第6話 メイド日奈の強い願い


「う、う――――……っ」


 額がなぜか冷たくて気持ちがいい。頭の後ろも、冷たい。

 なんで、だろう? 私は呻き声をあげながら、視界に飛び込んでくる黒と白の二色から茶色が目立った。


「――――夜子様、詐夜子様!」

「……ひ、な?」


 ようやく認識できた人物の名前を呼ぶ。

 すると、視界がだんだんはっきりしてきて


「びっくりしましたよ! 図書室で倒れられていたんですからっ」

「……そう、だったんだ」


 おそらくおでこと頭の後ろが冷たいのは、氷枕と水タオルだろうと今ならすぐに察することができた。

 日奈がぷりぷりと怒っているのは可愛い、なんて思うのは信頼できる相手だからだろうけど、でも……今はちょっと怖いかな。


「しかも熱も出して!! まだ病み上がりなのに無理をするからです!!」

「……ごめん、なさい」

「謝ってほしいから言ってるんじゃないんです! 本当に心配したんですからっ」

「……ありが、とう」

「……もうそれで許してあげます、次からはしないようにしてくださいね?」

「それは、無理、かもしれない」

「どうしてそんなこと言うんです?」

「……復讐、するって決めたから」


 私は日奈にか細くとだが、はっきりと呟いた。

 日奈は眉をハの字にして、心配だという目線を送ってくる。


「復讐って、もしかして耀昴様のことですか?」

「……そう」

「耀昴様は、そんなこと望んでいないと思います」

「なら、自分の家族を殺されたことを、日奈は怒ったりしないの?」

「それは……」

「だったら、あの男をそう簡単に許していい動機にはならない。だから、私は少しでも知識が、情報がいるの……っ」


 私は頭の熱が上がってきているのを感じながらも起き上がろうとすると日奈が制止する。


「ご無理をなさらないですください。まず体を休めてから情報を集めてくださいっ! 体を壊したら元も子もないじゃないですかっ」

「そう、ね……」


 私は疲れが襲ってきて、目蓋が重くなる。

 視界がまたぼやけて、私は日奈を耀昴兄様に見えて、彼に謝ろうと必死に言葉を作って謝る。


「ほら、今は眠ってください。怪我人は安静にすることが仕事なんですよ?」

「……ごめんなさい、耀昴お兄様。悪い子で、私のせいで、ごめんなさ、」

 

 そこで私の意識が微睡に溶けていく中、必死に彼へと手を伸ばす。

 困ったような心配するような、そんな目を向けないで。

 私が、全部悪いの。あの時、頭が悪くて何もできなかった、私が悪いの。

 だから、だからそんな顔をしないで。

 意識がゆっくりと認識できなくなる頃には眠りについていた。


「詐夜子様……貴方は、何も悪くないのに」


 詐夜子の手をぎゅっと握って日奈は目じりに涙をためる。


「詐夜子様のためにも、私がしっかりしなきゃっ」


 ベットで目覚める前の時もうなされていた彼女の発した言葉とまったく同じ言葉を口にする詐夜子に、また意識が沈んでいく彼女が口にしたことに日奈は目じりに涙をためる。日奈はこれから復讐を果たそうとする自分の主人の道先がせめて変わってくれることを強く願う。

 そんなことも露知らずの詐夜子は深い眠りの中を揺蕩うのだった。

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