第十九章 思っていなかったハッピーエンド

 皆が万能薬を探し回っている事リリアーナはもう一人の自分と一緒に魂の融合を試みていた。


「いいですか、最後まで意識を手放してはいけませんわよ」


「うん。最後まで一緒にこの記憶を見届けましょう」


走馬灯のように流れていく記憶の波に押され意識が飛びそうになる中お互い励まし合い両手を握りその存在を確認し合う。


「さぁ、もう直ぐ融合が完了しますわ。私は貴女の中で」


「私はリリアーナの中で」


「「共に生きて行きますわよ」」


もう一人の自分の言葉に亜由美も返事をすると同時に声をあげた。


するとその時嵐のように流れていた映像が途絶え宇宙空間のような真っ暗闇の中へと放り出される。そしてお互い輝きを放ちながらゆっくりと重なり合い光が治まるとそこには融合して一人となったリリアーナが立っていた。


「やった……やりましたわ! これで、もう大丈夫ですわよね?」


(ええ、もう大丈夫ですわ。さぁ、光の道を通って皆の下へ帰りましょう)


リリアーナの言葉にもう一人の自分の言葉が心の声として木霊する。


(私は貴女の心の中で、そして貴女は私の体の中で共に生きていくんですわ)


もう一人の自分の心の声がこだまする中リリアーナは光の中へと包まれ真っ白に染まる視界に目を閉ざした。


「っ……」


『リリア!』


ゆっくりと意識が浮上し目を覚ました彼女の視界にエルシア達の姿が映り込んだ。皆が彼女の名前を呼び安堵した様子で見詰められていてリリアーナは驚いて飛び起きる。


「え、あの……皆どうしたんですの?」


「あぁ、良かった……本当に良かったですわ。お姉様が目を覚まされて」


「あぁ、万能薬の効き目は確かなようだな」


驚き尋ねる彼女へとメラルーシィが安堵して涙ぐむ。その言葉にアルベルトも笑顔で答えた。


「もしかして……皆私の事を心配してくれていたんですの?」


「リリア!」


「は、はひ?!」


状況が分からないままではあるが皆が心配してくれていたのだと思いそう尋ねると、鋭い瞳でエルシアに睨まれ驚いて大きな声で返事をする。


「今後一切私を置いて先に逝くことを許しはしません。貴女はずっと私の側で元気でいる事、いいですわね」


「へ……」


令嬢の言葉に呆けた声をあげ目を瞬く。


「リリアーナさん。これから私達を心配させるようなことはしないように。体調管理はしっかりとすること。それから……無事に目を覚ましてくれて本当に良かった」


「会長……」


キールの言葉に彼女は初めて柔らかい微笑みを見たなと思いながら呟く。


そうして高熱は嘘のように引き、リリアーナは元気になった。


「でも、私が寝込んでいる間に何があったんだろう?」


今まで敵対していたはずの二つのグループが和気あいあいとしながらリリアーナの病が無事に治っておめでとう会に参加している様子に疑問を抱く。


「でもま、エル様に生徒会のメンバー、それにメル達が仲良くなってくれて良かった。ゲームでは考えられないし思っても見なかったハッピーエンドだよ」


「えぇ~おっほん! それではリリアの病が無事に治って良かった。これからもよろしくってことで……乾杯!」


(もはやよく分からないパーティーになったけど……)


リックが咳ばらいをするとそう言ってジュースの入ったグラスを掲げる。それにリリアーナは内心で呟き苦笑したがすぐに笑顔に戻りグラスを持つ手を上へとあげた。


「乾杯!」


『乾杯!』


彼女の言葉に続けて皆も声をそろえて言う。


「お姉様、この前お姉様が食べたがっていたクッキーを沢山焼いて持ってきました。どうぞ食べて下さい」


「私もパイを焼いてきました。一杯食べて下さいね」


メラルーシィが沢山のクッキーが入った皿を持ちリリアーナに見せると、ルーティーもパイを切り分けて彼女へと差し出す。


「では、リリアのために心を込めてヴァイオリンの演奏を披露しよう」


「私のピアノもお聞いなさいね」


「では、わたくしはフルートを」


ルシフェルが言うとエルシアがピアノを聞けと言い、セレスが負けじとフルートを持ち出し参加する。


「リリア、よく頑張ったな。病が治って本当に良かった」


「フレンさんが普通に話した!?」


「いや、確かに驚いたけど、リリア驚きすぎだろう」


にこやかに笑い彼女の頭を撫ぜるフレンの言葉にリリアーナは驚き仰け反る。その様子にアルベルトが呆れた声をかけた。


「キール……フレンが羨ましいのか?」


「別に……さて、僕もメラルーシィさんのクッキーとルーティーさんのパイを頂きに行こうかな」


リリアーナ達の様子を離れてみているキールへとエドワードが小声で尋ねる。それに彼は答えると彼女達の側へと向かっていった。


「ふぅ……相変わらずだな」


その様子にやれやれと言った感じで呟くとキールの後を追って彼も付いていく。


「ぼくもコックに頼んでチキンを焼いてもらったんだ。リリアが早く体力戻る様にと思って」


「いいねいいね。僕も食べたい!」


「これはリリアに食べてもらうため特別に作ってもらったものだ。君はあっちにある唐揚げでも食べてればいいんじゃないの」


大きなチキン焼きを差し出してくるマノンへとリックがそう言って割り込んでくる。それに彼が不機嫌そうな顔で答える。


「リリア、ジュースのお代わりどう?」


「お前達……ちゃんと聞いているのか?」


「そうですわ。何リリアと楽しそうに食事をしてますの!」


「わたくしだってリリアと一緒に食事したいですのに! 会長達だけずるいですわ」


演奏を途中で止めてルシフェルが言うとエルシアとセレスも不機嫌そうに言い放つ。


(本当にみんな仲良くなってくれたみたいね。はっ! これってもしかしてファンブックに書いてあったゲームでは容量の問題で消されてしまったって言う幻の生徒会とエル様とメル達が仲良くなるっていう友情エンドなのかも。そうよ、きっとそうなんだわ。だってこんなのゲームでは見た事ない流れだもの。幻のエンドが見れるなんてラッキー!)


仲良く騒ぐ皆の様子にファンブックに書いてあった内容を思い出した彼女はそうに違いないと思い内心でぐっと拳を握り締めた。

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