第3話 下

 いつも通り俺は学校に向かう。少し寝不足だが、学校に行かないと親にも怒られる。

 学校に着くとすぐ瀬田が迫ってきた。

「おい、昨日どうだったんだ?」

「え? 何のこと?」

「惚けるなよ。昨日! 小金井さんと!」

 昨日の事は恥ずかしいしあまり言いたくない。

「もしかして、告白してないのか? 二人きりだったんだろ?」

「え、うん」

「気を遣ったの分からなかったのか?」

「どういう事?」

「思井が昨日体育館裏で告白しようとして、バスケ部が来て食事に誘ったの知ってんだよ」

「え? だから二人とも来なかったの?」

「当たり前だろ。じゃなきゃ、彼女との食事を誰が断るんだよ」

 ええええ、うそーん。え、待って? 恥ずかしいと言う言葉しか出てこない。

「小金井さんの友達も?」

「あ、それは違うかも知れんな。小金井さん好きな人としか一緒にご飯行かないらしいからな」

「嘘つくなよ」

「ま、噂だ。気にするな」

「何だよ!」

「で、どこまで出来たんだ?」

「えっと、連絡先の交換は出来たんだぜ!」

 少し威張ったけど、瀬田は険悪な顔をする。

「は? それだけ?」

「それだけって……頑張ったんだが……」

「おい、今からでも遅くない。彼女に告白しろ!」

「じゃ、じゃあ放課後に……」

「まあそれでもいい。その代わり早く彼女を呼び出しとけよ。てか、今放課後来てくださいって言いに行っとけ」

「あ、ああ」

 ここまで言われると思わなかったし、何も考えていなかったのが恥ずかしい。瀬田に背中を押されて俺は彼女の教室まで走った。教室の前に行くと、彼女を呼んだ。この際、周り何て気にしていられなくなっている。

「お、思井君!? どうしたの?」

「あ、あの、今日の放課後に屋上来てくれませんか?」

「う、うん。分かった」

 彼女はゆっくりと頷いた。チャイムがなったので、急いで自分の教室へと走って戻った。


 そして、放課後。俺は早くに教室を出て、屋上で小金井さんを待っていた。体育館の時よりも緊張して心臓がドキドキしている。しかし、もうこれ以上告白を伸ばすわけにはいかない。周りの人たちも俺が告白するの知っているみたいだし、男気がなさすぎると言われたくない。

 彼女はやってきた。扉が開いて小金井さんが辺りをチラチラ見ながら警戒している様子。

「思井君どうしたの?」

 俺のせいなのか彼女の口癖になっている言葉が発される。

「う、うん。ちょっとね。あの!」

 今度こそちゃんと告白しようと心に決めていた、その瞬間に扉が再び開き、大きな音が響いた。

「はっはっはー、誰かいるのかーい?」

 大声で聞き覚えのある声が後ろから聞こえて、振り返った。そこに学校一有名と言ってもいいであろう空喜嫁内(くうきよめない)が何故か体操着で立っていた。これでは告白の邪魔をされてしまう。彼の前で告白すると言うのも何だか嫌である。彼は空気を読んでくれない。こうなったら使われていない渡り廊下を渡った別館の二階にある教室。あそこにいくしかない。

「ごめん、小金井さん」

 彼女の声を聞かず、俺は彼女の手を引いて、扉を開けて屋上から離れた。

「ちょ、ちょっと思井君どこ行くの?」

「別館の使われていない教室」

「どうして?」

「小金井さんにちゃんと誰にも聞かれない所で聞いて欲しいの」

「わ、わかった」

 教室に着いて、彼女の手を離した。

「小金井華さん僕はあなたの事が大好きです。僕と付き合ってくれませんか!?」

 勢いよく頭を下げたから、首が痛くなった。俺は頭を下げたまま、手を前に差し出した。恥ずかしさで前を見ることは出来ない。告白出来ただけで自分を褒めてやりたい。

「ごめんね」

 ああ、やっぱりダメだったか。でも、告白出来ただけで充分だ。これで彼女の事は諦められる。

「私も……いや、私は前から思井君が好きだったよ。私は告白するのが怖くて、ずっと何も言えなかった。告白されると分かった時私はとても嬉しかった。でも、それが食事の誘いだった時は悔しかったし、嬉しかったよ。私は思井君と二人で食べたくて……。私がクラス全員誘ったって言うのも嘘なんだ。ごめんね。話が長くなっちゃったね」

「私も思井君が好きです。私からもお願いします」

 彼女の手が俺の手に触れた。顔をゆっくり上げて確認する。確かに彼女の手が俺の手を掴んでいた。

「え、本当にいいの?」

「うん」彼女がにこりと笑う。

 小金井さんの手をそっと握った。

「これからよろしくお願いします」

「はい」


「「「「やったなーーーーー」」」」

 大勢の声が聞こえてきた。見ると、十数人程の生徒たちが飛んではしゃいでいた。どこかで見た事ある顔だなと思ったら糸真、瀬田、バスケ部、三組の一部の人たちが来ていた。

「いや、どういう状況?」

「バスケ部は告白するかと思いきやすき焼きに誘った奴の結果を見届けたかったんだと。三組の奴らは男気あるやつを見届けたかったんだと」

「お前らは?」

「バスケ部と三組の奴からお前の話聞いて、駆け付けた。屋上覗きにくいから場所変えてもらうの大変だったんだぞ」

「え? 空喜嫁内くん屋上に呼んだのお前ら?」

「いえい」

 ブイサインで誤魔化す瀬田。

「まあ良かったな」

「羨ましいぞい」

 二人にお祝いされて俺と小金井さんは一緒に笑う。まあ瀬田が居なかったらここまで大胆に行動出来ていなかったし、感謝を言いたい。俺の事を考えて、食事を断ってくれた事についても感謝しかない。

 明日二人にはご飯でも奢ろうと思った。

「二人ともありがとう」

「親友の事だ。当たり前だ」

 俺は小金井さんが初めての告白相手で、初めての恋人だ。

 彼女との一日を大事にしていきたい。彼女に後悔させない彼氏になってやろう。

 かなり遠回りしてしまったが、彼女と付き合えて幸せだ。これから彼女との日々を楽しんでいきたい。

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告白させてください! 猫山華奈叶 @nekoyamakanato

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