉ににこりと笑い了承する。
「有り難う。それじゃあ……始めるね」
「……」
床に魔法陣が現れ輝くと目の前に立っているシャルロットの姿が変わる。身長は少し縮み、胸は膨らむ。そして瞳を開いたその色はあの藤色ではなく夢の中で見た緑色だった。
「あの藤色の瞳は……魔法が発動されている時に現れるんだ。だから、嫌いだった。本当の自分を偽っているのを嫌でも思い出させるからね」
「そう……でも、藤色の瞳でも今の緑の瞳でも変わらず、やっぱりロトの瞳は透き通っていて綺麗だわ」
愁いを帯びた瞳で呟く彼女にリリアーナは思ったままの言葉を伝える。それにまた面食らった顔でシャルロットが硬直した。
「くす……有り難う」
照れた顔で優しく微笑むシャルロットが小さくお礼を述べる。こうして彼女は本当の自分として家族や己自身と向き合い生活していくこととなった。
「あ、そうだ。ロト、今度皆で貴女と友達になった記念のパーティーを開くのよ。ってことで逃げずにちゃんと来てよ」
「分ってる」
リリアーナの言葉に彼女は了承すると微笑む。
それから次の日曜日友達記念パーティーが盛大に開催された。
「えー。それではシャルロットと友達記念パーティーを開催します。……乾杯!」
『乾杯!』
相変わらず音頭をとるリックの言葉に皆それぞれジュースの入ったグラスを掲げる。
「それではこれよりルシフェルによるヴァイオリンと、エルシアによるピアノに、セレスによるフルートの演奏をお楽しみください」
学園祭の時に褒められたことがよほど嬉しかったようで、アルベルトがリックから引き継いで司会を務める。
「これから演奏する。お前達ちゃんと聞けよ」
「この私がピアノを弾きますのよ。ちゃんとお聞きなさいな」
「わたくしのフルートもちゃんと聞きなさいね」
以前まったく演奏を聞いてもらえなかった事を未だに引きずっているルシフェルが注意するように言うと、エルシアとセレスも根に持っているようできつい口調で言い放った。
「はい、お待たせいたしました。パイを焼いてきましたよ」
「私もクッキーを焼きました」
ルーティーとメラルーシィが出来立てほやほやの手作りパイとクッキーを持ってくる。
「俺もリリアから教えてもらった団子を沢山作ってきた。良ければ食べてくれ」
「僕もチェリージャムのタルトを持ってきたよ」
エドワードが団子の入ったお皿をテーブルに並べる横で、リリアーナとの話以来すっかり演じるのを止めて素を出すようなったキールがタルトを置く。
「ジュースもいっぱい用意したから好きなのを選んでね」
「わたしもオードブルのサラダやチキンとか用意しておいたのよ」
マノンの言葉に続けてフレアが料理を見せながら話す。
「俺も、いろいろと持ってきた。口に合うと良いが……」
「僕も頂いてばかりでは申し訳ないので、マフィンを焼いて持ってきました」
フレンが言うとテーブルの上に料理を色々と乗せる。そこにシャルロットもマフィンをバスケットから取り出しお皿へと並べた。
「わたくしもパンやライスを御用意いたしましたわ」
「凄い、まるで高級レストランのフルコース並みにいろいろあるわね。私は……これ。おにぎりと、卵焼き。それからお菓子は大判焼きですわ」
エミリーも料理人に頼んで用意してもらったというパンやご飯を並べる。豪華な料理の数々に、リリアーナは自分が作った物が霞んで見えてきてしまうと思いながらおずおずとした様子でおにぎりと卵焼きと大判焼きを取り出した。
⦅リリア (さん/様)の手作り!⦆
それに演奏をしていたはずのエルシア達も含めて皆の動きが止まった。
「え? み、皆如何したの?」
(はぁ……亜由美は相変わらず罪深い子ですわね)
その様子に彼女は驚いてたじろぐ。とそこへ内心から溜息交じりのもう一人の自分の言葉が聞こえてきたが、リリアーナは焦っていたため聞き逃してしまった。
「残さず綺麗に食べますわ」
「いいえ、食べる前に絵に描き残しておかなくては」
にこりと微笑みメラルーシィが言うとエミリーが自分の分を確保しながら紙とペンを取り出す。
「勿論、一番に頂けるのは幼馴染であり友人であるこの私ですわよね」
「何言ってんの。皆で美味しくいただくのよ」
エルシアの言葉にフレアが突っ込む。
「リリアの作った食べ物なら例え黒い塊であっても残さず食べるよ」
「だから、リリアがそんな失敗した物なんか作るわけないだろう」
にこりと笑い話したリックへとアルベルトが何を言い出すんだといいたげに呟く。
「わたくし嬉しくて涙が止まりませんわ……」
「この大判焼きも異国の食べ物なのか」
セレスが感極まって涙を流すとエドワードが大判焼きを手に取りしっかりと観察する。
「リリアは相変わらず異国の食文化に詳しいようだね。一体どこの国の料理なんだい」
「おにぎりに卵焼きそれから大判焼きか……懐かしいな」
キールが怪しく微笑む横でフレンがおにぎりを食べながらしみじみと過去を懐かしむように呟いた。
「私この大判焼き気に入りました」
「大判焼きってやつは食べやすくて好きかな。っ……これってクリーム。こんなに合うとは……新しい発見だね」
ルーティーが食べた瞬間優しい甘さが広がる大判焼きを気に入ったと言うと、マノンは焼き菓子の中からクリームが出てきたことに驚きながらも感想を述べる。
「だからお前達、一人一個までだ。こら、ちゃんと順番に貰わないか」
「く、ふふっ。リリアさんの手料理か……これは戦争だね」
ルシフェルが必死に呼びかける中シャルロットが不敵に微笑む。
「えぇっと。皆に喜んでもらえてよかったわ」
(何はともあれこれで一件落着でよかったってことですわね)
リリアーナの言葉に心からもう一人の自分が小さく笑い答えた。
こうしてセカンドストーリーのエンディングも見事塗り替えたリリアーナはこの学園での生活をこれからも続けていくこととなる。
====
あとがき
これにて悪役は完結に御座います。どんなに応援されてもこれ以上のお話はありませんので期待しないでください。まぁ、10000PV超えたらそれぞれの恋愛エンドのお話は投稿するかもしれません。そこまでPV伸びないだろうけど。ここまでご拝読下さいました読者様誠にありがとうございました。
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