【 第5話: 出会い 】


 左太ももを5針程縫うケガを負ったが、私はそれ以上に精神的なショックの方が大きかった。

 連日、病室のテレビで流れる津波の映像を見て、立ち上がることさえ出来なくなっていた……。


 ずっと一日中、病室のベッドの上。

 何もする気も起きず、ただ運ばれてくる食事に少し手をつけるだけ。

 そんな日々を淡々と送っていた。


 担当の先生がリハビリを進めるが、なぜだかどうしても立ち上がり、歩くことができない。

 あの時の恐怖が蘇り、足が震えて、前に一歩踏み出すことができなくなってしまった。


 看護師さんが、車椅子で気分転換に病室から出ることを提案してくれる。

 その日、初めて車椅子で自分の病室を出てみた。


 病室以外の景色を見るのは久しぶり。

 車椅子を漕ぎながら、勇気を出して廊下へと出てみる。


 私の入院しているこの総合病院はとても大きく、病室も10階にあった。

 病室から出て廊下を進んで行くと、中央部分が吹き抜けになっており、ガラス越しに下の階の様子が見渡せる。

 さらに進んで行くと、右側に食事もできる大きな談話室が見えてきた。


 そこには外側の壁一面、大きなガラス張りのスペースがあり、窓に向かって横に長いテーブルと椅子が置かれている。

 その窓からは、この10階の建物から見下ろすように、遠くにある山々や町の景色が一望できる。


 私は久しぶりに見る、太陽が降り注ぐその眩しい景色に、車椅子から手を離し、左手で顔の前に影を作り、目を細める。

 ふと隣を見ると、私と同じ高校生くらいの男性がコーヒーカップを片手に座っていることに気付く。


 その時、一瞬だけ目が合った。

 すぐに私は、顔を窓の外へと向けて、遠くの方をぼんやりと眺める。


 すると、その男性は私の姿を見て、突然、こう聞いてきた。


「車椅子なんだね。足ケガしたの?」


「えっ? あ、うん……。あの津波で……」


 私は恥ずかしそうに、口に手をやり俯き加減にそう答える。


「じゃあ、同じだね」


 彼はやさしそうな笑顔を作り、首を斜めにしながらそう言った。

 彼もあの津波で私と同じように足をケガしたらしい。

 だけど、彼はとても前向きで、両足をケガしたにも関わらず、リハビリを頑張り、ようやく歩けるようになったと話してくれた。


 なぜだか、久しぶりに心が躍っていた。


「あ、あの、あなたのお名前は……?」


「僕は『涼太りょうた』。君は?」


「私は『水葉みずは』」


 それが、彼との初めての出会いだった。



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