二十七章 分かち合える時
リリアーナは歪みだした世界にとっさに瞳を閉ざしてしまった目を開ける。
「っ!?」
「お姉様!」
「リリア!」
目を覚ますとメラルーシィとエルシアの顔が目の前にあり、自分がどういう状況なのか理解できず不思議に思う。
「え、えぇっと……皆? 私、どうしてこんなに心配されているの」
「まさか、混乱しているのか?」
「そんな副作用はないって聞いていたけど……」
目を瞬き驚く彼女へとアルベルトとフレアが心配そうな顔で呟く。
「リリアさんは何者かが発動した古代魔法により夢の世界へと魂を閉じ込められてしまっていたのですよ。体調の方は大丈夫ですか?」
「えぇ。特に問題はないですわ。……夢の世界に閉じ込められた。っ! そうだ、ロト……ロトに会いに行かないと!」
医者の言葉に受け答えていたが一気に現状を理解するとベッドから飛び起きる。
「ロトに会いに行くって……如何してまた、急にそんな話になるんだ?」
「私を夢の世界に閉じ込めたのはロトなのよ。ロトに会って、ちゃんと話を聞きたい。そうじゃなきゃ、彼女は自分を殺したままだわ」
「ちょっと待って、彼女? 一体何の話だい」
フレンの言葉に答えながらベッドから抜け出すリリアーナにキールが怪訝そうな顔で尋ねた。
「話は後で致しますわ。とにかく急いでロトの所に行かないと」
彼女の言葉に皆疑問符を浮かべていたが、シャルロットに会いに行くというリリアーナに一人で行かせられないと付いて行く。
「……ロトは、跡取りがいないハーバート家の養子として選ばれました。それは、親戚の誰もが子どもがいなくて、唯一赤ちゃんが生まれていた彼女の本当の両親に白羽の矢が立ったからですの。そうして性別を偽り男の子として育てられた。そしてロト自身も自分を殺して生きてきたのですわ」
「つまり、話しをまとめると、ロトは女の子だったけれど、性別を偽り男の子として養子入りした。そしてロトも自分自身に男の子になる魔法を使った。それから今までハーバート家の長男として本当の自分を偽り生きてきた……という事だな」
シャルロットに会うため”彼”の部屋へと向かいながらリリアーナは説明する。彼女の言葉にエドワードが考え深げな顔で話す。
「ロトは私が秘密を知ってしまったから見逃すことが出来ないと言って、夢の世界へと閉じ込める魔法を使いましたの。でも……あの時の感情を押し殺した顔。私、ロトの事を助けたいのですわ。このままでいいはずがありませんもの」
『リリア (さん/様)……』
リリアーナの言葉に皆それぞれの考えを持ち彼女を見詰める。
「そうですか。それならば私達でロトさんを助けましょう」
「リリアだけ危険だと分かっている人物の下へ行かせられませんものね。仕方ありませんので、私も一緒に付いて行って差し上げましてよ」
メラルーシィが一番に声をあげるとエルシアもそう話す。
「私達がついていますので、大丈夫ですよ」
「何か起こりそうだったらぼく達も力になるから」
「あぁ、そうだな。魔法を使われたとしてもこっちには魔法解除のアイテムがまだ残っている。それで何とかしのげるはずだ」
ルーティーとマノンが言うと、アルベルトも力強い言葉を放つ。
そうしてシャルロットの部屋の前まで辿り着くと皆固唾を呑む。
「リリア。覚悟は良いな」
「えぇ。開けるわよ」
フレンの言葉に小さく頷き扉を引き開ける。
「リリア様、何かあるといけませんのでわたくしの後ろへ」
「わたくしも守りましてよ」
「おれ達が盾になる。リリアはあまり前へと出るな」
エミリーが言うとセレスとルシフェルもそう告げて彼女の前へと立つ。
「皆有り難う。でも、大丈夫ですわ」
「リリア……」
それににこりと笑い答えると一人先に中へと入る。その様子にキールが諫めるように呟くが、聞き入れてもらえないと分かり直ぐに後に付いて行った。
「……ロト」
「この部屋に何しに来たの。せっかく魔法が解けたのに、これ以上僕に関わるのは止めておけばいいだろう」
薄暗い部屋の中。床一面に広がる魔法陣の上に佇むシャルロットへとリリアーナは声をかける。すると”彼”が皮肉たっぷりに言い放った。
「もう一度あなたとちゃんと話がしたいと思ったのよ。このまま終わりなんって私にはできなかったのですわ」
「どうして……どうしてさ。僕に関わればまた魔法で夢の世界に閉じ込められるかもしれないのに、それなのにどうして、君はここに来たんだ!」
彼女の言葉にあの嫌いだと言っていた藤色の瞳を鋭く細め睨みつけながらシャルロットが叫ぶ。まるで悲痛な心からの助けてのメッセージの様にリリアーナは感じ取った。
「私、夢の中であなたの過去を見ましたの。ロトが辿ってきた人生のほんの一部だけれど、それを見ておきながらこのままロトを放っては置けませんわ。あなたは……あなたはこのままで本当によろしいのですの? 自分を偽たまま、本当のあなたを殺してまで生き続けていてそれでよろしいのですの」
「それが、僕の両親も
語り掛けるように静かな声で尋ねる彼女を拒絶するように俯き震える”彼”へとリリアーナはかまわず一歩踏み出す。
「来るな!」
まるで魔法陣に近寄るなといいたげに放たれた言葉に足を止めると真っすぐにシャルロットを見詰めて彼女は口を開く。
「……ロトが本当はどんな人物なのかなんて構わない。私の知っているロトは男だろうが女だろうが常に凛としていて優しくて友達思いで、堂々としていて、いつも頑張っているそんな真面目で頑張り屋さんな素晴らしい人よ。だから、私は友達としてこのままロトの事を放っては置けないの」
「っ!?」
必死になるあまりお嬢様口調が抜けて素が出てしまったリリアーナの言葉に“彼”は大きく目を見開き硬直する。
「ロトはロトよ。それ以外の何者でもない。あなたはありのままのあなたとして生きていくべきだわ」
「リリアさん……っ」
天使の様な微笑みを浮かべ語り切った彼女の言葉にシャルロットは俯き涙を零す。途端に床一面に広がっていた魔法陣が消える。
「僕はただ……ここから抜け出すきっかけが欲しかっただけなんだ。お父さんやお母さんや
顔をあげたロトは重荷が取れて吹っ切れたような清々しい笑顔を浮かべていた。
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