二十三章 想いを隠して
エドワードの意外な過去を知り、キールの裏表の感情に触れた翌日。リリアーナは休日という事もありのんびりとした時間を過ごしていた。
「ん、ん~。……のんびりと過ごすのは気持ちいい~」
(また、そうやってお嬢様らしからぬ言動は慎むようにと教育したはずですわよ)
「誰も見てないんだから、部屋の中くらいいいじゃない」
自室のベッドから遅めの目覚めを迎えると呆れた声が心から返って来る。それに小さく笑い彼女は答えた。
(まったく……亜由美には呆れますわね。よっぽど私と二人きりでの淑女レッスンを御所望なのですわね)
「以後慎みますわ」
黒い笑顔で語尾にハートマークがついていそうなもう一人の自分の言葉にリリアーナは早口で答え起き上る。
「さて、今日は図書室で借りた本を返しに行かないと」
(図書室……ロトもきっとおりますわよね)
本を机の上に乗せて手提げかばんに仕舞う作業をしながら彼女は言うと、リリアが語りかけてきた。
「そうね? 最近はメルと一緒に読書会とかでよく図書室を利用しているから、図書係であるロトとも大分仲良くなってきたけど、リリアはロトとあんまり仲良くしたくないの?」
(……いえ、仲良くしたくないとは考えておりませんわ。ただ――少しだけ気になることがありますの。でも、確信が持てませんので今はお話できませんわ)
「?」
不思議そうな顔で尋ねるリリアーナへともう一人の自分が答える。しかしその言葉の意味が理解できなくて彼女は更に首を傾げた。
(何でも有りません。お気になさらず)
「うん?」
考え深げな声が内心から返ってきて気にはなったが、これ以上尋ねたところで答えてくれないだろうと思い図書室へと向けて部屋を出る。
「リリア様。これからお出かけですの? わたくしがお供いたしますわ」
「エミリー。貴女どうして私の部屋の前に?」
扉を開けた途端エミリーの満面の笑顔が出迎えてくれて、驚きながら尋ねた。
「勿論、リリア様のご安全を守る為、本日も親衛隊の活動をしておりましたの」
「まさか、四六時中私の近くで見守っているというわけではありませんわよね?」
彼女の張り込み具合に若干恐怖を覚えながら問いかける。
「わたくしもそうしたい所ですけれど、さすがに学校や寮での規則を破るわけにはいかず……ですから活動が許される時間のみこうして、親衛隊のメンバーで交代しながらリリア様のご安全を守っておりますの」
「エミリー……貴女の気持ちは痛いほど伝わりましたわ。ですから、そんな無理をなさらずに、私の身の安全よりも貴女の身体を大切になさって下さいな」
エミリーの返事に引きつった笑みを浮かべながらリリアーナはお願いだとばかりに話す。
「わたくしの身を案じていただけるだなんて……う、うっ……リリア様はとってもお優しいお方ですわ」
(……疲れる)
感激して涙を浮かべる彼女を他所に小さく溜息を零す。
「私これから図書室に本を返しに行かないといけませんので、また、今度お話しましょう」
「えぇ。図書室まで親衛隊隊長であるこのわたくしが責任をもってお送りいたしますわ」
兎に角、図書室に行かないといけないのでそう伝えて別れようとすると、エミリーがにこりと笑い隣につく。ついてくる気満々の様子の彼女に気付かれないようにリリアーナは再度小さく溜息を吐いた。
それから護衛気取りのエミリーと共に図書室へと入ると本を返すためカウンターへと向かう。
「リリアさん、エミリーさんも。本日は如何なさいましたか」
「今日は本を返しに来ましたの」
カウンター越しに立つシャルロットがにこりと微笑み出迎えてくれる。リリアーナは本を返しに来たことを伝えた。
「そうですか。あ、リリアさんが拝読されていた著者の新刊が本日入りましたので、とっておきました。本日借りて帰られますか」
「えぇ。ドキドキする展開の続きがどうなったのかずっと気になっていましたので、早速借りて読みますわ。ロト、わざわざ取っておいてくださり有り難う御座います」
彼の言葉にわざわざ取っておいてくれたことに礼を述べる。
「エミリーさんも本をお借りになりますか?」
「…………いいえ。わたくし用事を思い出しました。リリア様申し訳ございませんが、ここで失礼いたします」
「え、エミリー?」
シャルロットが柔らかく微笑みエミリーへと尋ねると、雰囲気の変わった彼女がそう答え図書室を出て行ってしまう。その様子を不思議に思い呼び止めたが立ち止まることなく姿が見えなくなってしまった。
「エミリー如何したのかしら?」
「さぁ? とても大切な御用時でも思い出したのかもしれませんね。あ、こちらが新刊になります」
首をかしげるリリアーナへと彼も不思議そうな顔で答えた後、一冊の本を差し出す。
「有り難う……前から思っていたけれど、ロトの瞳って綺麗ね」
「え?」
それを受け取りながらいつ見ても吸い込まれてしまいそうなほど綺麗な瞳をしたシャルロットの目を褒める。その言葉に彼が驚いて目を丸めた。
「……」
「ロト?」
黙り込んでしまった様子に如何したのだろうとシャルロットの顔を見詰めると、悲しそうな苦しそうな表情で俯いていて驚く。
「……僕はこの瞳が綺麗だと思ったことは一度だってないよ」
「ロト……」
憎々しげに吐き出された呟きに彼女は返す言葉が見つからず黙り込む。
「ごめん。僕は少し本の整理に行くけど、貸出カードに名前を書いておいてくれれば後で処理するから」
(私、何かいってはいけないことを言ってしまったのかな?)
慌ててリリアーナの側から立ち去っていってしまう彼の後姿を見詰めながら、彼女は内心で呟き考える。
「私、何かまずいこと言ったっけ?」
(瞳が綺麗だなんて殿方には失礼な発言だったのではありませんの)
しかし考えてみても何も変な事は言っていないはずだと思っていると心の中からもう一人の自分の声が聞こえてきた。
「確かに、君の瞳は綺麗だねって言うのは男性が女性に対してよく使う落とし文句だったような気もするわ……ロト、気を悪くしちゃったかしら」
(まぁ、今更自分の発言は撤回できませんものね。気にしていても仕方ないのではありませんこと)
リリアの言葉に確かに失言だったと気付いた彼女は顔を青くする。その様子に呆れた声が返ってきて今さら失敗したと気付いたところでどうにもならないと肩をおとした。
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