第六章 生徒会長の裏の顔
セレスとお茶をした翌日。授業を終えたリリアーナは寮へと戻る途中で会長の姿を見かけた。
「あれは、生徒会長。こんなところで何を?」
校舎からだいぶ離れた木の陰で何やら数人の男子生徒と話をしている。
「数人がかりでこれとは、まったく。本当に君達はバカだね」
その場を立ち去ろうと思ったが聞こえてきた声に足を止めた。
(そういえば生徒会長って確か裏の顔を持ってるんだったわね)
ゲームの内容を思い出し内心で呟いていると再び話し声が聞こえてくる。
「す、すみません」
「今回テストの点数が悪かったらもう次はないって言ったはずだよ。すぐに退学届けにサインしてもらわないとね」
「っ! ま、待ってくださいもう一度だけチャンスを……」
謝る男子学生へとむけてキールが冷たく言い放つ。慌てて別の男子学生がお願いした。
「救済の処置はない。君達みたいな弱い者いじめするような奴等がこの学園にいるってだけで、虫唾が走るんだよ。この学園の品格が落ちるからさっさと出て行ってもらいたいものだね」
「待ってくれ、今度こそうまくやりますから」
彼の言葉に男子学生が慌てて口を開く。
「しかたないね。それじゃあもう一度だけチャンスをあげるよ。僕と勝負して勝ったなら君達の処分はなしにする。でも負けたら退学だ、いいね」
「し、勝負とは?」
キールの言った勝負という単語に男子学生達が不安がる。
「次の期末テストでよい成績を収めること。そうだねバカな君達でも最低でも八十点くらいは取れるだろう。八十点以上取れたなら今回の処分はなしにしてあげるよ」
「は、八十点……」
彼の言葉に愕然とする男子生徒達。その顔は自信がないといった感じであった。
「カンニングなんて下品な行為なんかしたら即退学だけどね。どうする、僕との勝負受けるの? 無理はしなくていいよ、まぁ無理ならすぐに退学だけどね」
「い、いや。受けます! ですからもう暫くの間待ってください」
「どのみち時間の無駄だと思うけれど……まぁ、いいや。話はそれだけだね。もう行っていいよ」
男子学生の言葉にキールが嫌な笑みを浮かべそう言って話を終える。男子生徒達は急いでこの場から離れるように立ち去って行った。
「……盗み聞きとは感心しないよ」
「ひゃ!?」
なぜかその場から動けずにずっと様子をうかがっていたリリアーナはこちらへと近寄ってきたキールの黒い笑顔に出迎えられ気付かれていたことに驚く。
「今の見ていたよね。……困ったな。僕の素顔はずっと隠してきたというのに、誰かに話されでもしたら迷惑だね」
「あ、聞くつもりはなかったんですが、たまたま通りかかったら話している姿を目撃してしまって」
笑顔なのに怖い顔で話す彼へと慌てて言葉を連ねるも意味がなかったみたいでキールが彼女の右腕をつかむと自分のほうへと引き寄せる。
「でも聞いていたんでしょ。君が他の生徒達に僕の裏の顔を話されでもしたら困るからね、今日から君のこと監視させてもらうよ」
「えぇっ!?」
目の前には彼の顔がありリリアーナへとむけてそう耳打ちした。その言葉に彼女は盛大に驚いて叫ぶ。
(いや、最初から知っていたからみんなに話したりなんてしません……なんて言ったらもっと怖いことになるよね絶対)
「さ、君もわかったら頷いて」
内心で呟き溜息を吐き出していると彼女から離れたキールがそう言ってくる。
「は、はい」
「……それじゃあ、君ももう行っていいよ」
返事を聞いた彼が満足そうに微笑みリリアーナを解放する。
(めんどうなことになったなぁ~)
内心でそうぼやいてみるも状況が変わるわけでもなく彼女はまた溜息を吐いた。
「溜息なんかついて、何かあったのか?」
「副会長……」
誰かに声をかけられたので振り返ってみてみるとそこには怪訝そうな顔で立つ副会長の姿があった。
「悩み事でもあるのか?」
「なんでもないです。……副会長こそこんなところで何していたんですか?」
怪訝そうに尋ねてくるエドワードへとごまかすように笑って答えると続けて尋ねた。
「少し調べ物をな。……リリアーナは寮に戻るところか」
「そうです。……調べものって何を調べていらしたんですか」
彼が何を調べていたのか気になって聞いてみる。
「……リリアーナなら何が好きかと聞かれたら何と答える?」
「え、何が好きか……ですか。そうですねお菓子は好きですよ。それから犬とか猫とかかわいい動物が好きですね。あの、調べものにどう関係があるんですか?」
エドワードの問いかけに答えたリリアーナだったがこれがどう関係しているのかわからなくて困った顔で言った。
「あぁ。そろそろ新入生が部活動を決めるためのイベントが開催されるだろう。そこで新入生のために生徒会も催し物をやるということになったのだが、そこで自己紹介をすることになってな。それで自分の好きなものを一つは答えるようにと会長に言われたんだが、俺の好きなものが何かわからなくてな」
「そうだったんですね。好きなものなら食べ物でも趣味でもなんでもいいんじゃないですか?」
エドワードの言葉に納得すると思ったことをそのまま伝える。
「!?」
(え? 私何か間違ったこと言っちゃったかな?)
なぜか驚いた顔で見つめられて自分の発言に何か問題があっただろうかと焦った。
「……なるほど、それは思いつかなかった。リリアーナは俺が思いつかないようなことを考えるんだな」
「え? そう、でしょうか。みんな同じように考えると思うのですが……」
笑顔でそう言ってきたので彼女は驚く。
「いや、俺はもっと難しいことばかり考えてしまっていた。なるほど、答えはもっとシンプルだったんだな。好きな食べ物や好きな物の事なら答えられそうだ」
(一体どんな難しい答えを考えていたんだろう?)
エドワードの言葉にリリアーナは内心で呟き苦笑いする。
「時間を取らせてすまなかったな。ありがとう」
「いえ、お役に立てたようで良かったです」
お礼を言われて彼女は照れながら答えた。
「また、相談に乗ってくれると助かる」
「はい」
笑顔で言われた言葉にリリアーナもにこりと笑い了承する。
それからエドワードと別れて寮へと戻ると自室のベッドに腰掛け今日の出来事を振り返った。
「……生徒会長本気で監視するつもりなのかな?」
キールとのやり取りを思い出し溜息を吐き出す。こんなことになるくらいならさっさと寮に戻ってればよかったと後悔したところで遅い。
「それにしても副会長ってあんな感じだったけ? ゲームではもっと知的な感じでなんでも答えられちゃう頭脳派だったのに。好きなもの一つ答えるのにあんなに悩むなんて意外だな」
エドワードとのことも思い返し小さく笑う。
「うん、待てよ。部活動選びって……メルと生徒会との最初の衝突イベントが発生する日じゃない」
ゲームの内容を思い出し勢いでベッドから立ち上がる。
「確かその時エル様が高みの見物とばかりに出向いてそれにリリアーナも付き合わされていたような……うわ~。生であのイベントが見れるんだ! うふふ。楽しみだな」
イベントの内容を思い起こしながら嬉しそうに笑う。早くその日が来ないかと胸を弾ませながらその日は興奮が収まるのに時間がかかった。
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