第4話 これからの予定が僕にはハード

「ついにグレーンが完成した。みんなこれまでよく頑張ってくれた。今夜は外で盛大に祝杯だ!」


 ライネルの声が通信機から聞こえてくる。 

 ついに、グレーンが完成したらしい。

 みんながめちゃくちゃ喜んでいる声が、外からも中からも聞こえてくる。

 それもそのはずだ。

 この世界に取り残されたみんなが、協力して造りはじめて三年。

 何もないところから造り上げたんだ。

 嬉しくないはずがない。


 だが、僕はそんなことはない。


 というか、全く嬉しくもなんともない。


 なんせ僕は、グレーン造りには一切関与していないし、ここに来てまだ三か月しか経ってないから、何の達成感も喜びも感じない。

 それに、グレーンが完成した時僕は、一人で膨大な量の洗濯をたたんでいる最中だった。夕食の準備も控えているから、一緒に喜びあっている暇など僕にはない。

 そもそも、この時間僕がどこで何をしているか知っている人は、悲しいことに一人もいないだろう。

 悲しいだけであって、別に悔しくなんてないけど。

 だから、誰も僕の許には来ない。

 仮に誰かが来たとしても一緒に喜べないから別にかまわない。


 結局誰も来ることはなく、今日の分の全ての洗濯をたたみ終えて夕食の準備に向かう。

 今夜は急遽外でバーベキューということになったから、準備はただ道具と食材を運ぶだけで済んだ。

 僕はお祝い気分でもないし、やはり一緒に喜びを分かち合えないから、一人で船内で夕食を食べることにした。

 食材はあるし、厨房も使えるから何か作ることにする。

 なんとなくラーメンを作ることにした。

 サラリーマン時代は、何か悲しいことがあるとよくラーメンを食べに行っていたから、ラーメンが食べたくなったのかもしれない。

 一人で酒を飲みながら醬油ラーメンを食べていると、食堂にミアがやってきた。


「どうしたのリオ?こんなところで一人で食べてないで一緒に外で食べよっ。」

「お誘いは嬉しいけど、遠慮しておくよ。僕はみんなと一緒に喜べないから一人でいい。」

「そっか。じゃあ、私もここで食べる。」

「えっ、なんでそうなるんだよ。一人でいいって言っただろ。」


 ミアは僕の方に来て、隣の席に座る。


 そして、僕を抱きしめた。


「なっ、何してんだよミア。誰か来たらどうする。」

「誰も来ないと思うよ。だからここで一人で食べてたんでしょ。」

「ミアを探しに誰か来るかもしれないだろ。」

「だいじょうぶ。トイレ行ってちょっと休んでから戻るって言って抜けてきたから。」

「それでもわからないだろ。」

「いいから。私のことはいいから。ねえリオ。一人でいいって言ってるけど、本当は寂しかったんでしょ。自分はみんなと喜べないからってみんなに遠慮してたけど、本当は見つけて欲しかったんでしょ。」

「べつにそんなことない。」

「強がらなくてもいいよ。ごめんねリオ。気づくの遅くなっちゃって。見つけるのに時間かかっちゃって。今夜は私がずっとそばにいるからね。」


 なぜだかわからないが、涙がこぼれてきた。

 溢れ出た大粒の涙は、すぐには止まらなかった。


 二十五にもなって、年下の女の子の胸で泣くとは。

 前世では、プライベートではいつも一人。

 この世界に来てからもだいたいいつも一人。

 一人が長かった僕は、誰かのぬくもりを感じたかったのかもしれない。

 そして、誰かと一緒にいたかったのかもしれない。


 涙も止まって、落ち着いてからすごく恥ずかしくなった。

 それから、ミアと一緒にラーメンを食べた。

 その後、風呂を上がって、一緒に僕の部屋に行く。


 部屋で一緒に酒を飲んで、眠くなってから一緒に寝た。

 パーフェクト童貞である僕だが、可憐な美少女であるミアが同じベッドにいても襲う気にはならなかった。


 今の僕は、ただ一緒にいてぬくもりを感じていたいだけだった。


 この日、僕はミアと手をつなぎ、抱きしめあって眠りについた。


 翌朝、頬をつんつんされて目が覚める。

 目を開けたら目の前にミアがいる。


「おはよう、ねぼすけのリオ。」


 かわいい。

 かわいいかわいいかわいいかわいいかわいい。


 少しくしゃっとした髪、着崩れたダボっとパジャマから顔を覗かせる綺麗な鎖骨。

 なにかのフェチに目覚めてしまいそうだ。

 僕は、完全にミアに見惚れていた。


「おーいリオ―。おきてる?もしかしてまだねぼけてる?」


 ミアがかわいすぎて、我慢できずミアを抱きしめてしまった。


「あーかわいい。かわいすぎる。」


 僕は、思っていることを口に出してしまっていた。

 それを聞いてミアは真っ赤になる。

 しかし、ミアを抱きしめていた僕は、ミアが真っ赤になっていることには当然気づかなかった。


 僕がミアを抱きしめるのをやめると、ミアは急いで僕の部屋を出ていった。

 夕食の片づけと朝食の準備をしてなかったことに気づき急いで厨房に向かうと、厨房は昨日と変わった様子はなかった。

 外を見ると、バーベキューの片づけもせず気持ちよさそうにみんな寝ていた。

 僕は朝食の準備をして、外に行きバーベキューの片づけをする。

 僕はバーベキューなんて一切してないが、仕事だから仕方ない。

 それに、今はとても気分がいい。


 僕がバーベキューの片づけを済ませ、朝食を終えたころになってみんな起きだした。僕は今日も仕事があるが、グレーンが完成した今、みんなは仕事どうなるんだろう。

 まあ、僕には関係ないため、僕はいつも通り仕事をする。


 いつもの昼休憩の時間にライネルがみんなを食堂に集める。

 たぶん、この先の話だろう。


 この日、僕の気分が良かったのはこの話を聞く前までだった。


「みんなが頑張ってくれたおかげで、ついにグレーンが完成した。明日から動作や性能を確かめる。それが終わったら、俺たちはこの星を出る。」


 ライネルがそう言うと、みんなが騒ぎ始める。


「ついにか。」

「あー、やっとだな。」

「目にもの見せてやる。」

「やってやろうぜ。」


 僕はみんなが言っていることの意味が全くわからなかった。

 ざわつきが少し落ち着いてから、再びライネルが話し始める。


「俺たちはこの星を出て、仲間の仇をとる。やつらが今どこにいるかはわからないが、必ず見つけ出し復讐する。さあ、みんな明日からまた気ぃ引き締めて頑張ろうぜ!」


 ライネルの話を聞いて、みんな大盛り上がりだ。

 みんなの士気は爆上がりだ。


 だが、みんなとは正反対に僕の士気は下がりまくりだ。

 急降下だ。


 なぜかって。

 彼らは、超能力が使える。

 だから、ちゃんと準備していれば簡単にやられることはないだろう。


 けど僕はどうだ。


 神様に与えてもらった能力が何かわかってない以上、超能力なしの一般人だ。

 そんな僕が、技術が発展している世界の武器を持った人たち相手に、上手く立ち回れるはずがない。

 というか、たぶんすぐ殺される。


 このまま順調に予定が進んでいけば、僕が死ぬのは目に見えている。

 どうにかしたいが、どうしようもできない。


 ほんと最悪だ。さっきまで気分良かったのに。


 あー。

 みんなにからしたら待ってましたって感じなんだろうけど、これからの予定は、僕にとってはかなりハードだ。




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