第2話 芳香が漂う小枝
家に着くなり、イネは、大き目の口のガラス瓶を用意し、たっぷり水を張って金木犀の枝を入れた。
日当たりの良いテーブルの上に置かれた金木犀は、心なしか、元気を取り戻したかのように見え、先刻の樹木の金木犀の蕾ほどではないが、微かに甘い香りを漂わせてきた。
「どうか、あの可愛いお花を咲かせておくれ」
イネは、それ以来、毎日お水を取り替えては祈り、毎日歩いて、あの金木犀の木の蕾の具合と見比べては、早く追い付けるように祈った。
そのうち、金木犀の木の蕾と見劣りしないくらいまで、テーブルの金木犀の蕾も膨らみ
「蕾の大きさと、少し開きかけた感じが、同じくらいまで追い付けたね。良かった、良かった」
そして数日後、部屋中が甘い香りで充満し出し、開花を今かと待ち侘びながら、いつものルートで買い物に出かけたイネは、見事に三度咲きを果たした金木犀の樹木に出逢った。
「ああ、この香り、橙色の可愛らしい花。素晴らしい事だね!滅多に無い三度咲きだよ!今年の秋は、三度もこの大好きな花に出逢わせてくれるとはね!季節外れの桜もあちこち咲いているし、何かの前触れなのだろうか?それとも、老い先短い私の為に、植物達が狂い咲きして見せてくれてるのかね?」
買い物に行く気力を金木犀の花の癒しから充電してもらったイネは、心なしか軽快に歩けている気がした。
「金木犀の花のおかげだね。足が軽いよ」
いつもの折り畳みバッグに入れた買い物もいつもより、重さを感じられず、肩や腕の負担にはならずに済んだ。
「金木犀に出逢えた嬉しさで、私の感覚がおかしくなったのだろうかね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます