二章 学園祭を楽しむぞ

 学園祭当日。リリアーナは人生初めて体験するそのお祭りに浮かれていた。


「ふふっ。いよいよ学園祭当日。私のクラスは社交ダンスを披露するって感じで決まって、順番が来るまでまだまだ時間はたっぷりある。ってことで、皆のクラスを見に行って学園祭を堪能するわよ」


(浮かれすぎないようにね。……ほら、ここがメラルーシィさん達のクラスですわよ)


足音も軽やかに弾む気持ちを隠し切れない満面の笑顔を浮かべ歩く彼女へと心の中にいるもう一人のリリアが話す。


「おっと、いけない。通り過ぎちゃうところだった……」


慌てて立ち止まるとメラルーシィ達のクラスへと入る。


「いらっしゃいませ。あ、お姉様! いらして下さって嬉しいです」


「こんにちは、メル達のクラスは喫茶店をやっていますのね」


出迎えてくれたメラルーシィが彼女の姿を見た途端、花が咲いたかのような微笑みを浮かべた。


「はい、そうなんです。喫茶店を展開している貴族の家の子と、料理人の資格を持っている子がいて、その案が通ったのです」


「メルのメイド服姿とっても似合ってるわ」


説明を受けて納得すると彼女の装いを褒める。


「有難う御座います。さぁ、お姉様どうぞお席へご案内いたします」


その言葉に頬を紅潮させ嬉しそうに微笑んだ後、改まった態度に戻り空いている席へと案内された。しかしそこにはメニュー表がおいてなくて、何処を見てもないなと思っていると礼服に身を包んだマノンがやって来る。


「こちらがメニュー表になります。……リリア、来てくれたんだね。ゆっくり食事を楽しんでいって」


「マノンさん。いつもと雰囲気が違って素敵ですわね」


机の上に置かれたメニュー表から目を前へと戻すと彼が微笑み立っており、その姿にリリアーナは素直な感想を述べる。


「……動きづらいからこういう格好は普段はあまりしてないんだけど、リリアにそう言ってもらえるならたまにはいいかもね」


「えぇっと。……!?」


柔らかく微笑むマノンからメニュー表を受け取った彼女はそれを見て固まる。


(私の想像していた喫茶店と全然違う。こんな高級そうな料理やドリンクの並んだメニューの喫茶店なんて東京の表参道くらい凄いかも。いや、それ以上か……)


この世界の食べ物の名前なんて覚えていないが、リリアーナの記憶で学習していたためある程度の食材の名前や調理名を覚えており、そのため高級食材で作られている料理やドリンクに驚いてしまったのだ。


(流石は貴族の学園祭……スケールが違いすぎる!!)


「あの、お姉様……どうされました?」


「もしかして、メニューが気に入らなかったとか」


黙り込んでしまった彼女の様子に不安そうな顔で二人が尋ねる。


「い、いえ。どれも気になって食べてみたいと思い、考え込んでしまったのですわ」


「ふふ、ゆっくり選んでくださいね」


「おすすめは、一ページ目に表示されているから、迷ったらそれを選ぶと良いよ」


黙り込んでしまったことを取り繕うように慌てて答えると、それにメラルーシィとマノンが安堵し微笑む。


「そ、それでは、こちらとこの飲み物をお願いするわ」


「畏まりました」


「それでは、お姉様。私も戻りますね。ゆっくり食事を楽しんでいって下さい」


羊の肉が使われた肉野菜パスタとオレンジジュースのような飲み物といった無難な物を選び伝えると、彼が応えて注文を伝えに奥に設置させた簡易台所にいる生徒の側へと向かっていった。メラルーシィも戻ると言って立ち去る。


「はぁ~」


(このくらいの事で驚いていましたら、気が持ちませんわよ)


「分かっているつもりだったけれど、想像以上だな……」


盛大に溜息を吐いた彼女へと内心から呆れた声が返って来た。それに答える代わりに独り言を零す。


「お待たせいたしました。リリアさん。冷めないうちに召し上がってくださいね」


「あ、ルーティーさん。メイド服姿可愛いですわね」


注文の料理が乗った盆を持ってテーブルまでやって来たルーティーへとリリアーナは話しかける。


「有難う御座います。ふふ、頑張って作ったかいがありますね」


「え、この制服全部ルーティーさんが作ったんですの?」


嬉しそうに微笑む彼女の意外な発言に驚いて目を瞬いた。


「はい。デザインから仕立てまですべて担当いたしました。縫い上げるのは女生徒全員でやりましたが」


(ルーティーの意外な特技を発見したかも)


にこりと笑い答えるルーティーをまじまじと見つめ内心で呟く。


「それは、凄いですわね」


「ふふ。リリアさんを喜ばせたくて頑張っちゃいました」


もう驚きすぎて呆然としてしまうリリアーナへと笑顔を崩さず彼女が言った。


「皆とっても似合っていましてよ。さて、それでは……いただきます」


「……」


一つ間をおいてからパスタをホークに絡めて口に運ぶ。その一連の動作を無言で見守るルーティー。よく見ると遠くからマノンとメラルーシィもこっそりその様子を窺っていた。


「うん、美味しい!」


「ふふ、お口に合ってよかったです」


顔をほころばせ心からの言葉を述べるリリアーナの様子に、嬉しそうに彼女が言う。メラルーシィ達も安堵した様子で笑っていた。


「このドリンクも美味しいですわ。もしかして、これ果汁を絞って作っていますの」


「流石ですね。その通りです。生絞りというもので、素材の味そのままの体に優しいドリンクなんですよ」


ドリンクを一口飲んだ途端果汁百%と言わんばかりの味に、前の世界で飲んだことがあるジュースを思い出してそう尋ねると、それにルーティーが説明する。


そうしてお腹いっぱい食事を堪能したリリアーナはメラルーシィ達のクラスを出て次の目指すべき教室へと向かっていった。


「次はアルベルトさんの教室ね」


(メラルーシィさんのクラスから三つ目の教室だと記憶していましてよ)


彼女の言葉に内心からもう一人の自分の声が聞こえてくる。すっかりサポート役へと変わってしまっているもう一人のリリアーナだが、彼女のおかげで恥ずかしい思いをすることなく過ぎているので、助けられてばかりだが有り難い存在となっていた。


「いらしゃい。お、リリア。来てくれたんだな」


「お邪魔致します。アルベルトさんの教室は、出し物をやっていますのね」


「今からちょうど俺が司会を務める番なんだ。せっかくなら見て行ってくれ」


「えぇ。そうさせて頂きますわ」


軽く会話を交わすと並べられている椅子の一つに適当に座り始まるのを待つ。


「これより第2回学生による作品紹介大会を開催する。優秀な作品はそのまま学園祭が終了したのちに学生作品として販売が許可されることとなっている。皆の健闘を祈り第2回開催の挨拶とします。それでは早速エントリーナンバー1番。アントリオさんの作品です」


(成る程、学生が作った作品を披露していき、あそこに座っている学生や先生達が審査する。そして全ての作品を審査して優勝や準優勝とかって感じで決めて行くって感じなのね)


リリアーナは納得して内心で声をあげる。そうして目の前で披露される作品を一つ一つ見ていった。


「……どれもレベルが高い物ばかり。流石はこの学園に通うだけある学生達ね。素人目ではどれも良作ばかりに見えてしまうけれど、この中から優秀作品を選ぶなんて難しいんじゃ……」


(素人目にはそう見えるかもしれませんわね。私もこういう目利きは得意ではありませんけれど、遠目で見るのと実際目の前で見るのとだとまた違ってくると思いましてよ。それに、審査の基準は一つではありませんわ。色々な厳しい審査を行いますの。例えばどんなに優美な作品であってもそれを実用的に考えて使えるか使えないかとかね)


「な、成る程。その基準を超えた優秀な作品のみ選ばれるって事ね」


作品の披露が終わり審査員達が審査をしている間、リリアーナが小声で言うとそれにもう一人の自分が答える。その言葉に納得して頷く。


「お待たせいたしました。審査も終わりましたので、いよいよ発表といたします。第2回学生による作品紹介大会優秀賞は……」


「……ごくり」


アルベルトが途中で声を止めると教室内に緊張が走る。彼が次に誰の名前を呼ぶのかとリリアーナは思いながらつい生唾を飲み込む。


「…………優秀賞はエントリーナンバー27番! アンジュさんの作品。時計の形の秒針にバラの花を刻んだペンダントです。優秀賞を受賞したアンジュさんに大きな拍手を。…………以上をもちまして第2回作品紹介大会を終了いたします。次は午後一時より第3回目を開催いたします。またお立ち寄りくださいませ」


大きな拍手が巻き起こる中、優勝した女子生徒が照れた顔でそれに答えるように頭を下げる。こうして大会は終了した。


「どうだ、楽しめたか?」


「えぇ。どれも素晴らしい作品ばかりでつい溜息が零れてしまいましたわ。アルベルトさんの司会も素晴らしかったですし、堪能致しましたわ」


「そ、そうか。司会なんて初めてだったから緊張していたが、上手くできていたなら良かった」


大会が終了するとすぐに彼女の下へと寄ってきたアルベルトの言葉に笑顔で答える。それに彼が照れた様子で笑いながら安堵した。


「お前の教室にも後で顔を出すからな」


「えぇ。お待ちしておりますわ。それでは、私はそろそろ次の教室にいきます。せっかくの学園祭ですもの確り楽しんでまいりますわ」


軽く会話を交わすとリリアーナは教室を出る。次は二年生のクラスだ。その為階段を上り三階へと向かっていった。

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