第三十四節:最後の夜

「ニーナ、要求通り、5人分の旅券だ。あすの夕方シャトルで、旅客船に乗船できる」


 恭一郎は、要求通り5人分のチケットをあたしに渡した。


「宇宙空港はパニック状態に成ってる。早めに空港に行かないと、容赦なくキュンセルされるから気をつけろ」

「さんきゅ、恭一郎、やっぱり流石だねぇ、伊達に連邦警察には努めてないよね」

「じゃぁ、おれはこれで。俺も同じシャトルだから空港で会おう。


 恭一郎はそう言って、あたしの部屋から出て行った。あたしは悪だくみ同好会の面々を集めて、シャトルのチケットを渡した。


「この前と同じ、用務員室から出て宇宙空港に行きましょう。皆でこの星から出るの。そして、真実を皆に伝えましょう。ウィルスなんて嘘だって、異星人の遺跡が有ったって。そして、それは今でも生きてて、自分の星に帰りたがってるって」


 あたしは自分が知っている事は全て皆に話した。連邦宇宙軍がこの惑星を封鎖しようとしてる事も皆に話した。そして、『コロナ』の事も、ナノ・マシンがコロナの通信用デバイスで有る事も。


「でも、コロナがこの星から出発してしまったら、態々星から出る必要も無いんじゃないのか?」


 ケイラがそう言ったが、おそらく、連邦宇宙軍はコロナの存在位置がまだ分らないから、この星を封鎖して、捜索するつもりなのであろう。もし、コロナが連邦宇宙銀の手に落ちたとしたら、今度はそいつらがコロナを調べる為に拘束するだろう。だから、コロナはできるだけ早く、この星を脱出して自分の星に帰らなければならない。


「コロナの事をしている人物は、連邦政府に対して驚異的な人物と言う事に成る。少なくとも、彼女の事を、直接知っている人物が、この世からいなくなる迄、この星は封鎖する必要が有るの」


 皆が顔を見合わせた。


「だから、早く準備して、この星から出るに。でないと、一生この星で暮らさなきゃならなくなるの」


 あたしは、皆にそう訴えた。皆、ちょっと半信半疑の顔をしていたが、兎に角、この星からでなければならない。その、意思だけは伝わった様だ。


★★★


 学校の授業は粛々と今日も進められていたが、生徒達の心は既に此処には無い様だ。食道のテレビでは盛んに『未知のウィルス』情報が報道されていて、それに対する政府の対応情報等が、報道されていた。

 全てが嘘…連邦宇宙軍が既に惑星軌道上に集結して居て、惑星の封鎖作業が始まったと言う報道がなされていた。そして、パニックに陥る宇宙空港、追い詰められた人間達の行動は、決して美しいとは言えない。人間の内面が見える瞬間だった。そして襲い来る不安は彼女達を苦しめる。

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