二十五章 不思議な夢の真実
シャルロットの言動が気になったリリアーナであったが、あれから特に出会う機会もなく、一日を過ごし床に就く。
「ロト、何だか物悲しそうだったのよね……どうしてかな」
(……)
ベッドに横になりながら大きな独り言を呟くがそれにいつものように内心から返事が戻ってこなくて不思議に思い首をかしげる。
「リリア?」
(…………)
「ねぇ、リリアってば、どうしたの?」
(え? 亜由美何かおっしゃいましたか)
呼びかけに答えない様子に大きな声をあげると内心からようやく反応が戻ってきて安堵する。
(まったく返答がないからひょっとして消えてしまったんじゃないかって心配しちゃった)
「もしかして昼間の事を考えていたの?」
声に出して言えない言葉を心で呟きながら口を開く。
(えぇ。……ロトはどうして亜由美に近寄るのかと思いましてね)
「ロトが私に近寄る理由を考えていたって事? また、どうして」
もう一人の自分の言葉に不思議そうな顔で問いかける。
(それは……今は言えませんわ。もう夜も遅いですし、明日も学校がありますので休みましょう。また遅刻しそうになるなんて私の評価が下がりますのでね)
「答えてくれないって事ね。……はーい。遅刻は嫌なので休みます」
何事か言いたげにしたが口ごもり話を逸らすリリアへと彼女は答え目を閉ざす。それから暫くすると微睡む。やがて深い眠りの縁へと落ちて行った。
「はっ。あれ……またあの森?」
次に目を開けると三度あの不思議な夢の中にいた。周りを見回しても木ばかりの薄暗い森にリリアーナは目を瞬く。
(とにかく、いつもと同じかどうかはあの洋館に行ってみれば分かるのではありませんこと)
「そうね。今日こそはあのローブの人物と接触を成功させて見せるわ」
内心からもう一人の自分の声が返ってきたことに大きく頷き答えると足を進める。
しばらく進むとあの不気味な洋館が見えてきた。
「それじゃあ、乗り込むわよ」
(なんだか、言い方が納得いきませんけれど、えぇ。覚悟はできていましてよ)
取っ手を掴み真剣な顔で呟く彼女へと心の声が返って来る。そうして扉を引き開けると今回も薄暗い明かりの灯らぬエントランスが出迎えてくれた。
「……」
「ねぇ、あなた私の声が聞こえているでしょ」
やはり同じように無言で佇んでいる黒いローブの人物へとリリアーナは呼びかける。
「……」
「やっぱりあなたは……あなたはロトなんでしょ? 私がこの夢を見るのはいつもロトと出会った日の夜。だからあなたはロトなんじゃないの」
呼びかけに答えない相手へと一歩近寄り彼女は語り掛けるように口を開く。
「……っ」
「ねぇ、待って! あなたやっぱりロトなのね! ――――!?」
背後へと退き逃げ出そうとする人物へと駆け寄りその肩を掴む。すると瞬間フードが外れその人物の顔があらわになった。
「……ロト、あなたは……」
「……あぁ、そうだよ。これが本当の僕の姿だよ。君が昔出会った女であるシャルロットさ」
驚いた眼を見開き硬直するリリアーナへと、シャルロットが諦めたかのように皮肉に笑い答える。
「どういう事なの? どうして、いやどうやってって聞いた方のが正しいのかな」
「……女であるシャルロットは十歳の時に死んだ。それからはずっと僕は男として生きて来たのさ。僕は六歳の時に代継がいないハーバート家の養子として正式に向かいいれられた。娘ではなく息子としてね。義父(おとうさま)と義母(おかあさま)は後を継いでくれる男の子を探していた。しかし当時は身内の誰も子どもがいなかった。唯一赤ちゃんを産んでいたのが僕の本当の両親だった。だからそのまま僕が養子に選ばれた」
「……」
皮肉な笑みを浮かべたまま緑の瞳の美少女が語る。その言葉にリリアーナは黙って話を聞いた。
「両親は僕の性別を偽り男の子として僕を育てた。だけど、年を取るごとに胸が膨らんでいくのはさらしを巻いていたとしてもごまかせなくなってくる。だから、僕は胸が膨らむ前に今では途絶えた古代の魔法文明の書を読み漁ったのさ。どこかに性別を転換できる魔法があると信じて。そして見つけた。僕は躊躇うことなく本当の自分を偽る為に義父(おとうさま)と義母(おかあさま)の為に女としての自分をこの手で殺したのさ。古代の魔法は紐解くのに時間がかかったけれど習得してしまえば簡単に発動できた。僕は十歳の時に本当に男としての人生を歩み始めたんだ。それが僕の両親も義父(おとうさま)も義母(おかあさま)も望んでいたことだからだ」
「ロト、そんなこと言わないで。本当の自分を偽って男として生きていく道を選ぶなんてあなたは……あなたはそれで本当にいいの?」
語り切ったシャルロットへと彼女は首を振って問いかける。
「……秘密を知られてしまった以上は君をこのまま見逃すことはできない。君はここで永遠に夢の中で彷徨い続けるといい」
「待って、ロト!」
(亜由美、亜由美聞こえまして、ロトが何か施したみたいですわ。私にもどうすることも出来ません。しっかり、しっかりと自分を保つのですわよ、亜由美!)
”彼”が言うと急に辺りの景色が歪みだす。崩れる世界で慌ててシャルロットへとリリアーナは手を伸ばす。するとそこに必死に叫び呼びかけるもう一人の自分の声が聞こえてきた。
その声を最後に彼女の足元は崩壊していく。全てが暗闇へと包まれる世界で”彼”の何も映さない虚無の瞳を見た気がした。
それから翌朝。彼女の身に起こった事など知らないメラルーシィ達が何時ものようにリリアーナを迎えに寮の部屋までやって来る。
「お姉様、おはようございます。メラルーシィです。お姉様?」
「リリア、今日はいつになく遅いですわね」
「まさかまた寝坊してるんじゃないだろうな」
扉をノックして呼びかけるも返答がない様子にエルシアが腰に手を当てて呟く。
アルベルトの言葉に全員「リリアならあり得る」と納得してしまったので、仕方ないと言い聞かせながら部屋の扉を開け中へと入った。
「やっぱり、まだ寝ているのか……まったく、相変わらずお寝坊さんだな」
「リリア様、起きて下さいな」
小さく苦笑を零すフレンの横に立つエミリーが呼びかけるがまったく返答がない。
「リリアさん。朝ですよー。起きて下さい」
「リリア、遅刻しちゃうぞ」
よほど熟睡しているのだろうかと呆れながら今度はルーティーとマノンが呼びかける。
「お姉様――っ!? 冷たい!?」
「っ。まさか……」
肩を揺さぶろうとリリアーナへと右手を触れた瞬間、まるで死体の様に冷たい様子にメラルーシィが驚いて飛びのく。
キールが慌てて呼吸と脈があるかを確認する。かすかだが呼吸はしており、脈も弱弱しいが打っていた。
「死んでいるわけではないですが、この状況はまずいですね。この前も高熱を出して寝込んだことがありますので、一度お医者様に見てもらった方が良いでしょう」
「でも、昨日までとても元気な様子だったのに」
「わたくしもお茶会をした時にリリアに特に具合が悪そうな様子は見受けられませんでしたわ」
リックが不思議そうに呟く横でセレスも違和感はなかったと語る。
「兎に角、今は医者を呼ぶことが先決だろう」
「わたし急いでフロントに言って電話を借りてくるわ」
ルシフェルのもっともな言葉にフレアが部屋を飛び出して行った。
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