二十一章 今はまだこのままで
ルーティーとマノンが抱えていた悩みと二人の絆の強さを知った翌日。リリアーナはセレスに呼ばれて生徒会室へと向かっていた。
「失礼します。……って、あれ? 誰もいない」
確かにお茶会をするからと呼ばれたのだが、訪れた生徒会室には誰の姿もなく首をかしげる。
「リリアか。生徒会室に何か用事でもあったのか?」
「あ、フレン。セレスにお茶会しようって誘われていたのだけれど、今いないみたいね」
扉が開かれ入ってきたフレンを見て笑顔になると彼女は説明した。
「セレスなら今日は妹さんの命日だとかでお墓参りに行っているぞ。戻って来るまでここで待っているか?」
「そうさせてもらうわ」
彼の言葉に相槌を打つと適当に選んだ椅子に座る。
「お茶でも出そうか」
「あ、それくらいなら私がやるよ」
「リリアが入れてくれるお茶は美味しいからな。だが、今は客人なんだから座って待っていてくれ」
フレンの言葉に椅子をひいて立ち上がりリリアーナは言う。それに彼が小さく笑い断ると、それもそうだと納得し座り直す。
「ほら、紅茶……好きだったろう」
「有り難う。う~ん。フローラルな香り。これは我が学園オリジナル商品。アカデミーブレンドね」
ティーカップを差し出されそれを手に取り一口飲むと途端に広がるエレガントな香りに浸る。
「あぁ、今これしかなくてな。今度来るまでに買い足しておく」
「紅茶をたしなみながら話し合いしたりするなんて、さすがは貴族が通う学園なだけあるわよね」
「普通の学校ではまずないだろうな」
フレンの言葉に紅茶を優雅に飲みながらリリアーナは話す。それに彼も相槌を打ってくれる。しばらく穏やかな時間が流れた。
「でも、今でも信じられないわ。まさかフレンが私のお兄ちゃんの生まれ変わりだったなんて。カミングアウトされた時は本当に天と地がひっくり返るんじゃないかってくらい驚いたわ」
「そこまで驚かなくてもいいと思うが……俺もリリアと初めて会った時なんとなく懐かしい感じがしたんだ。そして君の瞳を見て亜由美と同じ優しくて純粋に輝いている目だと気付いた。悪役として奮闘する姿をみて確信したんだ」
彼女の言葉にフレンも説明するように語る。
「こうしてお互い同じ世界に生まれ変わって来ていて、しかも記憶保持者同士とは有り難い。もう君は亜由美ではないし俺もリリアの兄にはなれないが、それでも前世では兄らしいことを何一つできなかった。だから、こちらではいろいろとやらせてもらうつもりだから、いつでも頼ってくれよ」
「うん。困った事があったら頼りにしているわよ……お兄ちゃん」
「まぁ、お兄ちゃんですって?!」
二人きりの空間で気を緩めて話をしていると、第三者の声が聞こえてきてリリアーナは聞かれてしまったと焦りそちらへと視線を向けた。
「リリアさん。誰がお兄ちゃんなのですの?」
「セレスさん。えぇ~っと。今のは違くてですね――」
「落ち着け……リリアには昔兄と呼んで慕っていた人がいたそうだ。それで、俺はその兄に顔がそっくりなのだと……だから、時々間違えてお兄ちゃんと呼んでしまうんだ」
視線の先に立っているセレスへと弁解しようとして素が出てきてしまっている彼女を黙らせるようにフレンが割り込んでくると、彼女の様子にリリアーナの最後の言葉しか聞かれていないと瞬時に判断し説明を入れる。
「まぁ、そうでしたの。……リリアさんにも昔兄妹のような関係の方がいらしたのですわね」
「そう言う事だ。お茶会をするのだろう。俺は邪魔しないように席を外す。二人でゆっくり楽しんでくれ」
納得してくれたセレスの様子にリリアーナが安堵している横でフレンがそう言って席を立つ。
「あら、せっかくならご一緒してもよろしくてよ」
「いや、女の子通しの嗜みに入るほど不届きではないからな。それにセレスも知っての通り、俺はこういうのは不慣れなんだ」
彼女の言葉に彼が首を振って答えると部屋を出て行ってしまう。
「……遅くなってごめんなさいね。今日は妹の命日でそれで家族でお墓参りに行っておりましたので」
「いいえ。私も後でイリスさんのお墓参りに行かせて頂きますわ。そこまで仲が良かったといえるかどうかは分かりませんが、幼少の頃から親しくしていただいた方ですもの」
彼女がリリアーナの隣へと移動し、棚の奥からセレス専用小物入れより高級茶葉を取り出すと、お湯を沸かし紅茶を蒸らしながら話しかけてきた。それに全然待っていないと答え後でお墓参りに行くと伝える。
「イリスもリリアさんがいらして下さればきっと天国で喜んでいますわ。……その、リリアさん。あなたも兄と呼ぶほど親しくしていた方がいらしたのですね。血のつながりなどはないのでしょうけど……そこまでお慕いする方とはいったいどのような方でしたの」
「もう二度と会うことは叶わないのだけれど、私の事をとても大切にしてくれて、いつも優しく見守ってくれていた……のだと思います。私とお兄ちゃんとの思いではいつもベッドのうえでしたが、それでも元気な時は私の為に本を読んでくれたりと、とても良くしてもらいましたわ」
セレスが尋ねてきたため嘘偽りのない真実を語る。
「そう、ですの。……リリアさんのお兄様ならきっと素敵な方なのでしょうね。一度もお会いできなくて残念ですわ」
(フレンがそうなんだけどね)
残念そう呟く彼女へとリリアーナは内心で呟き苦笑する。
「……わたくしは、イリスに良いお姉さんであったことがありませんでしたわ。わたくし達は母親が違う腹違いの姉妹でしたので、わたくしの母とイリスのお母様は仲が悪くて、それで幼い頃より会う機会もなかなか作ってもらえませんでしたの。イリスの母親が病に倒れて亡くなってから彼女を引き取りわたくしの母が育てる事になった時も騒動が起こったと聞いておりますわ。わたくしは心の中ではイリスと仲睦まじい姉妹でありたいと願いながら、母の顔色を窺いイリスを冷たく当たる毎日で、とてもよい姉ではなかったのです。元々体の弱いあの子に何もしてあげられないままわたくしは血のつながった妹を喪ってしまったのですわ。母も今ではとても後悔しておりますのよ。いくら母親通しでいがみ合っていたとはいえ、その娘には何の罪もないのに、生きているうちに仲直りできていればよかったと……今さら後悔しても遅いのに、ね」
「セレスさん……」
(セレスってゲームの設定では高飛車でわがままで意地悪なヒステリックな勘違い女ってイメージしかないのに、私の目の前にいるセレスは何処にでもいるただの女の子で……妹を大事にしてあげれなかった事を後悔する心優しい少女なんだわ)
セレスの意外な過去に触れてリリアーナは涙で滲む視界をごまかすようにそっと拭った。
「ですから、わたくし妹にできなかった分、貴女に何でもして差し上げたいのですわ。困った事があったらいつでも頼ってくださいね」
(フレンに言われた言葉と同じこと言われてしまった……)
にこりと微笑み言われた言葉に彼女は苦笑を零す。
「えぇ。分かりましたわ。セレスさんの事も頼りにしておりましてよ」
「なんなら、もう躊躇わずにわたくしの事もお姉ちゃんっとお呼びになっても構いませんわよ」
「それは、流石に……」
リリアーナもにこりと笑い答えると胸をトンと叩きセレスが言う。それに彼女は再び苦笑を零したのであった。
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