同志少女よ、敵を撃て
【①:はじめに(作品の特徴など)】
第二次世界大戦が勃発当初、共にポーランドを占領していたドイツとソ連。しかし1942年に突如としてドイツは「バルバロッサ作戦」と称しソ連への侵攻を開始。ここに独ソ戦の火蓋は切って落とされ、互いに多数の被害者を出しながらも戦争は終わる気配を見せず、人々の穏やかな暮らしは奪われていく。
それは小さなソ連の田舎町に住む主人公の少女、セラフィマも例外ではなかった――。
これは、第二次大戦において実在した、ソ連軍の女性狙撃手という兵士の物語です。
それでは、どうぞ。
【②:本作のあらすじ】
主人公のセラフィマは、とある小さな村に住む少女である。彼女は村で一番の猟師であるとともに、モスクワの大学へ進学も決まっているほどの才女でもあり、幼馴染との将来を村中から期待されるなど、質素ながら幸福な生活を送っていた。
しかし、そんな生活も唐突に終わりを告げる。
突如村に現れたドイツ兵の襲撃。
それを察知して駆け付けたソ連赤軍。
血と火に染まる生まれ故郷。
この世の終わりのような絶望の中で、セラフィマは生きるために兵士となることを選ぶ。
母を殺したドイツ人狙撃手と、村を焼き払った赤軍女性士官を自分の手で討ち取るために――。
その選択が彼女を、失うだけの血塗られた戦場へと手招いた。
【③:作品の見どころ】
初めにあえて言いますが、私は共産主義というものに懐疑心を抱く人間です。もっとも否定もしませんし、逆に「資本主義こそ絶対だ!」などと言ったりするつもりもありませんが。
ために読み始める前には、「共産主義、しかも第二次大戦中のソ連が舞台とは。あまり共感できそうにないな」と心配しました。
ところが。
いざ読み始めてみると、そんな心配は不要でした。
一章の冒頭十数ページほどでのどかな空気は打ち破られ、その後の二章ではひたすらに過酷な訓練に明け暮れる少女セラフィマ。
続く三章では予定の訓練過程をすべては終えぬままで実戦へと参加し、仲間との死別を経験。息つく間もなく四章では第二次世界大戦最大の戦死者を出したスターリングラード市街戦へと送り込まれ、新たな仲間たちとの出会いと別れを味わいながらも敵を撃ち倒して生きる彼女の姿が描かれます。
五章では狙撃兵として生きるとは、戦争が終わった後の生き方とはという疑問に突き当たり、その答えも見出せぬまま最終第六章にて、すべての決着が描かれます。
セラフィマが戦いを経て一流の狙撃兵となっていくにつれ、私はあまりの凄惨さに何度もページを戻したくなる指を抑え、結末を知るために先へ先へと紙面を繰っていきました。
そんな作中において、主人公セラフィマはあらゆることに思い悩み、煩悶しながら戦火の中で生き延びていきます。
生きるとは。
殺すとは。
戦争とは。
狙撃とは。
仲間とは。
敵とは。
男とは。
女とは。
国家とは。
守るべきものとは。
果たして、彼女が撃つべきものとは――。
作者はそのような主人公の姿を、ありありと描いていきます。私はその都度、眉をひそめたり胸をなでおろしたりしながら、本のページをめくっていきました。
そして読み進めていくうちに、冒頭の懸念は杞憂であることを悟り――同時に、あることにも気付くのでした。
いかに作品世界に没頭するのが読書の醍醐味とはいえ――私はいつの間にか、ソ連の少女たちに
そして、文章の力の恐ろしさを思い知り、身震いしました。
当初は決して好意的に捉えていなかった立場の人間に肩入れするようになるほど、影響を与える文章の力に。
【④:まとめ(オチともいう)】
断っておきますが、この作品は共産主義を推奨するような作品でもなければ、過度にナチス・ドイツを悪として責め立てるものでもありません。
その証拠に、各章の冒頭には必ずドイツ側の手記や手紙などが書き記されたり、敵対国家側の苦悩や恐怖もきちんと描かれたりしています。
戦争とはすべての人間が被害者である。
そんな言い古された当たり前のことを、筆者は私が先ほど戦慄を覚えた筆力にて描き伝えました。しかしてこの作者は、これがデビュー作だというのです。新たな気鋭作家の登場に胸が高鳴ります。
最後に。
私はこの本から文章の持つ力の恐ろしさを読み取りましたが、それ以外にも様々なことを考えさせられる一冊です。セラフィマの苦悩はすべて、読者に対し何らかの問題提起を呼び起こすことになるでしょう。
しかしそれらと向き合っていくことこそが、第二、第三のセラフィマを生み出さぬようにする唯一の方法なのだと思います。
期待と不安の入り混じる本作、ぜひご一読ください。
それでは、また。
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