六章 攫われたリリアーナ

 午後一番に出番が来ると言っていたリリアーナのダンスを見るためにメラルーシィ達は彼女の教室へとやって来る。


「お姉様の姿が見当たりませんね」


「なんだか周りも騒がしいみたいだし、何かあったのか?」


教室の中に彼女の姿はなくメラルーシィが不思議そうな顔で呟くとルシフェルも怪訝そうに尋ねた。


「っ……あ、あの!」


「貴女はエミリーではありませんの。私達に御用でもありまして」


そこに血相を変えて駆け込んできた女子生徒が声をかけてくる。彼女はちょっと前までリリアーナが率いていたいじめっ子グループのメンバーの一人だった少女だ。話かけられたエルシアが何の用かと聞く。


「あ、あの。エルシア様。大変ですわ。わたくし見てしまいましたの。リリアーナ様が黒ずくめの男達に連れ攫われていく様子を」


『!?』


エミリーの言葉に皆驚き目を見開く。


「そ、それで。一体何処に連れて行かれるのだろうと後を追いかけましたら、港に誰も使っていない倉庫があって、そこへ入っていくのを確認致しました。このままではリリアーナ様にもしもの事があってはと思い、急いで戻ってきましたの。お願いです。リリアーナ様をお助け下さい!」


「助けに行くメンバーと警察に知らせに行くメンバーに分かれた方が良いですね。僕達生徒会は警察署へと向かいます。アルベルトさん達はこのままエミリーさんの案内で倉庫へと向かってください。エルシアさん達は犯人の隙を付いてリリアーナさんを助け出す。それからディトさんは騎士団の隊長を務めていらっしゃいます。皆さんと一緒に港へと向かうのをお願いできますか」


「分かりました」


「任せなさい。リリアはこの私が必ず助け出しますわ」


「騎士団の名に懸けて必ず事件の解決を約束する」


瞬時に頭を回転させ一番安全で成功率の高い救出方法をはじき出したキールの言葉にメラルーシィとエルシアが返事をする。ディトも任せろと良いだけに自信満々な笑顔を見せた。


こうして喧嘩に強いリックとマノン。護身術を習っているアルベルトと女性陣だけでは心配なので救出班に参加するルシフェル。王国騎士団の実力のあるディトと、メラルーシィとエルシアとルーティーとフレアがエミリーの案内で港へと向かう。


その頃港の倉庫へと連れ攫われたリリアーナは睡眠薬を嗅がされ眠りについていて、目の前には黒い服を着たいかにもガラの悪そうな男二人が彼女の姿を下品な笑みを浮かべ見下ろしていた。


「兄貴、上手くいきましたね」


「あぁ。後は依頼人の要望通りに手配すれば仕事完了だ」


小太りの男が「兄貴」と呼んだ相手へとにたりと笑い言うと、彼も上手くいったことを喜びいやらしい微笑を浮かべる。


「……まったく。世話がかかりますわね。どうせ今頃皆が「私」がいなくなったことに気付いて助けに動いている事でしょうし、ここは私が時間稼ぎでもして差し上げましょう」


眠っていたと思われたリリアーナが呟くと鋭い眼差しで男達を睨み付けた。


「貴方達。一体何が目的か分かりませんけれど、痛い目に合う前に私を開放なさい!」


「っ、こいつ目を覚ましやしたぜ」


「よく効く睡眠薬だって聞いて高い金払って購入したっていうのに。こんなにも効き目が直ぐに切れるとは……あの野郎ぼったくりやがったな」


「そんな事よりどうしますか?」


彼女が目を覚ましたことに動揺し驚く二人の様子をリリアーナはただ睨み続ける。


「貴方達誰に言われてこのような事をしましたの。私を攫って何を企んでいまして」


「う、煩い! その口閉じないと痛い目にあうぞ」


彼女の言葉に兄貴と呼ばれる男がナイフを抜き脅す。


「そのような脅しで私が怯えると思いましたら大間違いですわ。貴方達の身の安全の為にも今すぐ私を開放なさい」


「うるせぇ! 黙らねえならこうだぞ」


「あ、兄貴駄目ですよ。傷つけたりしたら……」


凛とした顔で言い放つリリアーナへと男が頭に血が上ったのかナイフを振りかざす。その様子に小太りの男が慌てて止めた。


「殺しさえしなければ少しくらい痛い目に合わせてもいいと言われている」


「で、でも顔に傷を付けたら依頼料は支払わないと言われてるじゃないですか」


「くっ……し、しかたねぇ。顔以外なら良いんだろう。まずはその白くて美しい右腕に傷をつけてやるぜ!」


男が言うとナイフを彼女の右腕に目がけ振り下ろす。


『リリア!』


「がっ?」


「ひぃ!?」


その時アルベルト達の声が聞こえて来たかと思うとディトの長剣がナイフを持つ男へと向けて振り下ろされる。駆け付けたアルベルト達が男達をコテンパンにのし上げている間女性陣がリリアーナへと近寄る。


「……ふっ」


「「リリア!?」」


「お姉様?」


「リリアーナ様」


その様子を満足げに見て微笑んだリリアーナは意識を手放す。気を失ってしまった彼女へとエルシア達が驚いて呼びかけた。


「……エル、さん。メルさんも……」


「私達が来たからもう大丈夫ですわよ」


「お姉様、ご無事でよかったです」


睡眠薬の効果が切れて意識を取り戻したリリアーナは自分の置かれている状況が分からず目の前で心配そうな顔を向けるエルシア達へとかすれた声をあげる。


その様子に安堵した微笑みで二人が優しく声をかけた。その後すぐに生徒会のメンバーが連れてきた警察に男達は捕まりリリアーナは無事に助け出されたのである。

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