二十四章 進展?
図書室に本を返しに行った日の夜。リリアーナは再びあの不思議な夢を見ていた。
「あれ、何だか見たことある夢ね……」
周りを見回しても木ばかりの薄暗い森の中。しばらく歩くと古びた洋館が姿を現す。
「……そうだ、思い出した。これ前に見た夢と同じだわ」
(亜由美、亜由美。聞こえまして?)
洋館の前までやって来るとそれを見上げながらずいぶん前に見た不思議な夢の内容を思い出す。と、そこに辺り一面に響き渡るほどもう一人のリリアの声が近くから聞こえてきた。
「ひゃ? びっくりした……そんなに大きな声をあげなくても聞こえているよ」
(どうやら上手くいきましたわね。……亜由美の意識に私が呼びかけておりますの。このまま私の存在を感じてくださいな。そうすれば亜由美の目を通して私もこの夢を見れますの)
耳元で大きな声が聞こえ驚いたリリアーナは少しだけ文句を言うように呟く。するともう一人の自分が安堵した様子でそう説明した。
「分かったわ……リリアの存在を感じるのね」
(……亜由美の中に戻れましたわ。なるほど、これが例の夢ですのね)
もう一人のリリアの存在をしっかりと感じ取ると再び瞳を開く。すると心の中から声が聞こえてきた。
「この建物の中に前は黒いローブを着た人物が佇んでいたのよ」
(そう……とりあえず中へと入ってみましょう)
リリアーナの言葉にもう一人の自分が呟くと促される形で中へと入る。
「……お邪魔します」
やはりこの前と同じように薄暗いエントランスの中。誰も住んでいないのかとても寂しくそして不気味なその場所に以前と同じ黒いローブ姿の人物が佇んでいた。
「あの、あなたは……」
「……」
勇気を出して声をかけてみるが何の返事も貰えず。そっとその人物に近寄り再度呼びかけをかけようとした時、何故か頭の中にシャルロットの姿が思い浮かんだ。
「もしかして、あなたはロト?」
「……っ」
そう言って腕を伸ばしローブ姿の人物に触れようとした途端意識が剥奪していき視界が一瞬にして黒一色へと染まる。
「っ!?」
勢いよくベッドから起き上がったリリアーナは辺りを見回し、自分の寮の部屋の中にいることを確認すると、激しく波打つ心臓の音が静まるのを待ちながら落ち着きを取り戻した。
(亜由美、無事ですの?)
「え、ええ。大丈夫。またあの変な夢を見たのよ」
(今回は私も見ましたわ。薄気味悪い森の中に佇む洋館と黒いローブ姿の人物の夢を……本当に不思議な夢ですわね。まるで……)
「リリア?」
まるで実際についさっきまで体験していたかのようだという言葉を飲み込み黙り込むもう一人のリリア。急に声が返ってこなくなったことを不思議に思いリリアーナはそっと呼びかけてみる。
(何でもありませんの。兎に角薄気味悪い夢を見ましたわね)
「そうね。でもただの夢だし気にする事ないわ」
慌てて返事をする心の声に彼女はにこりと笑い言い切る。
それから少し早いが学校へと登校する支度を整え、皆が迎えに来てくれる時間までに優雅な朝食をとり過ごす。
(……やっぱり気になりますわね)
「まだ今朝の夢の事を考えているの? あんなのただの夢じゃない」
午後の授業が始まった六時限目の間の休息の時間。花壇の花に水やりの当番であるリリアーナはホースを持ち作業をしていると、不意に内心から声が聞こえてきたので答える。
「リリアさん。お花に水やりの当番お疲れ様です」
「あ、ロト。こんなところで如何したの」
内心から返事が戻ってくる前に誰かに声をかけられそちらを見ると柔らかい微笑みを浮かべるシャルロットが立っていた。
「僕は移動教室の為教室に向かっていた所です。ところで先ほど何か呟いておられませんでしたか、夢がどうとかって」
「え、えぇ。最近よく不思議な夢を見るのですわ。気が付いたら薄暗い森の中に立っていて、しばらく歩くと古びた洋館が佇んでおりますの。それで中へと入ると明かりは灯っておらず真っ暗な中に黒いローブを見にまとった人物が静かに立っているという夢ですわ」
彼の言葉に今朝見た夢の話をする。
「そうですか。でもただの夢でよかったですね」
「え?」
話を聞いたシャルロットが言った言葉の意味が分からずに首を傾げた。
「だって、見たこともない薄暗い森の中にいて、不気味な洋館があり、誰かもわからない人物が佇んでいるなんて、実際に体験したら怖いじゃないですか」
「あぁ。そう言う事ね。確かにまったく知らない場所に一人きりで誰かもわからない人と出会ったら怖いと思うけれど、でも……その人物がロトだったら怖くないわ。だって知り合いですもの」
くすりと笑い言われた言葉に理解してそう話し微笑む。
「え?」
「へっ?」
目を丸くして驚く彼にまたまた何かいってはいけない言葉を言ってしまったのだろうかと冷や汗を流す。
「……そんなふうに言われたのは人生で初めてだよ。やっぱりリリアさんは面白い人だね」
「ロト?」
ふっと寂しげな顔で微笑み言われた言葉の意味が分からず目を丸くする。
「それじゃあ、僕はもう行くね。リリアさんも授業に遅れないように気を付けて」
「……」
シャルロットがそう言うと立ち去っていく。その背中を何故か見えなくなるまで呆然と見送ったリリアーナであったが授業開始十分前を告げる鐘の音に慌ててホースを片付け教室へと戻って行った。
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