一章 学園祭のお話

 始業式も終り秋が深まり出した頃。


「学園祭?」


「そうですわ。もうじき学園祭が始まりますのよ。クラス別で色んな出し物をやったりお店をやったりとしますの。言っておきますけれど、そこらの学園祭とはわけが違いましてよ」


「貴族が通う学校の学園祭だからな。出し物も何もかも貴族や王族の嗜みを基にした物だったり、まぁ、スケールが違うんだ。ただの学園祭では終わらないって事。学園祭には多くの来賓が集まり、未来の侯爵や侯爵令嬢と繫がろうとする貴族がいたり、婚約者として選ぶ人も現れたりとするんだ」


不思議そうな顔をするメラルーシィへとエルシアが得意げに説明する横でアルベルトも話す。


「そっか、もう直ぐ学園祭か……」


(ゲームの中じゃどんな感じなのか出てこなかったから分らなかったけれど、リリアーナの記憶で見た学園祭はとても華やかで楽しそうだったのよね。ふふ、楽しみだな)


考え深げな顔でリリアーナが呟くと内心ではうきうきとした気持ちを隠すことなく喜ぶ。


「そろそろ学園祭の案内が配布されると思うわ。それで、クラスでどんなことをやるのかを決めるのよ」


「そこは普通の学校と変わりないんですね」


フレアの言葉にルーティーが良かったといった感じで微笑む。


「どんなことをやるのかを決めると言っても、この学園にふさわしい出しものじゃなかったら許可が下りないから、ちゃんと考えた方が良いわよ」


「成る程。紳士淑女にふさわしくない出し物やお店とかはダメだってことだね」


王女の言葉にマノンが納得した顔で頷く。


「今年はどんなことやるのかな……」


「必ず、お姉様のクラスの出し物を見に伺いますね」


「私もリリアのクラスに行って差し上げてよ」


今年はどんな出し物をやるのだろうと考えるリリアーナに、メラルーシィが微笑み言うと、エルシアも負けじと声をあげて宣言する。


「俺は、メル達が迷子にならないようついて歩くから、その時に立ち寄るつもりだ」


「私達もメルさんと行動を共にするんです」


アルベルトも言うとルーティーがにこりと笑い話す。


「抜け駆けする奴が現れないように見張っておかないとね……」


「わたしも必ず見に行くからね」


マノンが一部のメンバーを睨むように見て言う横でフレアも笑顔で答えた。


「私も皆の教室を見に行きますわ」


⦅リリア (さん/様)がうちのクラスに!?⦆


にこりと微笑みリリアーナが言った言葉にこの場に居合わせた皆が衝撃を受ける。


「お姉様を喜ばせる出し物を必ず考えて見せますわ!」


「リリアさんが楽しめるようにみんなで頑張って案を出し合いましょうね」


「力の見せ所だね」


嬉しそうに頬を紅潮させ力拳を作り意気込むメラルーシィに、双子もそれぞれ決意表明するように話す。


「俺も、今年は例年以上に頑張るかな」


「私の力の見せ所ですわね」


「リリアが楽しめる出し物をしっかりと考えておくわ」


アルベルトが言うと令嬢もにこりと笑い意気込む。フレアもこれは負けられないといった感じで話した。


「? ……よく分からないけれど、皆のクラスがどんな出し物をするのか楽しみにしていますわね」


「「任せて下さい」」


「「任せろ」」


「任せなさい」


「任せて!」


皆がどうしてこんなにやる気に満ちているのか分からなかったリリアーナだったが、学園祭を楽しみにしていると伝えると声を揃えてそれぞれ答える。


それから暫く他愛ない話に戻るとふいにメラルーシィが思い出したかのように口を開いた。


「そういえば……学園祭には親族も見に来ることってあるのですか?」


「まぁ、当然よね。学園の行事には大抵誰か来るものよ」


彼女の言葉に王女が当然だと言わんばかりに頷く。


「ってことは……まさか……」


「アルベルトさん如何しましたの?」


考え深げに黙り込んだ彼へとリリアーナは尋ねる。


「いや、メルの家族は王国騎士団の家系だからお父さんは仕事があるから来られないだろう。と、考えたら必然的にあいつが来るんじゃないかと……」


「あ~ぁ。メルのお兄ちゃんね」


「お兄ちゃんならありえますね……」


アルベルトの言葉にフレアも納得した顔で頷くと、話題に出ている「兄」の事を思い浮かべたのか彼女も苦笑して答えた。


「メルのお兄さんが来ることがそんなに問題なの」


「問題……というよりも、恥ずかしいと言った方が良いでしょうか」


「恥ずかしい?」


マノンの言葉にメラルーシィが答えると今度はルーティーが首をかしげる。


(メルのお兄さんって、ゲームでは一切出てこないからどんな人なのか分からないのよね。メルやフレアやアルベルトの会話文の中でしか登場しないキャラだったから。でも、この世界では会えるって事よね)


リリアーナは一体どんな人物なのだろうと想像してみる。


(メルにそっくりなのかな? でも男の人だし王国騎士団の隊長を務めているって会話文の中で出ていたくらいだから武骨な人とか?)


どんなにイメージを膨らませてもさっぱりで、これ以上考えても仕方ないと思い意識を皆の会話の方へと戻す。


「まぁ、会えば分かるよ」


「俺は、正直会いたくないんだが……」


「アルベルト様はお兄ちゃんが苦手ですからね」


王女の言葉に彼が渋い顔をして呟く。メラルーシィが苦笑すると他の皆は意味が分からず疑問符を浮かべた。


そうこうしていると休憩時間が終わり皆それぞれ教室へと戻る。


「学園祭か……ふふ、楽しみだな~」


(亜由美はずっと学校に通えなかったから、人一倍学園の行事に興味がおありのようだものね)


授業を終えて寮まで戻ってきたリリアーナは部屋へと入るとにやける顔を隠すことなく独り言を呟く。すると心からもう一人の自分の声が聞こえてきた。


「まぁね。ずっと病院か家のベッドの中での生活だったから、学校の行事に憧れを抱いていることは確かね。ねぇ、学園祭ってどんな感じ?」


(亜由美の世界の学園祭がどの様な物か分かりませんが、この学校の学園祭は先程の話の通り、貴族の嗜みの一環ですの。未来の侯爵や侯爵令嬢を来賓が見に来るイベントですのよ。そこで貴族通しのつながりを深めたり、未来の婚約者候補を探したりするのですわ)


心の中にいるリリアーナへと問いかけると彼女がすらすらと説明を始める。


「そこじゃなくて、どんな出し物をしたりするのかって事を聞きたかったんだけど」


(そうですわね、一流のシェフが招かれて野外でのパーティーが開催されたり、ホールで社交ダンスを踊ったり、クラス別に出し物やお店をおこなって盛り上げたりなど。まぁ、そんな感じですわ)


だが聞きたかったことと違った為言い方を変えて尋ねると、それに心の声が返って来た。


「確かリリアーナの記憶だと去年はレストランみたいなことをしていたのよね。凄く高級な食材が並んでいて生徒達は皆礼服を着て、ウエイターやウエイトレスになったり、料理人を呼んで調理してもらったものを提供していた……のよね?」


(えぇ、そうよ。学園祭の時だけは特別に学校にいろいろな必要なものを持ち込んでもよいという決まりなのですわ。勿論危険なものを持ち込むことは禁止されておりますけれど。レストランを経営する貴族の家の子がいてその子の案が通ったのを覚えておりますわ)


リリアーナの記憶を辿りながら話すと彼女もそうだと相槌を打ってくれる。


「とにかく、前の世界で楽しめなかった学園祭。思いっきり堪能してやるんだから」


(まぁ、羽目を外しすぎて恥ずかしい思いをしないように気を付ける事ですわね。貴女のせいで私の評価が下がったら責任を取って頂きましてよ)


「う……気を付けます」


釘を刺され変な声をあげるとあまり恥ずかしい思いをしないように浮足立たないようにしないとと心に留めた。

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