第6話 噂話し

1 清水 樹里亜


 早朝。授業前の用意をしているZ-16号に立川刑事と青田刑事が入ってきた。

「授業前じゃないですかね?」

 と一応聞くあたり親切そうに感じるが、そう思うなら電話でアポを取ってほしいと思いながら、

「10時10分からですから、多少時間はありますよ」

 と答えた。


 二人の刑事はいつものように、高すぎて、座りにくい会議にならない机に座り、コーヒーをいただく。

 一華は授業で使うものの用意をざっくりと机にまとめた後で、同じく会議にならない机に着いた。

「どうです、何か進展ありましたか?」

 と聞いたのは、一華ではなく立川刑事だった。「逆なのでは?」という一華に立川刑事は笑う。

「昨日、清水 樹里亜の元カレと会ってきましたよ」

「大丈夫ですか? いつも思うけど、そんなこと話して」

「まぁ、一華先生が誰かに話したり悪用するとは思いませんしね。それにこれはあれだ、先生に話がある前に、同僚と世間話をしている。ヤツですよ」

「ヤツですか」

 立川刑事の言葉に一華はほくそ笑み、二人の刑事に手を出しだした「では、どうぞ、話をなさってください」というように。


「清水 樹里亜の元カレの名前は「田上 アキラ」。この字を書いてです。居ましたでしょ、新田 玲。彼女が同じ字なんですよね。読み方は違うけれども」

 青山刑事の書いた字を見る。その紙には、田上 アキラの写真もあった。茶色に髪を染めた、いかにも夜の街に居そうな青年は、耳と、指に同じアクセサリーをつけていた。確かに、きれいな顔をしていてモテそうだが、正直、大事な場面でしり込みしそうな男にしか見えなかった。

「アキラに、レイね。なかなか身近に同じ漢字で読み方の違う名前の生徒には出会ったことないなぁ。まぁ、私の場合、そもそも呼び方を間違えられるけど。金田一 華とね。あまり気にはしないけれど」

 一華はそう言って続きを促すように顔を上げる。

「まぁ、事の顛末をしっかりと話してくれましたよ」

 立川刑事がそう言って、青田刑事の方を見ると、青田刑事は頷いて、

「清水 ジュリアにも裏を取ってきましたけどね」

 と説明を始めた。

 青田刑事の方が若い分、声に張りがあり、よく通るいい声をしている。

「そもそも、二人の付き合いは、アキラが大学一年の時に、清水が高校一年生で、まぁ、悪仲間を通じて知り合ったそうですよ。悪仲間と言っても、ごくごく学校に居るカースト上位の派手なグループ。と本人たちは話してましたけどね。

 一応、付き合いは清水が大学に入ってからも続いていたので、わりと長く付き合っていたんですが、新入学生のコンパというやつで、山森 佳湖カコとアキラが出会う。卒業しているアキラが参加できたのは、在学生が頭数が足りないんで、先輩暇なら来てください。に付き合っただけだと言ってましたね。

 アキラにとって、山森 佳湖はアキラの言うところのドストライクで、猛アタックをするわけですが、一応、彼女がいるのに山森さんにアタックしたのか? と聞くと、そのころには少々倦怠期というか、お互いが飽きていたそうで、ただ、別れ話をするということにはならなかったのは、話すことすら面倒だった。と二人が言ってます。自然消滅でもいいかぁ。ぐらいだったと。

 その時に、山森 佳湖と出会い、アキラは速攻でジュリアに別れの電話を入れ、一方的に別れたそうです。

 ジュリアいわく、意味が解んないこと言って、とにかく別れる。別れたからな。と言われたそうです。アキラもそんなことを言ったと思う。と言ってました。

 それから、アキラは山森 佳湖に、土下座して、好きになってもらう努力をしたいから、と毎日付き合ってくれと付きまとったんですが、……アキラいわく、あいつ、見た目ほど面白くないんですよ。で、猛プッシュしたところで、この面白くない女を彼女にしても、仕方ないなと三日で飽きたそうです」

 青山刑事が一呼吸をつく。

 一華が眉をひそめ、首を徐々に傾け、

「いろいろ突っ込みどころのある話ですね。……まず面白くない女というのはどういうことなんでしょうかね?」

「山森 佳湖の趣味が読書なんですよ。部屋には本はなかったけれど、実家には本棚―よくあるでしょ、背の高い本棚、あれが二つ満杯でした。アパートではもっぱら図書館に行っていたようですよ。読んでいる本のジャンルは様々で、アキラが図書館で邪魔しようとしても、本を読みだすと周りの音が聞こえないほどの集中力だったそうで、最初は、恥ずかしがって読んでいるふりをしているのだと思ったそうですが、さすがに三日も同じ場所で、同じことをされては、いやになったそうですよ」

「それが面白くない女ねぇ。それなのに、清水さんと元さやに戻ったんですよね?」

「まぁ、そこが、この二人のという点で、」

 青山刑事は首をすくめ、呆れた顔をし、

「清水はほかの男と付き合っていたんですよ」

「ほぉ、切り替えの早いことで」

「それが、そうじゃないんですよ。

 実際の話しが、清水のその新しい男のというのは、佐々木 保治と言いましてね」

「古風な名前ですね」

「この大学の四年で、アキラの後輩。あの、新入生の歓迎会でアキラを招集した男ですよ」

「ほぉ」

「清水から、アキラと別れるためには、アキラから別れを言わせる必要がある。そのためには、アキラの好みの女をあてがいさえすればいい。その失恋を慰めてくれた佐々木とくっついても、誰も文句は言わない。というやつです」

「……手の込んだことで」

「それに引っかかったアキラもアキラですが、清水も、そうやって陥れた代償は大きく、佐々木とはすぐに喧嘩別れしてます。

 そしてなんだかんだと、アキラとジュリアは今は復縁しているようですよ」

 一華は鼻で笑った。そうでしょうね。とアキラの写真のアクセサリーを指さした。

「清水さんも同じものしていたわ。

 清水さんと、佐々木君は何で別れたの?」

「実は、この佐々木は山森 佳湖の幼馴染だったんですよ」

 一華が首を傾げた。

 青田刑事が写真を取り出した。それはヤスジの資料と一緒になっていた。写真のヤスジは人当たりのよさそうな顔をしていた。細身なので気が弱そうな印象を受けるが、誠実そうな人柄はにじみ出ている気がした。

「佐々木自身は、山森 佳湖のことが好きだったのですが、自分とは不釣り合いだと思っていたところを、ジュリアに声をかけられる。

 なんでも、非モテ男子を改造してモテ男子にさせる。という部活の企画に参加してほしい。ということだったらしいです。ジュリアたちが勝手に立ち上げた、イメージチェンジ部とかいうやつらしいですが、どうも嘘くさいので、そもそもはアキラと別れるために周りを巻き込んだのかもしれませんね。

 それで、まぁ、元は悪くない佐々木ですから、そりゃいい服を着て髪を整えたら、ジュリアの好みになっていくわけですよ。見た目はね」

 青田刑事の言葉に一華がくすりと笑う。

「佐々木もまんざらじゃなくなるうえに、若干モテるんですよ。佐々木いわく、人生最大のモテ期だそうですよ。そのころには、淡い山森への恋心が消えていて、モテ期を謳歌するんですが、いかんせん今まで女子と付き合ったことのない男子が、一気に遊び人である清水たちと対等に遊べるわけもなくて、そのうちに疲れてきて、別れたのだと言います。

 そして、山森 佳湖の事件を知り、ショックで三日ほど寝込んでいたそうで、事情聴取の時も休んでいたそうです」

 一華は「ふーむ」と唸り、アキラと佐々木の写真を見つめる。

「なかなか手の込んだことをするんだね、今時の子の発想なのかしら?」

「というと?」

「なんか、面倒くさいなぁ。と思って。そして、それを清水さんがしたことが、イメージが違う気がして」

 二人の刑事も二枚の写真を見つめた。


2 新田 玲

 二人の刑事と入れ違いに、昨日電話しておいた新田 レイが朝早くに来て、山森 佳湖カコの交友関係などを調べてほしい。と頼んだ。レイはなぜ自分なのかと勿論いぶかしんだが、一華は、

「教師である私が聞きまわると、山森さんは、例えば、犯罪組織に巻き込まれていたのかもしれない。とか、脅迫して失敗したとか、売春してたかもしれないとか、ありもしない噂話が立つでしょう? だからと言って、この前話を聞いたほかの人、……名前何と言ったっけ? あの委員長のような子は、やたらと仕切りたがって、話しを集めてくるだろうけど、半分は自分の主観とか入れてきて、

 誰かが言うには、山森さんは誰にでも優しかったそうです。けど、このってところから彼女が言いそうな言葉よ、特に男子にやさしかったそうです。

 なんて情報はいらないのよ。第一、これは私が単なる興味で知りたいだけで、警察がどうこう言うわけじゃないのよ。

 まぁ、ぶっちゃけるとね、山森さんを私はあまり認識していなかったのよ。成績は中の上で、レポートも期日内に提出するけれど、それほどすごいものを書いてくるわけじゃない。授業態度もそんなに目立つこともない。そんな子を覚えているか? って聞かれたら、まるで覚えていない。

 それを、彼女の両親には言えないでしょう? 彼女の両親が、アパートの片づけとか済ませて、この週末―今日は火曜日だっけか? 水曜日? なんと! あと三日後には来るのか、まいったな―ともかく、それまでに、彼女にはこういう友達がいて、学校では楽しんで居て、って、そういう話をしてあげたいのだけど、……いかんせん、さっき言ったとおりだから、困っててね。

 で、誰に聞いてきてもらおうかと考えたら、助手の小林君じゃぁ、みんな口をそろえて、そんなに親しくなかった。で終わりそうだし、学級委員長―名前を覚えられないんだよ、でも、わかるよね? 彼女のこと、そうそう、高橋さんだ。そうそう―だと、男好きってだけになってしまうし、派手な彼女は……名前忘れたが、彼女はそんなことしてくれそうにないでしょ?

 あ、あと、一人いた? が、ああ、少しお姉さんの子。あの人にものを頼む気がしなくてね。もう一人いた? ……あぁ、居たかも。でもまぁ、一番に頭に浮かんじゃったのよ。迷惑じゃなければでいいのよ。山森さんの供養のためと思って、二、三人でいいから、大丈夫? やってくれるかしら?」

 一華の言葉に、負い目を感じているレイはしぶしぶ了解をした。

 レイが扉を開けて出ていこうとする瞬間、

「アキラ」

 というと、さっとレイが振り返った。しかもかなり不機嫌そうな顔をしている。

「と呼ばれるのが嫌なのね」

「そりゃ嫌でしょ。男の名前ですから」

「……昔のドラマで、アキラ君て呼ばれていた女の子がいたけどね。その子は、水晶の晶の字でアキラって名前だったわ。当時のトップアイドルがやってたなぁ。だから、別にあたしは変だとは思わないけど?」

「私は嫌です。男と一緒だなんて。第一、この字でアキラなんて読む方がおかしいわ」

 レイが語気を強める。その相手が一華だとすぐに気づきはっと息を飲んだ。

「山森さんにアキラって呼ばれたの?」

 レイは少ししてから頷いた。

「アキラ? って聞いて、彼アキラっていうのよって。私は同意していないし、私はレイです。って言ったら、ごめんなさいってすごく謝ってくれたけど、その彼とは、ジュリアの元カレで、略奪の末に三日で別れた相手だって。そんな彼と同じだなんて嫌でしかないでしょう?」

「まぁ、確かにね。

 あなたはその彼が清水さんの元カレだと知ってたんだ」

「ええ、高校が同じでしたから。大学生と付き合っているのよって、鬱陶しかったし。それが同じ字だと知ったときは、なんだか、私までもが軽く扱われている気がして。

 だから、香水ぐらいで、怒って……本当は香水とかどうでもよかったんだと思うんです。今にして思えば、ただ、私をそんな男と同等の扱いをしたことが許せなかっただけで」

 レイは唇をかんだ。

「そんな気分なのに、申し訳ないけれど、……山森さんのこと探ってもらえるかしら? なんで死んだのか、どうして死ななきゃいけなかったのか。どうしても知りたいのよ」

 レイの目の奥に「それをしたら、許されるでしょうか?」というような縋るような色を見たが一華は何も言わなかった。


3 北山 玖理子

 食堂で一華がBランチの鳥の甘酢掛けを口に入れた時だった。目の前に盆が置かれ、北山 玖理子が座った。

「刑事さん、何か言ってましたか? 進展があったとか?」

「……いや、なにも。……まぁ、他殺の可能性が少なくなってきてるっぽいなぁと。いかんせん、他殺だと言い切っているのがあなただけだから、これはいよいよ遺書とか出てきたら決定的かもしれないって印象を受けたけどね」

「そんな……彼女は、自殺なんかしない人ですよ」

 クリコはぼそりと言って、サラダと、持参してきたクラッカーを食べ始めた。一華は眉をひそめ、

「それが、昼食?」

「え? はい。おなか一杯になりますよ」

「へぇ。……そう」

 一華は首をすくめて鳥をほおばった。クリコはサラダに何もつけずクラッカーと一緒に食べている。時々ほかの生徒に声をかけられると、

「お腹張るよぉ。ダイエットとかじゃないってぇ」

 と、特に男子に向けて言っている。草だけ食ってお腹張るって、草食動物かよ。と思いながら、目の前で鳥肉をほおばる。

「先生ってよく食べますね? 体型とか大丈夫ですか?」

 クリコの言葉に一華が皿から目を移す。嫌みを言っているわけではなく、単純に食べすぎだと思うという顔をしている。確かに、ご飯は山盛りだし、おかずにしても、仲のいい調理場のおばちゃんのサービスで多い。確かに、食べ過ぎている量だ。

「……頭使うからかね、このくらい食べないと、夕方には酸欠でめまいが起こるんだよ。仕事を辞めたら、食べなくていいけどね」

「そうなんですね。でも、お腹苦しくなりません?」

「うーん、そうかもね。動きたくないかな」

「ですよねぇ。……私も、以前はよく食べていたんですけど、食べた後動きたくないし、眠くなるしで、だから、ちょこちょこ食べるように変えたんです。今はサラダだけですけど、次の授業後にはおにぎり食べたりとか。だから、荷物が多くって」

 とクリコは言ってカバンの中を見せた。確かにおにぎりがタッパーの中にいくつかあった。

「おにぎりって作るとき面倒だけど、食べるときは楽でいいですよね。私は鮭が好きだったんだけど、山森さんは梅干しが好きで、」

 そう言って唇をぎゅっと噛んだ。

「結構親しかったんじゃない?」

「……ほかの人の話を聞いたら、そうみたいです」

「気づいてなかった?」

 クリコは深く頷き、

「歳が違うから、かわいそうな、留年生って付き合ってくれているのかと思ってたんです。「はいはい、年寄りと付き合っている私ってえらいでしょ?」 とか思われてるんだろうなぁって。でも、本当に友達として付き合ってくれていたんだろうなぁって。……今更ですけど、思います」

「ほかの子たちと対応が違うと?」

「ええ……いい子たちですって、そういうと、ずいぶん年寄りみたいですけど……まぁ、実際、二十を超えているか超えていないかって大きいのかなぁって思います。

 ノートを見せてほしいとか、一緒に何かしようって、そういう時にかなり遠慮されたり、ゼミで合同でするのも、年長者の意見に従います。みたいな。すごくやりにくくて。いじめとか、いやがらせっていうものではないのでしょうけど。

 でも、山森さんはほかの子たちに接するのと変わらない態度で接してくれていて。でも、どこかで、妹みたいに懐いてきたりとか。そういう感じもあって。私は、兄がいるだけなので、妹ができたみたいで本当にうれしかって。だから、だから、自殺だなんて信じたくないんです」

 クリコがぼろっと涙を落とし、すぐにハンカチで顔を覆った。

 なるほど、最初に聞いた時以上に、クリコは山森 佳湖と親しく、それを認めていなかったのは、実際年齢が離れている同級生との接し方に疑問を抱いていただけだったようだ。

「山森さんが好きだった相手の、何かヒントとかなかった? プレゼントの中身とか、色とか」

「……全くないんです。プレゼントを用意していたことも知りませんし、相手についての話もまったく。ただ、好きな人はいる。素敵な人で、……頭がいい人だって言ってました」

「……頭がいい人。……漠然としたものだね」

「そうなんですよ。それってどういうこと? 勉強ができるってこと? って聞いたら、両方って。両方って何でしょう?」

 クリコの涙に濡れた顔が一華を見上げる。一華は首を傾げて、

「さぁ……勉強と、日常生活の高さ? サバイバル術ってことかね?」

「……キャンプとかする人でしょうかね?」

「キャンプねぇ」

「キャンプする人なら、人のいない場所とかに行くんじゃないですか?」

 一華は黙ってクリコを見返した。クリコは自分で言ってから、右手を頬にあてがいながら、

「そうよ、そうですよ。忙しくてキャンプ場とか行けないから、でも、どうしてもキャンプしたくて、あんな人が来なさそうなビルの屋上でキャンプとかしてるんですよ。防犯カメラとかないところなら、怒られることもないでしょうし」

 クリコは何度も納得したように頷くと、ランチの終わりを告げるチャイムで跳ね上がり、慌てて片づけをして出ていった。

「ソロキャンパーに片思いをして、その場に現れたから相手が怒って突き飛ばした? と……ふーむ」

 一華が腑に落ちなさそうに唸った。


4 佐々木 保治

 清水 樹里亜が来たのは3時限目の後だった。一華に午後の授業が入っていないのを朝確認してきたので、居ると思った。と真っ先に言われた。

 相変わらず、ひと昔前の女不良ヤンネーか、キャバ嬢のような派手な見た目ながらも、少し気まずそうな顔が見える。

「先生に会いたいって。警察の人に話すと緊張してしまうからって。大丈夫ですかぁ?」

 そう言ってジュリアの後ろに立っていたのは、気弱そうなでも好青年の佐々木 保治ヤスジだ。写真の通り大人しい印象の男子はゆっくりと会釈をした。

「どうぞ」

 と二人に椅子を指さしたが、

「私、これから授業なんで……まぁ、私とか、アキラとかから話聞くより、ヤスから聞いた方が確かだと思う……てか、もう、話すことないし。じゃ」

 とジュリアは出ていった。余計なことは言わないでよね。と釘を刺されているのか、それとも、どうでもいいことなのか解らないが、ジュリアがいなくなり、ヤスジは大きくため息をついた。

「えっと、初めまして。佐々木です」

 と、変な挨拶を入れて、ヤスジは座りなおし、助手の小林君が入れてきたお茶に会釈をした。

 黒く短い髪は清潔感があふれていて、眼鏡も真面目さを加えさせている。要するに真面目が歩いている。という子だった。

「警察を前にしたら緊張した?」

「……はい」

 ぼそりとつぶやいた。

「いきなり来て、カコが死んだって、……家に居たんです。その日、休みで、一日寝ようって、そしたら、急に来て、そんで、カコと、ジュリアと、アキラ先輩について聞かれて、なんか、その、どうでもいいことも言った気もするし、間違って伝わってたらいやだなぁと思うけど、何言ったか覚えてなくて。でも、なんか、自己中っぽいことばっか言った気がして、それで、どうにかしたいんだけどって、ジュリアに言ったら、先生を紹介するって。刑事さんと仲いいからって。他の先生に言っても、助けてもらえそうもなかったんで、最後の望みというか、まぁ、そういう、感じで」

 ヤスジは口ごもって上目遣いで一華を見た。一華は何かの紙を読んでいるようで、まともに相手されていないと思ったのか、ヤスジの眉間にしわが寄った。

「IT科か。じゃぁ、……森本先生かぁ……あの先生は面倒事にかかわりたくない人だから、警察に連絡したり、話は聞いてもらえそうもないわなぁ。まぁ、もともと超PCオタクだし、話している言葉も言語が違いすぎて意味不明だから、君が清水さんに相談したくなるのも解るわ」

 そう言って机に紙を置いた。いったいいつ調べて出してきたのか解らないが、佐々木 保治の履歴書と、選択学科とその成績などが書かれたものだった。

「君は、山森 佳湖は自殺したと思うかい?」

「……解りません。でも、カコの性格からして、なんか、らしくなくて。いや、自殺したくなる気持ちになるかどうかってことだと、正直解りませんよ。解らないけど……でも、なんか、そういうことしそうにはないと。

……、いや、自殺じゃなかったと思いたいです」

 ヤスジは素直に心の内を話した。その顔は苦しそうだったが、最後の言葉は彼なりに願望を力強く言った。

 ヤスジの言葉に一華は深く頷き、

「それでなんだが、逆にね、……逆にねぇ。まぁいいや。逆に、私は助けてほしいと思っていたんだ」

「助けてほしい?」

「そう。私は……私の授業を取っていたはずの山脇 佳湖について何にも知らないんだ。メモしているのは、あたり障りのない授業態度と、テスト、提出物に関しても期日内を守っていて、いたってまじめ。としかないんだ」

「それでいいんじゃないんですか?」

「……君の評価として、真面目である。とだけ書かれていて、うれしいか?」

「え? そういうものじゃないんですか?」

 ヤスジは驚いたように一華の顔を見入った。

「……では、君が、山森 佳湖さんの親、兄弟だとしよう。学校での彼女を知らない家族が、この度やってきて、私から、「娘さんはいたってまじめでした」と聞かされてどう思う?」

「どうって、うちの娘はまじめでよかったなぁって」

「それだけ?」

「え? はい……それだけですけど」

「じゃぁ、私もそれだけだ」

「え?」

 一華は背もたれにもたれかかり、腕を組み、足を組んでヤスジを見る。

「彼女はまじめだった。終わりだ」

「え?」

「だから。終わりなのだよ。真面目でした。それだけ。それ以上もそれ以下もない。

 こんなことにならなければ別に大した言葉じゃない。逆に、真面目である。なんていいことだが、こんなことになってしまい、彼女の学校に残っている荷物を引き上げに来る親に、真面目でした。というのはあんまりじゃないか? せめて、彼女はたくさんの友人に囲まれていたとか、積極的に授業に取り組み、私の手伝いをしてくれていたとか。そういうことが欲しいとは思わないかい?」

「いや……そう、そうです、か?」

「……では一つ教えてあげよう。山森 佳湖さんは、不器用ながらマフラーを作っていたようだよ」

「は、はい?」

「マフラー知っているかい? 毛糸で編むんだ。マフラーを編むというのは、人によってだが、一週間から一か月もかかる。初心者であったら、さぞかし時間がかかっただろう。クリスマスも近いし、その時に渡す気だったのかもしれないね」

「だ、誰にですか?」

「それは知らない」

「いや、それ、まじですか? ありえませんよ。あいつ、だって、そんなことしてるなんて知らないし」

「嘘だよ」

 一華の声のトーンがまっ平らすぎてヤスジは一瞬状況が呑み込めないという顔をした。

「マフラーなんか編んでいるかどうか知らん」

「はぁ?」

「だが、君の知らない山森 佳湖が存在していたかもしれない可能性は感じなかったか? 君が知っている山森 佳湖はどういう子だった? 親が知っている山森 佳湖はどんな子だろう? 彼らは、大学での山森 佳湖の姿を知らない。その知らない姿が、「真面目でした」というのは、あまりにも短い情報ではないか?

 彼女は19歳で女子大生で、大学を楽しく過ごしていた。他にも、いろいろなことを話せば、彼女がここに居たことを、少なくても大勢の人が記憶してくれていることが解る。それは、彼女がいた証拠であり、彼女が愛されていた記録だ。

 それがたったの「いたって真面目でした」とだけなのは、あまりにも寂しくないかい?」

 一華の言葉にヤスジは開いていた口を閉じて俯いた。

「君にしたって、この紙切れ一枚以上のことがあるはずだし、事情は何となく聴いているが、実際、何があったのか解らない。人によっては、山森 佳湖は人の彼氏をとるひどい女だという話がある。それが本当かどうかを知るためにも、話してほしいのだが、大丈夫かい?」

 ヤスジはカコが悪く言われていることに対して我慢ならないのか、きっと顔をこわばらせたが、一華の説明に理解を示したのか、緊張を少し解いて頷いたが、俯いたままでいた。

「……幼馴染なんです」

 ヤスジは意を決したようにぼそりと言い始めた。


「幼馴染と言っても、家が近いとかじゃなく、小学校から同じ学校で、中学も、高校も、大学も同じで、まぁ、高校、大学は家の方向が一緒なんで、たまに一緒に帰ったりしてて。クラスこそ違うけれど、腐れ縁だとよく笑ってました。というか、自分が、カコに合わせていたんですけどね。

 あの見た目なんで、中学のころからモテていたんですが、面倒見のいい姉さん気質で、どちらかというと、よく期待外れだと言われてて、それでも、高校ぐらいまでは、その性格をみんな知っているから、今のような……どろぼう猫のような言い方はされなかったですけど。

 大学に入ってから、更にモテ始めたというか。まぁ、やっぱり、かわいいですからね。でも、中身は、本当に気風がいいというか、わりと男らしいんですけどね、どうしてもあの顔じゃぁ……。

 同じクラスの子に誘われて合コンに参加させられるって嘆いてました。でも、合コンへ行くと、やっぱり、好い奴とか、悪い奴とかいて、もしかするとって、ちょっと、なんていうか、焦ったというか、」

「君が?」

「はい、僕が。行くことないじゃんて、どうせ、人数合わせだろうって。そんなとこ行って、取り返しのつかないことになるぞって。言ったけど、この後気まずくなるの嫌だし、一回だけって言ってたから。たぶん、一度はみんな誘うんじゃない? その中から、行きやすい人とか選ぶんじゃない? って、のんきなことを言ってて。

 でも、知ってるんですよ。それを主宰していた高橋 恵が、カコがいれば、男のレベルが上がるから誘っておいたって。エサですよ、エサ。

 だけど、どうも、その合コンで男が全員がカコを気に入ったらしくって、女子の反感を買って。って、ものすごい理不尽じゃないですか? エサだと言いながらそのエサがすべてをかっさらったら怒るって。

 まぁ、それっきり誘われなくなったらしいんで安心してたんですけど、でも、もし、次、別の合コンとか、合コンじゃなくても、なんかの拍子に誰かと出会ったらとか、急に不安になってた時に、出会って、」

「ん? 出会う?」

「あー、ジュリアと。

 ジュリアが急に話しかけてきて。ああいうタイプとは全く縁がないんで、ちょっと苦手なタイプだったんですけど、自分がカコと話しているところを見たことがあるって。それで、まぁ、気持ちがばれてて、まぁ、はい。

 ジュリアが言うには、彼氏と最近ぎくしゃくしてて、彼の気持ちを確かめたいとかで、なんか、助けてくれって言いだして」

「助けてくれ?」

 ヤスジは頷き、耳を赤くして、先ほどから何度もやっている親指の爪どうして擦り合わせながら、

「カコに彼氏を誘惑させてもなびかないか見たいと言って。もちろん断りましたよ。もしかしたら、両思いになるかもしれないし。

 そしたら、ジュリアがカコが振り返るほどのいい男にしてやる。と言い、女にもてるように改造を手伝ってくれると言い出して、まぁ、かなり非モテな男ですから、そういう服装だし、パッとしないし。

 それが、手始めにって、眼鏡を変えさせられたその日に、数人の女子に、今までたいして話をしたことない人から、眼鏡変えた? いいじゃん。って言われて。まぁ、その気になっていって。たぶん、これもジュリアのサクラだったんじゃないかって疑ってますけどね、今では。

 それで、その改造計画と、アキラ先輩をはめる作戦を決行するんです。

 ジュリアにとって、カコと知り合いだったことと、アキラ先輩の後輩だったことで、自分に目を付けただけで、本当は誰でもよかったらしいです。カコがアキラ先輩の好みだったから、カコに話しかけられる人なら誰でも。

 もちろん、どんな思惑があろうと、自分が格好良くなって、カコを引き留めれればいいわけですから。となんかよく解らない自信を持っていて。

 まさか、ジュリアがアキラ先輩と別れたがっての芝居だとは思わなかったですけどね。なんせ、そんなことを考えつきそうな人じゃないから。

 とにかく、カコを合コンに誘うべく、高橋さんにイケメンをそろえるから、カコを誘っておいてほしいと頼み、アキラ先輩も誘って、まぁ、見事にアキラ先輩のドストライクにはまって、その日のうちに、アキラ先輩はジュリアに別れの電話を入れるし、思っていた結果と違うけど、そんときには、自分の方がカコからちょっと気持ちが離れていて。

 ジュリアが服とか買いに行ったり、いろいろとデートコースはこういうところがいいとか、案内してくれたせいか、なんか、ジュリアの方を好きになってて。今思えば、それは好きって感情かよく解んないけど、だから、アキラ先輩が別れの電話をしてきた時には、これでジュリアと付き合える。と思ったのは、本当で」

 ヤスジはそう言って項垂れ、堅く両手を握りしめた。

「そうしたら、ジュリアが、話しが違うわよって激怒して。一瞬訳解んなかったけど、そうだ、自分はカコが好きで、ジュリアはアキラ先輩の気持ちを確かめるだけだった。別れるためじゃないじゃんて、慌ててアキラ先輩のところへ行って、ジュリアと別れちゃだめですよとか、カコに本気なんですか? て、言ってたんですけど、アキラ先輩に足蹴にされて。

 どうしようって、ジュリアのところへ行ったら、ジュリアは、別の男とデートへ行くって、」

 ヤスジの声に怒りが混じってきた。肩が震えて、冷静に話そうと息を引き飲んだが、そういうわけにはいかないようで、声が震えてきた。

「ジュリアはそもそもアキラ先輩と別れたかったんですよ。でも、自分が仕掛けたとなると後味が悪いから、カコにうつつを抜かしたアキラ先輩の浮気が理由だと。もしカコと付き合えば、カコは、ジュリアからアキラ先輩を奪ったひどい女だと言えるし、アキラ先輩だけがのぼせたとしても、それはそれでよかったんですよ。とにかく、アキラ先輩から別れ話を切り出させたかっただけなんですから。

 自分の立ち位置は、二人に連絡が取れる唯一の人間だっただけです。ですが、それだけでは、カコや、アキラ先輩に情報が洩れるから、自分には自分用に理由を考えただけらしいんです。

 まぁ、非モテの、オタクですから、女子から声をかけられて舞い上がって、模擬デートとか言って連れまわされた場所の支払いは、すべてこっち持ちだったし、よくよく考えれば、おかしな話ですけど、でも、最初は、カコと行けたらいいな。とか思っていたし、そのための勉強代だとか思ってたし、そのあとでは、ジュリアと付き合っている気になっていたから……まぁ、高い夢代になったけど、そういうわけなんです」

 ヤスジは自分がみじめに思えてきたのか、最後は尻すぼみに肩をぐっと落とした。その姿は、怒られた子供のようで、同情心が芽生える。―母性が芽生えるのではないところが、一華らしい―

「なるほど……。かなり手の込んだ演出だが……君は言っていたね。ジュリアがこういうことを考えそうにないって。本当に?」

「見たでしょう?」

ヤスジは自分の声の大きさに驚き首をすくめ、咳ばらいをしてから、

「ジュリアがそんなことを考えそうに見えますか? 難しいこととか考えられないし、どっちかしかない人ですよ。そう、誘ってきた時も、するか・しないかしかなかったし。普通、考えておいて。とかって猶予があるもんじゃないですか。でも、する?  しない? どっち? って、そこで返答を迫られたし。模擬デートも、ここへ行くって決めて、反論しようとすると、行かないの? 行くの? って、強制的というか、自己中ですよ。ほんと。

 ……だから、かなぁ。そんな裏があるように思えなくて、最終的なこと解った時には、なんかいろいろと頭痛くなってきて、え? そんなことしてたのって、なんか、普通よりダメージが大きいというか。女子って、怖いなぁって」

「なるほど……ん?」

 ヤスジが一華の方を見る。それは一華の反応を見ているのではない、一華の言葉を待っている目だ。

「先生はどう思いました? ジュリアが、考えたと思いますか?」

「……その言い草だと、ジュリアは誰かの案を実行した。と思っているんだね?」

 ヤスジは頷いた。

「ジュリアは、見たままのわがままで自己中で、素行が荒いっていうんですか? ヤンキーなんですよ。模擬デートの最中も、なんか、不良に従わされている気があったけど、カコを使ってアキラ先輩と別れようとするとか、そのために自分を使おうとか、そんな姑息な手の込んだことしない気がして、いや、もしかすると、そこまで頭がいいのかもしれないけど。

 でも、今回、先生を紹介してくれって頼んだ時、「まだそんなこと気にしてんの? てか、自殺らしいのに、何が不満なの?」って。こんなことあったってばらすって言ったら、「言えば? でも、あんただって、あの子からあたしに乗り換えたじゃん」て、……まぁ、一瞬ですけど。そうですけど」

 ヤスジは気まずそうにした顔をうつ伏せた。これ以上心をさらけ出したくはないとでも言いたげに、気合で顔を元に戻し、

「とにかく、なんかジュリアの中ではすでに過去の話しで話で、まだ気にしてるのかって。バカにされた気がするし、薄情だなって。まだ、一週間と経ってないのに。でも、それがジュリアらしいなって、自己中でわがままなジュリアらしいなって。そう思えば思うほど、なんか、こう、違和感がある。というか。

 先生はどう思いますか? ジュリアが考えたか、どうか」

「……例えば、清水さんが考えたとして、そこまでうまく運ぶか。と聞かれたら、私の印象から思うに、途中で計画はだめになるだろう。

 何か策を立てたとしても、彼女の見た目や、言動、それから君から聞いた話から想像しても、あまり難しい策は講じれないと思う。この計画は、なかなか面倒で、陰湿な計画じゃないか、そんな難しいこと、清水さんが考えたとは思えないね。

 では、誰かが、清水さんに入れ知恵したか? 清水さんの性格から、そういう助言は聞き入れないと思う。では、どこかで話していた誰かの策を試したか。これは無理がある気がする。一度や、二度聞いただけの世間話を覚えていられるだろうか?

 だけど、しっかりと、彼女に入れ知恵をする人がいたら話は別だ」

「入れ知恵? どういう……」

「少しずつ。少しずつ、進行具合いに合わせて清水さんを動かした誰かが居たとする」

「何のために?」

「さぁ……アキラ先輩? を好きな誰かかもしれないし、かもしれない」

「悪趣味な」

「世の中にはいろんな人がいるものだよ」

 一華の言葉にヤスジは苦々しそうに顔をゆがめた。そういう厄介な人間がいるのも理解しているが、自分には無関係だと思っているからなのか、信じれない顔をしている。

「でも、仮に何か目的があったとして―アキラ先輩と付き合いたいとか、もめごと大好きとかいう目的でも、目的は、目的だとして―ジュリアに逐一行動を言い続けた相手がいるってことですよね?」

「そうだね」

「そんな人が居るんでしょうかね?」

「それは、面と向かって話していたわけじゃないかもしれない」

「? いや、さっき、会話の盗み聞きじゃ無理だって」

「繰り返される話は脳に残るものだよ」

「繰り返される?」

「暗示や、催眠術みたいなものだよ。常に同じ話を近くで聞いていたら、嫌でも覚えてしまう。

 例えば、流行歌とかがそうだよ。

 あとこちで流れているじゃないか。本人の興味など無視してあふれている。更に繰り返される。そして、気付いたら覚えているものだろう?

 ただ本人に注意して聞くという意識がないから、いつ、どこで聞いたのか思い出せない。本人は自分で考えたものだと思い込み、「このアイデアはすごい、私は天才」とか思っているかもしれないしね」

「そんな時間のかかること……なんだって、そんな遠回しなやり方をするんです?」

「考えられるのは、自分は手を汚していない。と言えるから、かな? たぶん、それが一番の理由かもしれないね。自分は手を汚さす、人を不幸に落とし込む。すごいことじゃないか?」

 ヤスジは顔をしかめた。

「とにかく、このままでは山森 佳湖は自殺扱いにされかねない。彼女のことをできるだけ聞き出してきてほしい。ただし、君は主観を持ってはいけない。彼女は自殺したんだろ。と言ってくる人が多いと思う。だって、殺される理由ないからね。今のところ。だからって、君が主観をもって反論したら、誰も話さなくなるからね」

「じゃぁ、どうやって聞くんです?」

「そうだねぇ。彼女の親に彼女のことを伝えるために、何かエピソードなかったか。って聞いてくれるかい? 悪い話でも、いい話でも。伝えるのは、こっちが選別していい話しかしないからって。なんで聞くんだって言われたら、高校で一緒だったから、まぁ、なんかそんなんで引き受けざるを得なかったって。それで聞いてくれるかな?

 あと、この五人には聞かなくていいし、この五人のいない場所で極力聞いてほしい」

「……、この五人が容疑者?」

「さぁ。ただ、彼女と何かしら関係があった五人ではある。だから、まぁ、話しは直接聞けるからいいってだけ。……隠れている犯人。もしくは、自殺の理由を作った人、」

「自殺じゃないんですよ、」

 一華の言葉を遮るようにヤスジが飛び上がり、その大声を一華が手をかざして顔をしかめる。

「君は、彼女を助けたくないのか? そんなんじゃぁ、頼めないんだがね」

 ヤスジが唸りながら顔をしかめて座った。

「主観を持つな。情を出すなよ。君の情報収集にかかっているんだよ。誰が、なぜ。それが解らないと、」

「カコが、自殺として扱われる。……先生は、カコは殺されたって思ってるんですね?」

「さぁ。どうだろうねぇ」

 ヤスジが驚いた顔を向ける。さんざん殺された理由を知りたいと言っていたのに、他殺を確信していると確認したかったのに、意外な返答に声が出なかった。

「いや……そうだね、他殺だと思うよ」

「なんですか、その、なんか含んだ感じは?」

 一華は首を傾げて、腕を組んで唸った。「この格好をすると考え込むから、もう、君のことは忘れているから帰りな」と助手の小林君に言われ、ヤスジは首をすくめて立ち上がったが、確かに一華は動じることなくどこかを見て、動かなくなった。














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