ニキビが、できたよ。

嵯峨嶋 掌

種……ワクワクッ (´∀`*)

 ニキビができたよ。


「ひゃあ、よかった! ついにできたかぁ! 本当によかったなぁ……ウルウル(≧▽≦)」


 お父さんは飛び上がって喜んだよ。

 だって、会ったことのない遠い遠い親戚にまで連絡レラしまくっていたし……。

 でもね……なんだかね。あたしはあたしで、ちょっぴり複雑な気分かも。

 だってさ、ほんの数日前まで、

『なにぃ? まだぁできないぃっ? おれはおまえをそんな娘に育てた覚えはないぞぉ! ニキビぐらい、できンのかぁ』

と、あたしの顔を見るたびに怒鳴っていたんだもん。

 おとなってさ、ほんと、自分勝手だし。

 お母さんもお母さんで、急にニコニコ顔になって、あたしの頬にスリスリしてくるんだもの。 

「……もうできないと、あきらめかけてたの。ドジなあんたのことだから。……でも、あきらめないをあきらめない……って、うちの家訓だから、そのとおりになって、本当に、よかったわ、ほんと、よくがんばったわね!」


 ガバッとあたしに抱きついたお母さんは、オイオイ泣き出す始末しまつ。うーん、ちょっと照れくさい感じ。

 なにも努力したわけじゃないし。

 学校でみんなに渡された〈ニキビのもと〉を飲んだだけだよ。

 でも……ニキビができる確率は、全国平均0.02%ほどらしいから、まあその点は少しだけイバってもいいのかも。


 さっそくお父さんが自治会の会長さんに知らせたら、あっという間に、大型モニターには次から次へとご近所さんの顔が映し出された。みんな特殊仕様車がないと、それぞれの家からのオンラインご近所会議だけどね。

 みんな口々に、

『おめでとう!』

『鼻が高いわ!』

『ぜひ、うちのにもアドバイス、ちょうだいね?』

『いやいや、あたしの息子にもコツを教えてちょうだいね』

などと、声をかけてくれたよ。


 められすぎると、照れくささを通り越して、なんだか妙な気分になってくる。気恥ずかしいというか、照れくさいというか、そんな感じかな。だって、政府から配給された〈ニキビのもと〉との相性が良かっただけなのに……こぞって『がんばったわね』なんて同じことを言われると、これから先のことがちょっと不安になってくる。

 だって、できたニキビの中に、今度は“明日のたね”を植え付けるの。このときはね、政府の人が家までやってきて、検査をして、それからるみたいだけど、芽がでるかどうかを考えると不安になってくるの。ま、先の話だけどね。

 

「おお、さっそく、国家安全保障大臣からお祝いの連絡があったぞ! 首相官邸からも祝電メールが届いたぁ」


 今のところは、お父さんは大はしゃぎ。それもそのはず、ニキビ特典があるからね。

 一つは、ニキビ給付金。金額は……その年度に小・中学生の総数によって異なるけど、ま、一家四人が五年はラクに暮らせるレベルだって……。

 二つ目は、県警から特殊リムジンがドライバー付で一定期間、貸与されるの。ドライバーはもちろん警官、あたしの警護を兼ねるみたい。

 ちなみに、車の愛称は、ニキビ・カー。あ、これ、「ニキビかぁ?」のシャレみたい。保健管理省のお役人さんが考えたネーミングだけど、案外、みんな、使ってるよ。


 三つ目は、ニキビがほどよく成長できる栄養素を含んだ特別食が一日三度、県庁から届けられる。外出はさっき言った県警専用リムジンでの送り迎え。肌が、ニキビが育たないから。だって、外には、ニキビの生育を邪魔する光がいっぱいだから。


 でもね、家の中は……危険はないよ。

 だから、お父さんも仕事は家でする。お母さんも、ほとんど外には出かけない。会社の会議も、商談も、部品の発注も、自治会の会合も、親戚の談笑も、すべてモニターですませられるから。

 お買い物も、ぜんぶ宅配

 第一、外を歩いている人は、まったくいないよ。特殊仕様車がないと外にはいけない、出られない……。

 だって、外には危険がいっぱい。危ない光がいっぱい。

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