第2話 この世界の真実がけっこうハード
後ろで一つに結ばれている綺麗な空色の髪。
大きくて美しいエメラルドグリーンの瞳。
長いまつ毛にぱっちり二重。
そして、少し幼さを残している顔。
こんなアニメやマンガでしか見たことないようなかわいい子が目の前にいたら、夢だと思うのも仕方ないだろう。
けっして寝ぼけていたわけではない。けっしてだ。
始めは何を言っているかのか全くわからなかったが、徐々に聞き取り理解できるようになる。さながら、山間部でラジオが聞き取りにくくなって・・・もういいや。
とにかく、やっとこの世界の人と会話できるようになったと思う。
「あの―――ですか?しっか――て――さい。」
まだ少しわからない部分があるな。
だが、もう少しでわかるようになるだろう。
おそらく、神様に与えられた能力のおかげなんだろうけど、未だにどんな能力なのか全くわからない。
「あなたはどうしてこんなところで寝ていたのですか?」
やっと聞き取れるようになった。
これで会話できるが、まさかこの世界での初めての話し相手が、こんなにかわいい女の子とは。うまくしゃべれる自信がない。
だけど、この世界で初めて人に会えたんだ。何としてもいろいろと聞き出さねば。
けど、まずは話を逸らさないと。
「えっと、君はだれ?」
「あっ、ごめんなさい。名乗らずに質問ばかりしてしまって。私はセイナ。ここから少し離れたところで仲間と一緒に暮らしてるわ。あなたは?」
「僕はリオ。実は行く当てがなくてね。よかったら、君たちの住処に案内してもらえないかな?」
セイナは少し考えてから答えた。
「わかりました。案内します。けど、あなたのことを詳しく教えてください。それが条件です。」
「わかった。条件を飲むよ。案内よろしくね。」
「はい。」
疑われてるなぁー。
まあ仕方ないか。氷の世界で外で寝てるなんてどう考えても異常だしな。
敵と認識されないように受け答えに気を付けないと。
セイナはスケボーみたいな物に乗って移動してきたっぽいが、俺に合わせて徒歩で移動してくれるみたいだ。
セイナは、移動を始めるとすぐに僕について尋ねてきた。
条件だからもちろん話すが、この世界での僕のことは、僕自身未だによくわかってないからな。上手く説明できればいいけど。
「リオはどうしてあんなところでしかも外で寝ていたの?」
「どうしてって言われても住むとこないし、日が落ちて暗くなったからとしか。」
セイナは驚いたような、呆れたような顔をしていた。
この世界の普通がわからないんだから仕方ないだろ。
「じゃあ、リオはどこから来たの?」
「さっき僕が寝ていたところから北に五日歩いて行ったところから。」
「えっ。」
セイナを見ると少し困惑したような顔をしている。
セイナは実に表情豊かだ。
「さっき住むところはないって言ってたよね?」
「あー、住むところはないがそれがどうかしたのか?」
「リオ、あなた本当に何者。」
セイナは急に僕と距離を取り戦闘態勢になる。
何か敵だと思われるようなことを言ってしまったのか?
どこだ、どこで失言した。よく考えろ。今ならまだ戦闘にならなくてすむ。
どこから来たか答えて、住むところがないことを確認されて戦闘態勢になった。
えーっと、住むところがないのに氷の台地で生活できるわけないから嘘をついたと思われたのか?
いや、違う。
それだけで敵だと思われることはない。
じゃあ何だ?なぜ敵だと思われた。
ん、待てよ。
たしか、セイナは俺を起こすときかなり真剣だった。そして、珍しがっている感じだった。
ということは、セイナとその仲間以外に人がいたから珍しがった。それで、その人間が何もないところで生きることが出来て、しかも最近この世界に来たと思われた。
つまり、自分たちとは違う生物で、強いと思われたから敵認定されたのか。
なんかまだ違う気がするが、たぶんこんなとこだろう。
とにかく、このことを踏まえて敵ではないと思わせないと。
「セイナ、僕は君たちの敵じゃない。そもそも、僕だって僕が何者かよくわかってないんだ。」
「それはどういうこと?」
「五日前、目が覚めたら辺り一面氷の世界にいたんだ。名前は憶えていたが、それ以外はさっぱりわからないんだ。」
「つまり、リオは記憶が欠如しているってこと?」
「あー、たぶんそうだと思う。」
都合いいしそういうことにしておこう。
ここで同情を誘って敵じゃないと思わせる。
「何もわからずずっと一人だったから、人に会えて嬉しかったし安心したんだ。もう一人じゃないって。だから僕を見捨てないでくれ。」
セイナはふうっ、と一息ついて戦闘態勢を崩してこちらにやってくる。
「ごめんなさい。あなたも大変だったのに疑って。けど、仕方のないことなの。」
「どういうことだ?」
「私たちは他の人間たちに裏切られたの。だから、嘘をつく者は敵で、排除するのがきまりなの。」
「僕のことは殺さないのか?」
「リオは異質な存在だけど、敵ではないと判断したから。」
「そうか。信じてくれてありがとう。」
少しいざこざはあったが、無事に彼女たちの住処に着くことが出来た。
どんな町だろうかといろいろ想像したが、町なんてものはなかった。
彼女たちの住処は大きな宇宙船みたいなものだった。それも、かなり大きな船だ。
彼女が船に戻ってきたのに気づいた仲間たちがみんな驚いて、食い入るように見てくる。
注目されるのには慣れてないから恥ずかしい。ちなみに、船の中にでも外と変わらない反応をされた。
リーダーのところに向かっているわけだが、思ったより人が少ない。
かなり大きな船だから百人はいるかと思ったが、たぶん五十人もいない。
リーダーがいる部屋に着いた。
セイナがドアを開けて中に入る。
部屋には五人の男女がいた。他の人たちと同じく、やっぱりみんな若い。
「今朝北の見回り中に人間を見つけたから連れてきた。安心して、敵じゃないわ。」
「セイナその子の素性は?」
「名前はリオ。名前以外の記憶がないらしい。北の町の端からさらに北の氷の上で目覚めたのが最初の記憶みたい。」
「それは本当か?すごく嘘くさいんだが。」
うん、僕もそう思うよ。
だけど、前世の記憶抜きにしたらそうだから。嘘じゃないから。
「本当よ。この世界の常識的なこと聞いても何も知らなかったし。」
「そうか。リオ、俺たちは君を歓迎する。ようこそグレーンへ。」
「グレーンって?」
「この船の名前さ。おっと、自己紹介がまだだったな。俺はリーダーのライネルだ。よろしくなリオ。」
「こちらこそよろしくライネル。」
「セイナ、この世界の真実について話したか?」
「いいや、話してない。」
「ならば、俺から話そう。」
そして、ライネルはこの世界の真実を語りだした。
整理するとこんな感じだ。
ある時、世界中で人間には信じられないような力を持つ子供たちが現れ始めた。
特別な力を持つ子供たちは、その力を正しく、世界のために使うようにするために、世界中から一か所に集められて教育され始めた。
それから何年か経ち、特別な力を持った者たちが社会で活躍し始め、世界的に認められてきたころ、なんでも氷にできる能力を持った子供の力が暴走し、この世界は氷の世界と化した。
そして、この事件で生き延びた人間たちは、氷の世界になったのが能力者の暴走によるものだとわかったらすぐに、能力者たちを殺し始めた。
ただ、能力者たちは抗戦せず、身を潜めることにした。抗戦しても生き残れるわけじゃないからだ。
それで、能力者たちを殺せなくなった人間たちは、能力者たちが身を潜めている間に能力者以外の全員でこの星を出ていった。
もちろん、物資や能力者たち用の船なんかは残さずに。
ライネルの話で、ここが氷の世界になった理由、この世界に彼らしか人がいない理由、彼らが他の人間たちに裏切られたという理由がわかった。
この世界の真実とか言うから、何かがあったんだろうとは思っていた。
そして、それはたぶん、世界規模の災害があったとかだろうと思っていた。
だが、この世界の真実は、俺が思っていたよりもけっこうハードだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます