第三十三節:託された希望

「マーチンは、一体何をしようとしたの?」


 生徒会長はあたしの横をすり抜けて窓のそばまで行くと、空を眺めながら更にあたしにこう言った。


「惑星『パピル』の開拓は、連邦政府が発案したものだった。マーチンは技術者の職を捨ててその開発に志願した。疲れちゃったのね、人間関係に。新たな環境に身を置けば、何かが変わると思ったのよ」


 あたしは、生徒会長の姿が何時もと違う様に感じられた。それは、絶望感にも似た諦めが感じられた。生徒会長は。暫く何も言わなかった。そして


「良い天気ね…」


 彼女はそう呟いてからあたしに向かってゆっくりと振り向いた。


「鍵を盾にして、マーチンは何をしたの?」


 生徒会長は力なく微笑む。


「最初マーチンは技術者として純粋にコロナに興味を持ち、発掘、解析をしていた。彼にとってそれは有る意味楽しみでも有って、コロナとも良い関係でいられたの。でも、有る時から、彼に邪芯が湧きあがって来たの」

「邪心?」

「そう、邪心よ。マーチンは思ったの、コロナとナノ・マシンを使えば、連邦を乗っ取る事が出来るんじゃぁ無いかって。自分は未知の技術を手に入れた。世捨て人同様のマーチンは、そう考えると、居ても立ってもいられなくなった。コロナを『鍵』を盾に自分の意のままに動かして、遺跡の上に学園を設立して、秘密裏にナノ・マシンを宇宙にばらまき、自分は学園長と言う立場を利用して私腹を肥やして行った」


 ユキがあたしにしがみ付く、少し震えているのがわかる。息も少し荒くなっている。あたしは生徒会長に尋ねた。こんな荒唐無稽な計画、上手くいく訳が、無いではないか。現に連邦政府は、そのままだし、あたしは、この星に来るまでマーチンなんて人物のそんざいすら知らなかった。


「技術者が、そんな、不確定な計画を立てる物なの?」


 あたしは、生徒会長にそう尋ねた。


「そうね、そう思うわ。マーチンは、自分の未来を想像して有頂天だったのかも知れないわね。結局、マーチンの計画は上手くいかず、でも、その意思は学園に脈々と受け継がれ、闇の伝統は宇宙に向かってナノ・マシンを放出し続けた」


 そこまで言って生徒会長はにこりと微笑んで、言葉を区切った。そして…


「もう少しだったのよ、本当に。後は、コロナが意思統合プログラムを起動すれば、全てが上手くいく筈だった」


 生徒会長の視線に力は無かった。聡明で頭の切れる彼女の姿は、見る影もない。全てを諦めてしまった様に感じられた。


「それに地球外生命体が存在するなんて言う事になれば、人々の世界観がガラッと変わってしまう筈、経済活動だって麻痺しかねないでしょう。絶対無二の知的生命体だった筈の地球人にとって、自分の文明以上の星が有るなんて、今の人類レベルじゃ政情不安を煽るだけ。だから、連邦政府は、全て無かった事にするつもり。コロナも含めて封じ込めてしまおうって言う計画よ」


 あたしは、生徒会長の言葉を聞きながら、体の芯が熱くなって来るのを感じていた。


「コロナは関係無いわ。不幸にもこの星に偶然落ちていただけじゃない。彼女には意思が有る。それは命と同じだ、そう思って接してやらなけれあならない、ニーナはそう思いましたが生徒会長は彼女をあくまで『道具』としか見て居ない様だった。


 あたしはやり場の無い怒りに襲われて、また、生徒会長に殴りかかりそうになったが、その感情を必死で抑えた。幾らなんでも、そう何回も暴力沙汰を起こす訳には行かないだろう…


 「まぁ、全てはあなたの手に有るわ……」


 生徒会長はそう言って、ゆっくりとあたしの横をすり抜けて部屋の外に出て行った。そしてすれ違いざまに『頑張ってね…』そう呟いたのを、あたしは、はっきりと聞いた。彼女は全てをあたしに放り投げてよこした。それをそのまま受け止めてしまっても良いのか、答えが出ない思考にそのまま闇の中に落ちて行ってしまいそうな感覚に襲われた。

「そう、やってやろうじゃないの」


 腹が決まった。あたしは、闇から這い出すと、全てをの事柄に決着をつけることにした。

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