三章 学園祭で知った事

 三階までやってきたリリアーナはまずルシフェルのいる教室へと向かう。


「えっと、確かこの辺りだって聞いてたけど……」


(亜由美、ここですわ)


同じような教室が立ち並ぶためどの辺りなのか分からなくなっていた時に心の声が聞こえてくる。


「有り難う。さてっと、それでは……」


「リリア、来てくれたのか。丁度今から俺のヴァイオリンを披露するところだったんだ。良かったら聞いて行ってくれ」


「リリア、いらしゃい。僕はダンスを披露するんだよ。見ててね」


彼女は一呼吸おいてから教室の中へと入って行くと、リリアーナの姿に気付いたルシフェルとリックが微笑み声をかけてきた。


「リックさん? どうして、リックさんがこの教室に?」


「あれれ? 言ってなかったっけ。僕はここのクラスなんだよ」


リックがいる事に驚く彼女へと彼が笑顔で説明する。


「……俺も今まで会った事がなかったから知らなかったのだが、どうやらクラスメイトだったらしい」


「まぁ、始業式から一度もこのクラスに顔を出していなかったからね。クラスメイトも僕の事知っている人は少ないと思うよ」


ルシフェルも「こいつと一緒のクラスだとは」といいたげな顔で頭を抱えながら話す。それを他所にリックがなぜか得意げな様子で語った。


「そ、そうでしたのね」


「兎に角、今から俺達の出番だから、見て行ってくれ」


「えぇ。勿論そのつもりですわ」


「リリアが見てるんだから、とびっきりのダンスを披露するよ」


知らなかった事実に衝撃を受けるリリアーナへと二人が話し準備の為に立ち去る。


彼女は適当に空いている席へと座り演奏会が始まるのを待った。


「それでは、お待たせいたしました。我がクラスナンバーワンの人気者! ルシフェルとお調子者の問題児リックによる演奏とダンスを披露いたします」


「きゃ~!! ルシフェル様!!」


「ルシフェル様、大好き!!」


「ちょっと、貴女のせいでルシフェル様がみえないじゃないの。どきなさい!」


(すごい人気……ファンブックにもルシフェルは女生徒から人気者でファンクラブまであるって書いてあったけど、ここまで凄いとは……)


誰がルシフェルの近くの席を確保できるかで争い合う姿を見たリリアーナは、端っこの席を選んでよかったと安堵する。


(あれに巻き込まれたくないからね。ここを選んで正解だったわ)


内心で呟いた時壇上に立つルシフェルがヴァイオリンを構える。リックも登場しダンスを披露し始めた。


教室内は心地よい音色に包まれ、その厳かな音に合わせて綺麗に踊るリックの姿もいつものおどけた様子とは打って変わっていて、やはり侯爵家の血をひいていると思わせる麗しく、恭しいダンスにリリアーナは暫く二人の姿に見入る。


気が付いたら演奏が終わっており、二人が綺麗にお辞儀すると教室や廊下から溢れんばかりの拍手喝采が送られた。


(二人とも凄い! 凄い演奏とダンスだったわ!)


彼女も盛大に拍手を送るとその姿を見た二人が嬉しそうに柔らかく微笑んだ。


そうしてルシフェルとリックの出し物を見た後フレンのいる教室へと向かう。


「リリア、来てくれたのか」


教室へと入るとリリアーナに気付いた彼が笑顔で出迎えてくれる。


「えぇ。フレンの教室は何を出していますの?」


「俺の教室は見ての通り手作りのお菓子を販売している。リリア、よかったら好きなのを持っていけ。俺がおごってやる」


彼女の質問に教室の中へと視線を投げかけフレンが答えた。


「え、いいえ。自分で買いますわ」


「おごらせてくれ。……お前に一度も何も買ってやれなかったからな。だから、こっちでは少しくらいは「兄」としてできなかったことをさせてもらえないか」


「う……そう言われてしまったら何も言えなくなっちゃうよ。……分かったわ。それじゃあ、これをお願い」


その言葉に弱いリリアーナは仕方ないといた感じで諦め一つの包みを手に取りお願いする。


フレンが前世で自分の兄であると分かってから事あるごとに「兄としてできなかったことをこっちではさせてくれ」と頼まれるようになったのだ。勿論リリアーナもお兄ちゃんと一緒に何かした記憶はなく、兄との思い出はいつも病院でお見舞いの時に見たベッドに横たわっている姿だけであった。だからこそお互いとも兄と妹としての思い出がないため、こっちではそれを埋めるようにいろんなことを二人で体験しようと約束したのである。


「生徒会の仕事が午後から入っているから、午前中にリリアが教室に遊びに来てくれてよかった。もうみんなの教室を見て回ったのか?」


「まだ、フレア様やエル様や会長達の教室は見ていないの。特等生の教室って確か別の建物になるのよね」


「あぁ、生徒会室がある方の舎になるから、東側の方だな」


彼の言葉に答えた彼女へとフレンが説明する。


フレン以外の生徒会のメンバーやエルシアやフレアは皆特等生といい、成績が優秀な学生か王家の者しか入ることが出来ないとされているとても頭のいい生徒達が過ごす教室に通う生徒である。そこはこの学園の中でも別格でリリアーナ達が通う教室がある棟とは別に学舎があり、特等生だけが受ける特別授業を学んでいると噂があるほど、同じ学園に通っていても特別扱いされるいわばこの学園のトップクラスの者達が集まる教室が立ち並ぶ場所があるのであった。


「これからそこに向かうの。確か、学園祭の時は特別に解放されているから、私達普通クラスの生徒が入っても問題ないって聞いてるけど、大丈夫だよね?」


「大丈夫だ。追い出されたりなんかしない。……エルシアやフレアは二年生の教室に、会長達は三階の教室にいるはずだ。ただ、生徒会は皆順番で学園内を巡回しているから、教室にいるか如何か分からないがな」


「有り難う。とりあえず行ってみるわ」


二人は軽く会話を交わすと別れる。リリアーナはそのまま教室を出て特等生の教室がある学舎へと向かっていった。


(亜由美。ここが特等生が過ごす校舎ですわよ)


「ここが……生徒会室以外の場所に来るのは初めてだわ」


生徒会室には何度か顔を出したことがあるが、生徒達が過ごす教室がある棟には一度も来たことがない。自然と緊張で手に汗を握りながら一歩を踏み出し中へと入る。


「流石は特等生が過ごす校舎。普通と違って豪華な感じね」


建物の作り自体は同じようなのだが、中は違っていて、赤い絨毯の敷き詰められた床に彫刻が施された柱や大きな格子窓など、普通の校舎にはない豪華な造りとなっていた。


「えぇと。二階が二年生の教室だったわよね」


独り言を零しながら絨毯の敷かれた階段を上り二階へと向かうと見えてきた豪華な扉に驚く。


「す、すごい。これが教室の入り口だなんて……」


普通の教室のスライド式の扉と比べてなんて特別感を感じる重厚な扉なのだろうと冷や汗を流す。


「ごくり……」


あきらかに場違いなところへと来てしまったと感じながら、怖気づく気持ちを押さえ込み恐る恐る取っ手を握り引き開けた。


「あら、リリアじゃありませんの。ようやく来ましたのね……別に貴女がいつ来るのか待っていたわけではありません事よ。ただ、待ちくたびれる前に来て欲しかっただけですわ」


「リリア、いらしゃい! どう、このドレス試着していってよ」


「……」


引き開けた途端待ち構えていたと言わんばかりにエルシアとフレアが出迎えてくれて、彼女はあともう少し考えていたら扉を思いっきり締め直していただろうくらい衝撃を受けた。


「エル、さん。それにフレア様も……えぇっと、この教室ではいったいどのような出し物をなさっていらしゃるんですか?」


「私達二年生のクラスは生徒が作った礼服を展示販売しているのよ」


我に返り慌てて尋ねたリリアーナの言葉に王女が答える。


「つまり、展示会みたいなことをなさっていると?」


「それだけではございませんわ。展示販売を通して収益の方法を学ぶのが一環ですの」


いまいち理解できていないといった感じで彼女はさらに質問をすると令嬢が説明した。


「成る程、未来に役立つ方法で出し物をしているという事なのですわね」


「そう言う事。さ、リリア。せっかく来てくれたんだからわたしが作った服を着てみて」


「私が作った服も勿論試着して頂きましてよ」


(ふええぇ~!?)


二人が言うと同時にしっかりと両側から腕を掴まれ引きずられる。リリアーナは着せ替え人形にされることを察し顔を青ざめさせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る