第5話 僕だけの特別戦闘訓練がハード

 これからの予定を聞いて絶望していると、ミアが一人の女の子を連れてくる。

 黒髪ショートカットがよく似合っているこの子は、たしか・・エナ。

 話したことはないはずなんだが、いったい僕に何の用だ。


「えっと、リオ。確認だけど、リオは超能力使えないんだよね?」

「そうだけど。」

「あのね、これから私たちを裏切った人間たちと戦う時、リオは超能力を使えないから危ないでしょ。戦闘中ずっとリオを守っててあげたいけど、それはできない。だから、リオには自分のことは自分で守れるくらいには強くなってほしい。」

「なるほど、エナを連れてきたのは、エナが僕を強くするサポートをするからか。」

「ご名答。それじゃ、あとはエナに任せるから。がんばってねリオ。」


 ミアは言うだけ言ってすぐにいなくなった。

 なんで逃げるようにいなくなったんだろう?


「リオ、さっそく始めるから移動する。」

「あーわかった。・・・えっ、今から始めるのか。」

「あたりまえ。だってリオは死ぬほど弱いから。」

「なっ、そこまで言うことないだろ。」

「・・・・。」

「無視すんなよ。」


 エナに連れられて、戦闘訓練室に着く。

 掃除では毎日来ていたが、まさか使用するためにここに来るとはな。


「まずは準備運動。とりあえずランニングマシンで十キロ。」


 ん?僕の聞き間違いかな。

 準備運動でとりあえず十キロ走なわけないよな。うん。聞き間違いだろう。


「何してんの。早く十キロ走って。準備運動はそれだけじゃないんだから。」


 おいおい、うそだろおい。

 準備運動で十キロ走だけでも異常なのにそれだけじゃないだと。

 むりだ。準備運動だけで倒れる自信がある。

 というか、アホなのかこいつは。こんなのどう考えても準備運動じゃないだろ。


「ねえ、早く始めて。考え事なら走りながらすればいい。」

「わかったって。やればいいんだろ。」

「わかればいい。」


 なんかむかつくが仕方なく従う。

 なんとか十キロ走ることが出来た。


「はぁー。おそ。ぜんぜんだめ。」

「おい、聞こえてるぞ。」

「あたりまえ。聞こえるように言ったから。」

「なっ、おまえ。」

「自分の実力をちゃんと知っておくことが大切。次は、腕立て、腹筋、背筋、スクワットを五十回ずつ。それで準備運動は終わり。」


 こいつ僕に何か恨みでもあるのか。

 これが準備運動だなんてどう考えてもおかしい。


 はっ!

 一つ思い当たることがある。

 まさか、こいつミアが僕にとられたとでも思っているのか。

 誤解を解けばもう嫌がらせしてこないかも。


「なあエナ。僕は別にミアを君から奪ったわけじゃないからな。」

「何意味わかんないこと言ってるの。早くやって。百回のところを五十回に減らしてあげたんだから、これくらいさっさと終わらせて。」


 これが嫌がらせじゃないだって。

 じゃあこいつは、ただ頭がおかしいだけなのか。


 なんとか準備運動を終わらせた。

 僕はもうすでにふらふらだ。


「それじゃあ、一通り武器を試す。まずは銃。」


 やっと武器選びか。


「いろいろあるけど、実際の戦闘で使われるのは光線銃かライフル。じゃあ、光線銃から説明する。」


 僕に光線銃を手渡すと、エナは説明を始めた。


「扱いはとても簡単。昔の銃と違って、弾を詰めたりする必要がないから撃つだけでいい。それに撃った時の反動もほとんどない。」

「へぇー。すごいな。撃ってみるぞ。」

「うん。」


 射撃訓練スペースで試射する。

 銃を的に向かって構え、狙いを定めてゆっくり引き金を引く。

 初めて本物の銃を撃った。

 驚くことに、エナの説明通りほとんど撃った時の反動がなかった。

 だから、僕の撃った光線はちゃんと的に当たっていた。


「なあ、もう少し撃ってみていいか。」


 僕が尋ねるとエナはコクリと頷いた。

 今度は連射してみる。

 今回も全て的に当てることが出来た。

 少し楽しい。そう思えたのはこの世界に来てから初めてだ。


「次はライフル。まずは、ライフルを固定する。そして、スコープで的を的確にとらえる。そして、照準を合わせたら引き金を引いて狙撃。ライフルを使うなら、常に一発で敵の急所を打ち抜くこと。」

「わかった。的のど真ん中を狙う。」


 ライフルを台に固定して、スコープを覗いて照準を合わせる。

 そして、呼吸を整えて狙撃。

 的に当てることは出来たが、ど真ん中には当たらなかった。


「じゃあ次、剣。」


 というふうに、どの武器も少し試したらすぐ次の武器といった感じで、あっという間に全武器を試し終えた。

 僕の意見や意思はガン無視で、僕の装備はエナによって光線銃とダガーに決められた。


「それじゃあ、戦闘訓練はじめよっか。」


 なぜか嫌な感じがする。

 これまでと違って、声に感情がこもっていたような感じがした。

 それに妙にやる気な顔になっている。


「さあ、フィールドに入って。」


 特殊な結界に包まれているバトルフィールドに入る。

 この結界は、結界内からの攻撃を外に出さないらしい。

 だから、光線銃も使えるが、万が一にも結界を壊してグレーンも壊してしまってはいけないため、僕が使うのはダガーだけだ。


「それじゃあ始める。」


 その合図から十秒も経たないうちに僕はやられた。

 木刀でボコボコにされた。


「早く立って、次いくよ。」


 エナはすごく生き生きしていた。

 さっき嫌な感じがしたのはこれか。

 彼女は間違いなく戦闘狂だ。

 

 僕は何度も彼女にボコられた。

 剣、槍、ハンマー、棒、ヌンチャク、スコップ、などなど、ありとあらゆる武器でボコボコにされた。

 

「時間的に今日はここまでね。明日は、もっと厳しくするから。じゃあ。」


 彼女は満足そうな顔をして部屋から出ていった。

 これ以上何を厳しくするんだよ。と思いながら、文句を言ってやろうとエナを追いかけようとするが、全身が痛くて立ち上がれなかった。

 そこに、ミアがやって来た。


「おーい。リオー。だいじょうぶ?」

「これが大丈夫な人間に見えるか?」

「んーや。全然見えないけど。」

「なら聞くな。」

「えー、せっかく心配してあげてるのに。いいの?私にそんなこと言って。これからどんどん厳しくなっていくドSなエナの戦闘訓練を受けてボロボロになったリオのことを、誰も助けに来てくれなくなっちゃうかもよ。」

「すいませんでした。明日からもボコボコにされている僕を迎えに来てください。」

「もうー仕方ないなぁー。そこまで言うなら、ちゃんと明日からも迎えに来てあげる。」

「ありがとう。」


 ミアがエナを連れてきた後すぐ逃げた理由がよくわかった。

 ミアのせいでこんな目にあってるのに、自分優しいアピールしてきやがってちくしょー。


 翌朝、体の痛みは解消されるどころか悪化した。

 全身のあざプラスあの準備運動による筋肉痛。

 最悪のフィジカルコンディションで戦闘訓練二日目が始まる。

 二日目は、戦闘に必要な体力と体を手に入れるためという理由で、ランニングと筋トレの量が増えた。

 ランニング二十キロ、腕立てなどの基本筋トレセット二百回だ。

 ちなみに、ペースが遅くなると、蔑んだ眼や見下した眼で僕を見ながら罵ったり、鞭を振り回したりしてきた。

 そして、その後は光線銃の撃ち込み。これだけが唯一楽しい。

 あとは、エナお待ちかねの戦闘。


 この地獄のエナ特別戦闘訓練は、グレーンでこの星を出てからも続いた。

 一か月も続ければ、体つきも変わったし、少しは強くなったと実感できた。

 けれど、未だに毎日エナにボコボコにされている。


 たしかに強くはなってきているが、僕だけの特別戦闘訓練はとてもハードだ。




 


 





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