第三十六節:脱出
「ねぇ、コロナ、シールドみたいな物は張れないの。攻撃は出来ないだろうから、防御するの」
コロナは少しのあいだ沈黙してから
『シールド準備できました。展開します』
コロナがそう言うと同時に、学園全体が、ぼんやりとした光に包まれる。コロナは防御用のシールドを学園全体に展開したのだ。
『これで、宜しいですか、ニーナさん』
「ありがとう、どの程度持つか分らないけど、この間に出発の準備をして」
コロナは『わかりました』と一言ってエンジンのチェック作業を再開した。しかし、その様子を連邦宇宙軍が察知したのだろうか、事態は更に悪化する…
『大型戦艦が軌道上に確認されました』
再びコロナが状況を告げた。
「力技かよ、今度は」
ケイラが少しイラついた表情でそう言った。宇宙軍は、コロナが張ったシールドを歩兵の装備では突破できないと考えたのだ。と、なれば、主砲で吹き飛ばしてしまうのが一番。惑星『パピル』は未知のウィルスにより封鎖されている事に成っていた。ウィルスを駆逐する為に主砲を使って滅菌したと、良い訳出来るのだ。たとえそれが、非現実的な手段だったとしても『政治』と言うフィルターが掛かってしまえば何でも有りだ。
『軌道上の戦艦の熱量が増加しています』
そう言ったコロナの言葉は、絶望的な報告だった。軌道上の戦艦は、主砲を地上に向かって発射した。同時に学園全体を、激しい震動が包む。それによって校舎の一部も倒壊して行く様子がコロナが映し出した外部モニターに映し出された。
「学校が…」
ユキはその光景に絶句した。夜だから、校舎は無人の筈。怪我人は居ない筈だが、これで暫く授業どころの騒ぎでは無い。しかし、コロナの船のシールドは、かなり強力な様で、戦艦の主砲の直撃でも、この程度の被害で済んでいるのだから。
『ニーナさん。あと2~3回です、持ちこたえられるのは…』
攻撃兵器に関しては、地球性の物が勝ってる様だ。あまり自慢出来ない事だが仕方の無い話だ、地球の歴史は戦争で練り上げられてきたのだ。それは自慢できる話ではない。
「コロナ、飛び出しちゃいなさい。こうなったら、どこでも良いわ。まずは逃げるの。逃げ切ったらその間に、必要なチェックをすれば良い」
あたしの言葉にコロナは再び考え込んだそして…
『やっぱり駄目です。もし今、シールドを切ってしまったら、今度は、皆さんが危なくなります』
コロナの声に皆が顔を見合わせた。そしてあたしは決心した。
「ねぇ、皆、あたしに付き合ってくれる?」
あたしは皆に訴えた。
「コロナと一緒にこのまま宇宙に飛び出すの。そして、あたし達が一緒に乗って居る事を連邦宇宙軍に知らせれば、同じ連の連邦政府管轄の人間が乗っていると分れば攻撃は出来ないんじゃないかしら」
皆は、それぞれの顔を見回し、最後の視線があたしに注がれる。
「いいんじゃないか?どの道、このままじゃこの子、壊されるかも知れないんだろ」
ケイラが初めにそう言いました。
「勿論、お付き合い致しますわ」
ナルルは相変わらずお譲様だった。そして、ユキも、スェルも皆、あたしの意見に賛成で、話は決まった。
『ありがとうございます。皆さんのお気持ちは十分理解しました。でも、私の星まで、皆様をお連れする事は出来ません。ここからは遠すぎるのです』
「じゃぁ、どうするのですか?」
ナルルがコロナに、そう尋ねた。コロナはこう答えた。
「みなさん、一旦戻って、この星から出る準備をして、もう一度集合して貰えますか?勿論、旅客船の搭乗チケットも準備してです、宜しいですか」
あたしはコロナの提案が良く理解出来なかった。
「なに、どうして?」
「宇宙に飛び出したら、皆さんが、私と一緒にいる事を、連絡して、それが終わったら、旅客船に転送します。それが終わり次第、私は跳躍航法で外宇宙に脱出します。これで、如何ですか?」
「うん、良いと思うわ、どう、皆?」
スェルの声に皆が頷いて、作戦が始まった。あたし達は未知の宇宙文明が作った宇宙船で、世界で初めて宇宙に出るのだ。そして、惑星『パピル』を後にして、地球に帰る。
どん、と言う鈍い音と共に、宇宙船が揺れる。
「みなさん、時間が有りません、早く…」
あたし達は、エレベーターで地上に出て、寮に向かって全力で走った。最後まであきらめない、コロナを宇宙に返して、あたしたちも地球に戻るんだ。連邦の横暴にも屈しない、あたしたちは自由でなければいけないのだ。
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