二度目の人生はまあまあハード~転生先は神様に選んでもらった世界~

空音 隼

序章

第1話 転生したらいきなりハード

 小学校、中学校、高校、大学、と進み一般企業に就職。世間一般的にごく普通の人生を送っていた。

 社会人三年目の秋、唐突に京都に行きたくなり有給休暇を取って一人で旅行に行く。平日だから、どの観光スポットもあまり人が多くなくていい。

 けど、外はもう十一月にもかかわらずに気温が二十度を超えている。風も雲もない快晴のため外を歩いているとすぐのどが渇いてしまう。

 近くにあったコンビニで涼みがてら立ち読みをする。

 好きな漫画を読み終えて雑誌を棚に戻し顔を上げると、車がこちらに向かって突っ込んでくるのが目に入った。急いで逃げようとしたとき、一人の女子高生が車に背を向けて商品を見ているのに気づく。

 目前に車が迫ってきているのを見て体が勝手に動く。


「危ない。」


 と叫ぶと彼女は振り向いて僕の方を見る。

 そして、彼女が振り向いた直後に僕は両手を前に出し、彼女に向かって飛び込む。   

 僕の両手は彼女の胸のふくらみにあたり、力いっぱい押し飛ばす。


「きゃーーっ。」


 と叫ぶ彼女の声は、車がコンビニにぶつかった轟音にかき消された。

 僕はガラスと本を置いていた棚をもろにくらいながら、かなりのスピードで突っ込んできた車にぶつかり、そのまま後ろに飛ばされ商品棚に激突。


 そして、再度車にぶつかられて、首の骨が真っ二つに折れて僕は死んだ。


 それから、通報を受けた警察、消防、救急車がやってくる。


「中に人がいるんです。車に轢かれた人が。私を助けてくれた人がいるんです。どうかその人を助けてください。」


 泣きながら頼み込んでくる女子高生を見た消防士たちが救出に向かう。

 瓦礫をのけた先にいたのは、体が左側に大きく曲がり、体の正面は大きくへこみ、顔もつぶれている、人とは言い難くなった姿をした僕だった。

 その後も瓦礫の除去は続き、結果、直接事故に巻き込まれたのは僕だけだった。

 僕が助けた女子高生は、僕の死体を見るとその場に膝から崩れ落ち、声にならない声で泣き叫んでいた。


 今日の夕方四時ごろ京都市のコンビニに猛スピードで車が突っ込み、店内にいた女子高生を助けた、都内在住で旅行中だった会社員奏梨緒さん二十五歳が亡くなられました。警察の調べによりますと...。

 女子高生は家に帰り、自室のテレビから流れるニュースを聞いて震えが止まらなくなる。

 私のせいで彼が死んだ。本当は私が死ぬはずだったのに。

 後悔と自責の念に追われ彼女はふさぎこんでしまった。

 彼女はこの日から、自分の部屋に引きこもるようになってしまった。心理カウンセラーや友達、家族、とたくさんの人が彼女を元気にしようとしても彼女はふさぎこんだままだった。

 彼女が引きこもってから半年が経って、やっと彼女は少しずつ元の日常を取り戻し始めた。彼女が志望校に合格し、入学するところまでで見るのをやめる。


 僕は死んだ後、神様のもとにいた。


 僕は死んだんじゃなかったのかと思っていると、背後から急に声がした。


「たしかにお主は死んだ。」


 振り返ると、白髪で長髪、長く白いあごひげ、少しシワの入った顔をしたじいさんが杖を突いて立っていた。


「あなたは?」

「神じゃな。」


 まじかよ。もし本当なら、今僕は魂ってことなのか。


「いかにも。」

「!もしかして考えていることがわかるんですか?」

「うむ、筒抜けじゃよ。」


 今の話を聞く限り、この人が神である確率は限りなく高いだろう。


「それで、死者は皆こうしてあなたに会うのですか?」

「いや、そなたが特別なのじゃ。本来死ぬはずじゃった者を助け、お主は自分の人生の四分の一も生きられなかった。」


 僕は百歳超えるまで生きる予定だったのか。思ったより長生きできるはずだったんだな。もう死んだからどうでもいいけど。


「だから、お主を好きな世界に転生させてやることにした。」

「えっ、本当ですか?」

「いかにも。好きな世界で好きなように生きられるようにしよう。さあ、次の人生をじっくり考えて決めるがよい。時間はたっぷりとあるのじゃからな。」

「ありがとうございます。」


 僕が選べる世界は無数に存在した。検索的なことが出来ないため、一つ一つ世界を見ないとそこがどんな世界かわからない。時間が無限にあるとはいえ、数えきれないほどある世界を全部見て決めるなんてしんどいし、めんどくさすぎる。


 そこで僕は神に一つ尋ねてみる。


「あなたは地球の未来を見ることが出来るんですよね?」

「いかにも。」

「だったら、他の世界の未来も見ることが出来るのではないですか?」

「うむ、可能じゃ。」

「それじゃあ、この先の僕の未来を見ることは出来ますか?」

「うーむ、やってみんとわからんがたぶん出来るぞ。」


 よし、なら、


「では、神様が選んでくれませんか。」

「お主の転生する世界をか?」

「はい。最終的に僕が一番幸せになれる世界を選んでほしいのです。あなたならそれが可能だと思うのですが。」

「ふむ、よかろう。その世界でのお主の情報もわしが決めていいのだな?」

「はい。よろしくお願いします。」

「わかった。」


 そう言うと神はさっそく取り掛かった。


 待っている間暇だった僕は、死ぬ前に感じたあの衝撃を思い返していた。

 そう、人生初の女の子の、しかも女子高生のおっぱいの感触を。

 今時珍しいセーラー服とその中に着けているブラジャー越しではあったが、手が沈んでいきそうなほどやわらかく、押すと強く跳ね返ってくる弾力。


 あの子以外の女の子のおっぱいを触ったことなどないが断言できる。


 あれこそ、至高のおっぱいだったと。


 死ぬ前に触ることが出来てよかった。


 そして、暇つぶしとして僕が助けた女子高生のその後を見させてもらった。(ついでにおっぱいも。)

 それから、それなりの時間が経ってから神は僕の転生先の世界を決めた。


「のうお主よ、どうせならこのまま何も知らず転生したらどうじゃ。その方が楽しめるんじゃないかのぅ。」

「そうですねぇ、うーーん。神様が選んでくれてるから最終的に幸せになれるだろうし、そうします。」

「準備はよいな。それでは転生させるぞ。」

「あの言葉は通じますよね?」

「うむ。お主には特別な能力を与えてあるから大丈夫じゃ。他に確認しておきたいことはないか?」

「もし僕が説明を求めたりしたら、わかるようにしてもらえますか?」

「いや、干渉はせんよ。」

「わかりました。神様ありがとうございました。」

「うむ。次の人生はしっかり楽しむとよい。それじゃいくぞ。」


 僕の全身を光が包み込む。

 そして、僕は意識を失い転生された。



 眩しさを感じてゆっくりと目を開ける。

 すると、そこはどこをどう見渡しても氷の台地が広がっているだけだった。


 おい、ちょっと待てよ。


 僕が最終的に一番幸せになれる世界を選んでもらったはずだよな。

 じゃあなんで、人が絶対にいなさそうな世界に転生されてんだ。

 もしかして、あの神様名乗ってたじいさん転生先間違えたんじゃないか。


 やばい。ほんとうにまずい気がする。


 仮に、仮にこの世界に人が住んでいたとしよう。・・・どこに?どうやって?


 これ初手から詰んでね。


 人探すにしてもどっちに行ったらいいんだよ。進む方向間違えるだけで終わりな気がするんだけど。


 一回落ち着こう。こういう時は深呼吸。吸ってー、吐いてー。吸ってー、吐いてー。もう一回吸ってー、吐いてー。吸ってー、吐いてー。

 よし、考え直そう。

 たしか、神様は僕に特別な能力を与えてくれていたはず。それが何か考えよう。


 ・・・・・・・・。まったくわからん。


 次。

 ここは氷の世界だから、温かいと思われる日が出ている方側に進む。この世界で人が住んでいるとすれば、やはり温かい所だろうからな。


 これが正解な気がする。


 が、一応他の視点からも考えてみよう。


 ・・・・。何も思いつかない。


 暗くなる前に人に会いたいし、たぶん南?に進もう。

 お願いだから逆方向が正解とかはやめてくれよ。


 暗くなるまで歩き続けた。


 しかし、辺り一面氷のままだ。


 疲れたし今日はもう寝よう。

 氷の上に仰向けに寝っ転がる。夜空がとてもきれいだ。月みたいなのがいくつも見える。それに星の数も多く、ほんとうにきれいだ。ほんと感動する。


 氷の台地にぼっちじゃなければ。


 というか、何で寒くないんだろう?すごく快適なんだが。

 まあ、神様が大丈夫って言ってたし、一晩で死ぬことはないだろう。

 敷布団は氷。掛け布団と枕なし。だけどすぐに眠ることができた。ふっ、体が変わっても、どこでどんな体勢でも寝られるとは自分の才能が恐ろしい。


 翌朝、気持ちよく目覚められた。

 どこでどんな体勢で寝ても気持ちよく目覚められるなんて、やはり睡眠に関してはこの体でも天才のようだ。あー自分の才能が恐ろしい。

 なんか悲しくなってきた。

 さっさと人見つけに行こ。


 また今日も、日が出ている方に向かって暗くなるまで歩き続けた。

 それでも人は未だに見つからないし、まだ辺り一面氷だ。

 しかしまだ全然余裕だ。

 この世界に来て、飲まず食わずで一日半経っているがまだ大丈夫そうだ。

 朝日が眩しくて朝になるとすぐ目が覚めてしまうから早く寝よ。

 なんか、食事はしてないけどすごく健康的な生活してる気がする。


 まあいいや。おやすみ。


 三日目。

 また今日も日中は歩き続けた。何の成果も変化もなし。


 おやすみ。


 四日目。

 また今日も日中は歩き続けた。また何の成果も変化もなかった。


 いい加減に人に会わせろよ。暇すぎて精神的に死ぬわ。


 おやすみ。


 五日目。

 また今日も日中は歩き続けた。


 そして、日が沈みかけたころ、ついに、ついに町が見た。(氷漬けだけど)


 町に着いたのは完全に日が沈んでからだったから、明日町を観て回ろう。

 これでやっと人に会えるかもしれない。

 これからまた何日も人に会えなかったら、キレておかしくなる自信がある。

 どうかそうなる前に人に会えますように。


 おやすみ。


 ゆさっ。ゆさっ。

 この感覚は、人が人を起こすときに体を揺すっている時の感覚。

 あー、人が恋しすぎてこんなリアルな夢まで見るようになっていたのか。

 けど、最近は夢でも現実でも氷の上を一人で永遠と歩くってのばっかりだったから、夢の中とはいえ人に会えるのは嬉しい。


 僕はゆっくりと目を開ける。


 なんと、かわいい顔をした女の子が目の前にいた。

 あー、なんていい夢なんだろう。かわいい女の子に起こしてもらう夢、最高ー。


 もう一度起こしてもらいたいから二度寝しよっ。夢の中だからいいよね。


 僕が二度寝すると、女の子は大きな声で話しかけてきながらすごい勢いで体を揺する。なにか鬼気迫るものを感じて、目を開ける。

 そしてやっと、僕は今夢の中にいるのではなく、現実にいるのだとはっきりと認識した。


 人に会えるまで飲まず食わずで五日。


 二度目の人生は始めからなかなかハードだ。




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