【 第9話: 生かされた命 】
掴んだものは、川に下りるために作られたコの字型をした金属製の階段だった。
押し寄せる黄土色の濁流が、止め処なく私の体を襲う。
勢いが衰える気配は一向にない。
あの津波の時と違い、今日は制服姿で、ゴーグルを付けていない。
だから、目を開けていられないのだ。
しかも、津波の時に使えた、水泳部で鍛えたあの足が全く動かせない……。
私はその濁流に耐えながら、力の限り叫んだ。
「助けてっ! ぷふぁ、助けてーーっ!!」
その時、私の左手を誰かが掴んだ……。
「水葉ーーっ!! 僕の手に掴まれーーっ!!」
その声の主は、
彼だった……。
「涼太っ!? ぷはっ、涼太なの……!? ぷふぁ!」
彼は私の左手首を掴んでいた。
「水葉っ! 僕の手をしっかり掴め!」
あの津波の時、先生の左手を私は離してしまった……。
もう二度と後悔なんかしたくない……。
(手を、彼の手を今度こそ、しっかりと離さずに掴むんだ!)
濁流が私の体に襲い掛かる中、彼の右手を強く掴んだ。
『ギュッ!』
「よしっ! 君の足は動く! 足を土手に掛けるんだ! やればできる! 君の足は動くんだ!!」
私は、彼のことを信じて足を動かした。
その時、なぜか足が動いた……。
「そうだ! 引っ張るぞ! 絶対に、僕の手を離すんじゃないぞ! うおぉぉーーーーっ!!」
彼は力の限り、私の体を持ち上げる。
『ズザザザッ……』
私は勢い良く、彼の体の方へ引き寄せられる。
その瞬間が、まるでスローモーションのように感じられた。
彼は勢い余って後ろへと倒れこみ、体が彼の胸の中に折り重なった。
気付くと、涼太の胸の上で、大きく波打つように生きている鼓動を手の平から感じていた。
彼に助け出されたことで、私の涙腺は完全に崩壊し、瞳から涙が止め処なく溢れ出てくる。
「涼太ぁ……、ありがとう……。うわぁーーっ!」
この土砂降りの雨の中、彼の胸の中で、大声で泣いた。
彼が私のこの命を救ってくれたんだ……。
『ザァーーーーッ!』
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