第5話 夢の中の自分たちとの会話
◆ ◆ ◆
「あらあら、今回のアタシは随分と甘いのねぇ、サヨコちゃあん?」
「……お前に言われる義理はないだろ、オカマさん?」
「ちょっとぉ、オネエって呼びなさいよ! アタシその単語嫌いなのよぉ!!」
はぁ、と溜息を零す潔一。
そして激怒する派手な化粧を施された顔の白人系の男が一人。
金色の短髪に体格がいい大男だというのに、そのアンバランスなオネエ要素はどうして入った? と全力で突っ込みたくなる自分がいる。
私はじーっと二人を見つめている。これはおそらく私の夢の中だ。あくまで前世の自分たちが、なぜかは知らないが当時の姿で現れている。
「……諜報員の時の私か」
オネエの彼はフェルナン・バロワン。
メイクが上手な、いい奴ではあるが目の前に自分だったと思うとやけに胃が痛くなる自分が目の前にいる。いや、潔一の例があるわけだから、この状況はおかしいというわけじゃないのはわかっているけど、どうしようもなく胃痛を覚える。
「そうみたいだなぁ」
「……どうして貴方もいるの?
「アハハ、睨むなよぉ。俺がそんなに嫌いかぁ? お前」
彼はサイラス・アスキス。ヨーロッパで暗殺業をしていた私だ。
黒髪に頭のてっぺんが出ている不思議な帽子をかぶっている彼は、陽気で猫のような気まぐれな男である。
……なんて名前の帽子だったかな、今すぐには思い出せないけど。
「……はぁ」
「おいおい、今世のお前は若いんだからそんな溜息なんてつくなよぉ」
やはり当時の時の私な物だから色々と異色な奴が飛び出てくる。悟りを開いた奴らが何人か入るが……やはりそれも指折り数えられる程度だろう。
「……どうしてここに出てきたのかが理解できていないってだけよ」
「そうかそうかぁ、俺がわかんのはこの世界には特殊な力があるってことだ。だったら、俺たちが不思議な世界に影響されて俺たちがいるのは変な話じゃねえだろ? 明晰夢ともまた違って意志を持ってお前と話してるんだからよぉ」
……能天気なくせに現実主義で勘のいい時の彼は、こんな状況でもそこまで推測しようとする当たり、元は自分だったと思うと恐怖さえ覚える。
「で? 耀昴兄様の仇を取るのかい?」
「もちろん」
その話を聞いてか、フェルナンは心配げに私の顔を覗き込む。
「……ねえ、詐夜子ちゃん、本当にいいの? お兄ちゃんはそんなこと望んでないと思うわよ」
「俺もそう思う」
日奈が言ったように潔一とフェルナンは否定側に回ったのを見て、サイラスは溜息を零した。
「……おいおい、フェルナンは人の死とか知ってんだろ? だったら、お前がそんなこと口に出せる権利はねえんじゃねえだろ」
「だからこそでしょ? 普通に生きて、普通に死ぬ。アタシだって憧れた死に方だもの。アンタだってそうだったじゃない」
「流石、最終的に仲間に売られて拷問で死んだ奴は違うねぇ」
「……なんですって?」
ピリついた空気に潔一が二人の間に割って入る。
「自分同士で争うのは無しだろ!? 詐夜子がどうするかの問題なんだから!」
「…………私の夢だからって、喧嘩するのはやめてくれる?」
六歳児なのにギロっと鬼の形相で大人たちを睨む詐夜子に、フェルナンと潔一がぴたりと目を真ん丸くして止まった中、サイラスだけけらけらと笑っている。
「ハハハハ、やっぱり今回の俺は大物だなぁ」
「サイラス、ふざけないで」
「……本当に復讐をする気? サヨコちゃん」
「もちろんよ」
私は心配げに見つめるフェルナンにきっぱりと肯定した。
「……アンタがここに来る度にアタシたちは止めるわよ。どこぞの暗殺者男は賛成みたいだけど」
「ハハハ、当然だろ? 家族を殺された者同士理解できないわけがないさ、なあ? 今世の俺?」
「……その言い方、やめてもらえる?」
「夢の中なんだから、なんて呼んだっていいだろ?」
サイラスは詐夜子に向かってけらけらと笑う。
底が読めない男だ、これが私だった人とは信じられない。
「……俺も、止めるからな。詐夜子」
「私は私の人生を生きる、それを阻むなら覚悟なさい――――たとえ過去の私たちだろうと容赦はしないわ」
視界がだんだん暗く沈んでいくと、私はそこで意識を失った。
◆ ◆ ◆
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