芽……デロデロ (´∀`*)

 毎日、毎日、少しずつ少しずつ、ニキビは成長を続けたよ。

 右頬が肉まんを頬張ったようにふくれ出した。大きな大きなニキビになったよ。これはいい兆候みたい。

 六回目の検査のあと、いよいよ、環境省、保健衛生省からそれぞれアドバイザーたちが家にやってきたよ。

 慎重に慎重に慎重に(あ、慎重さを強調したくて、つい三回書いたよ)、〈明日のたね〉を、あたしのこのニキビの中に植え込むんだよ。


 テレビで顔なじみの保健衛生省のドクターもご同席。国家安全保障省からは情報統括官といういかめしい肩書きの人も遅れてやってきた。だって、海外にあたしの個人情報が洩れたら戦争になっちゃうかもしれないからね。

 ……つまりさ、ニキビができて、〈明日の種〉をそのニキビに植え付けた時点で、あたしは〈国家機密パーソン〉なんだってさ。

 おかしいね。ふしぎだね。

 あたしの存在が……国家機密になっちゃった。

 だってね、ほら、いまは、世界各国が、コロナと闘っているところだから。今日もニュースで注意を呼びかけていたよ。


『……太陽フレア異常レベル13を超えており、フレア爆発により、明日、新型太陽コロナに蓄えられた強烈で観測不能の太陽風が地球に到達。さまざまな有害微粒子、宇宙放射線などを含む極めて危険な光です。外出厳禁です。われわれにとっては致死レベル寸前の光、と考えても、決して言い過ぎてはありません。政府支給済みの防護服、ヘルメットでも、防ぎ切れない危険レベルだと、当局が重ねて、重大警告異常事態宣言を発令しました…外には決して出ないでください……』


 怖いんだよ、新型太陽コロナ。

 だから、あたしのようなニキビに〈明日の種〉の植え付けて、芽が出るようにするの。

 それがさ、新型太陽コロナから人類を護る唯一の方法なんだって。

 だから、これからだよ、早く、芽が出てほしいな。

 たとえ芽が出なくても、特典のニキビ給付金は支給されるのだけどね、出なかったら、おそらく、お父さんもお母さんも、

『やっぱり……ぬか喜びさせられてばかり。あんたは芽が出ない子だとはおもっていたけど』

と、あたしを叱り飛ばすだろうなあ。

 そんなことを考えると……不安で不安で不安(あ、やっぱり強調したいから三回書いたよ)で、たまに涙が流れてくるの。そんなときのためにアドバイザーたちが24時間、交替であたしのそばにいてくれるのだけど。心理カウンセラーともいうよ。いろいろ話は聴いてくれるのだけど、ただそれだけ。ふんふん聴くだけ聴いて、当局に長い報告書レポートを提出するんだってさ。


 でね、それだけじゃないよ、芽が出ないことが確定すれば……あたしのお父さんとお母さんが、二人とも処分されてしまうの。

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