二十二章 意外な真実
フレンと兄と妹としての話をして、セレスとイリスの関係を聞いた翌日。リリアーナは寮の自分の部屋へと向けて施設内の庭を歩いていた。
「リリア、少し良いか」
「あら、副会長。このようなところで如何なさったのです」
背後から誰かに呼び止められたため立ち止まり振り返ると、そこにはエドワードの姿があり目を瞬く。
「あぁ。この前教えてもらった材料で団子を作ってみたんだ。それで、良ければ試食をしてもらいたいと思ってな」
「分かりました。それじゃあ、あそこのベンチに座って食べますね」
彼の言葉に理解した彼女はベンチを示すと二人でそちらへと歩いていった。
「見た目はこの前食べたお団子を模してみたから問題はないとは思うのだが、硬さや味はこれで大丈夫だろうか」
「それでは、早速頂いてみますわね。……はむ。ん、ん……んん!?」
不安そうな顔でそう説明するエドワードの掌から包みを受け取ると団子を一つつまんで食べてみる。
「ど、どうだ……」
「美味しい! これとっても美味しいですわ」
自信がなさそうな顔で見詰めてくる彼にリリアーナはにこりと微笑み感想を述べた。
「そ、そうか。美味しくできていて良かった」
「でも、本当に副会長は勤勉よね。私が作ったお団子をまねて自分で作ってしまうだなんて」
ほっと一息つく様子を見ながら彼女は呟く。
「昔は勉強よりも体を鍛える事の方が好きだったがな。こう見えて幼いころは喧嘩ばかりしていた」
「えっ、副会長が? ……全然イメージがつきません」
ふむといった感じで語り出したエドワードの言葉に驚いて目を白黒させた。
「……キールは今では誰もが恐れる生徒会長となったが、昔はとても弱くてな。それで、あいつを守るために体を鍛え弱い者いじめをする輩共と喧嘩をする毎日だった。それが変わったのは……あいつがある
「……素敵。いつか想う大切な
語り切った彼の姿を見詰めてリリアーナは瞳を輝かせ話す。
「そ、そうか……そう思ってくれるか。そうか……リリアにこんな話をしたら呆れられるかと思っていた」
「呆れるだなんてとんでもない。いつか好意を寄せる
「いや、リリアはこれ以上変わる必要はない。今のままで十分に素敵な女性だ」
エドワードの言葉に首を振って答えると、彼が頬を赤らめ明後日の方向へと向きながら早口で言い切る。
「時間を取らせてすまなかったな。これから寮に戻るのだろう」
「えぇ。でも副会長の作ったお団子が食べれて、そして過去のお話が聞けて良かったです」
直ぐに冷静さを取り戻したエドワードの言葉に彼女は答えた。
「……その、キールの事だがあまり誤解をしないでくれ。あいつはあいつなりに君の事を想っているのだ。ただ、素直じゃないだけなんだ」
「はい?」
お話も終わったし寮へと戻ろうかと思った時彼が真面目な顔で静かな口調で話す。
その言葉の意味が理解できなくてリリアーナは不思議そうな顔をした。
「それでは、また学校で」
「……」
立ち去っていくエドワードの背中を見送りながら、彼が言った言葉を考えてみるが、何も思い浮かばず諦める。
それからすぐに気持ちを切り替え今度こそ寮へと向けて歩いていると前方に人だかりを見つけた。
「キール様。私の気持ちを受け取ってください」
「いいえ、キール様。ぜひわたくしの御心を受け取ってくださいまし」
「ちょっと貴女方お退きなさいな。私が最初に声をかけましたのよ!」
「うわ~。やばい場面に遭遇してしまった……」
目の前には大勢の女子生徒達に囲まれる天使の微笑みを浮かべるキールの姿があり、巻き込まれないうちにどこかへ逃げようと思っていると彼女に気付いた彼が視線を向けてにこりと微笑む。
(悪魔の微笑みだ!)
「すみません、皆様のお気持ちは嬉しいですが、私はこれから用事がありますので、また今度にしては頂けませんか。……でも。皆様のお気持ちは嬉しいですよ。貴女方の誰か一人を選ぶなんて私にはとてもできません……さぁ、これは持って帰ってください。私を想ってくださるならば、ね」
『きゃぁあああぁ~っ!! はい、キール様!』
リリアーナが内心で呟いているととても素敵な柔らかい微笑で女子生徒達を熱い瞳で見詰め答える。途端に洗脳されたかのように彼女達は目をハートマークにさせ一瞬にして三々五々のように立ち去っていく。
「ふん。誰があんな香水や化粧品の匂いで臭い女達を選ぶものか。……どうせ選ぶなら君みたいな飾りっ気も何にもない女のほうがマシだよね」
「会長心の声がだだ洩れですよ……」
女生徒達がいなくなった途端悪態をつくキールの様子に彼女は冷や汗を流しながら呟いた。
「聞こえるように言ってるんだよ。それより、今回は見逃してあげたけど、次に同じ場面に立ち会ったら君を巻き込んであげるから覚悟しておいてよ」
「二度と遭遇しないように気を付けます!」
腕を組み意地悪く話す彼の言葉にリリアーナは慌てて答える。
「と、いうより遭遇したくて遭遇したわけではありません」
「まぁ、そうだろうね。僕もまさかこんなところで待ち構えているとは思っていなかったし」
彼女の心からの叫びにキールも同意してくすりと笑う。
(……やっぱり苦手だ)
「……ねぇ。いい加減僕を見て身構える癖を直してくれないかな。僕は君に意地悪をしているわけじゃない。それとも……僕のこと嫌いなの」
小さく溜息を零したリリアーナの姿を見ながら彼が言うと悲しそうに瞳を揺らす。
「嫌いだなんって……そんなことはありませんわ。ただ……」
(苦手なだけです。なんて言えないし)
言いかけて口を噤むとどう答えれば正解かと考える。
「ただ?」
「ただ、生徒会長としての顔と普段の表情との差にどう対応したらよいのか分からず戸惑ってしまうのですわ」
返答するまで見逃してくれそうにない雰囲気に彼女は諦めて答えた。
「それって、つまりどっちが本当の僕の顔なのか分からないっていいたいの。少なくとも君に見せている方が本当の僕のつもりなんだけどね」
「そういう意味では……生徒会長としての姿は本当に非の打ちどころもないほど完璧で、誰にでも好かれるそんな振る舞いをしているのに、本当の素顔を隠すのはどうしてなのかと思って。私は公私ともに会長の素を見ていますので、演じていて疲れたりしないのかなと思いまして、というよりどうして普通に過ごさないのかなって不思議で……」
眉を寄せて尋ねるキールの言葉に今まで抱いていた気持ちをそのまま声に出して表す。
「はっ?」
「え?」
盛大に驚く彼の様子にリリアーナも目を瞬く。
「……」
(私何か変なこと言った?)
黙り込んでしまうキールの様子に自分の発言がまずかっただろうかと冷や汗を流した。
「……っ。ふっ……くくっ。ははははっ……そんなこと言われたの生まれて初めてだよ。そうだね。確かにあんな連中にいい顔して良い人を演じていたって疲れるだけだよ。先生達によく見られようと思って点数稼ぎしてきた結果がこれじゃあね。……でも、君に言われてはじめて気づいたよ。このままじゃ駄目なんだって。君は僕の本当の姿を見てくれているのに、僕は「まだ」君のすべてを理解できていなかったみたいだ」
「会長?」
黙り込んでいたと思うと笑いをこらえていただけのようで、涙目になりながら盛大に笑いそう語る。キールの言葉の意味が分からず彼女は首を傾げた。
「表の顔と裏の顔を使い分けて来たけど、そんなの必要ないって言ってくれたのはエドワード意外だと君だけだよ。有難うね」
「はい……会長。何だか吹っ切れたって顔してたな」
彼がそう言って立ち去っていく。その後ろ姿を見詰めながらリリアーナは呟いた。
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