第三十二節:鍵の意味

 次の日の放課後。あたしはまっすぐに昨日の温室に向かった。コンソールの暗証番号は、再び『コロナ』が教えてくれた。あたしはしかに降りると、金属の扉を通って『コロナ』の前に建った。


「こんにちは、コロナ」


 コロナは昨日と同じ幼い少女の声であたしに挨拶してくれた。そして、鞄から『鍵』を取り出すと彼女に向かって翳かざして見せた。


『約束、守ってくれたのね』


 コロナは嬉しそうな声であたしにそう告げた。同時に床の一部が盛り上がり、小さなコンソールが現れた、そこには『鍵』と同じ大きさのくぼみが有った。


「ここにセットすれば良いのね?」


 あたしは、そう尋ねてから、鍵を窪みにセットした。


『キーワードを確認しました。ありがとう、ニーナさん』


 コロナは嬉しそうにそう言った。


「早く、皆の気が変わらないうちにこの星を出なさい」


 ニーナは笑顔でそう言ったが、コロナの話によれば、重力システム等のチェックやら何やらで三日位飛び立つ事は出来ないのだそうだ。あたしは、又来る事を約束して、地上に戻った。寮に戻って、ラジオのスイッチを入れ、今日の宿題でも片付けようと、鞄の中を引っ掻き回していた時、ラジオから、妙なニュースが流れた。


『惑星パピルにいる全ての者は、今後一切星から離れる事を禁止する』


 あたしは、何の事だと一瞬耳を疑ったが、これは地球連邦政府の決定で宇宙軍の半数の艦艇が糖分の間、惑星パピルの領空に配置されると言う物だった。


「ねぇ。ニーナ聞いた、今、寮の食堂のテレビでいたんだけど、私達、この星から出られなくなっちゃったのよ」


 ユキが泣き出しそうな表情で部屋の中井飛び込んできた。そしてあたしにぎゅっと抱きついて来た。どうやら、惑星パピルは連邦宇宙軍によって封鎖された様だ。ラジオの話によると、今から72時間以内に惑星全体にシールドを張り巡らせて物理的に出入りが出来ない様にするという報道がなされている。


「なんで…」


 あたしはユキにそう尋ねた。テレビでは、その辺の報道もなされている様で、その言によれば、未知のウィルスの発生により、出入りを制限しない場合、人類に多大な被害を与えると言うのがその理由だそうだ。


「ウィルスって、そんなもの、何処にも無いじゃない」


 学園に入って来る情報は、外界に比べれば、遥かに少ないから、外ではひょっとして、病気が広がっているのかも知れないが、つい最近のラジオでも、そんな事は全く話題に成っていない。話が不自然すぎる…


「ウィルスじゃないわ、連邦政府が恐れているのは、あの赤い色素、ナノ・マシンよ」


 いつの間にか生徒会長が、開け放たれたあたしの部屋の前に真剣な表情で佇んでいた。


 生徒会長は、ゆっくりとあたしの部屋の中に入って来ると、あたしをじっと見詰めながら更にこう言った。


「あのナノ・マシンは人を操る事が出来る。サーバー…つまり『コロナ』を自分の味方につければ、どんな人物でも自在に操る事が出来る。それに気がついたマーチンは、遺跡の上に学園を建てて、生徒を集め、ナノ・マシンを大量に体内に取り込ませてから、要所に返した。残念ながら、当時の発掘状況では、『コロナ』を自分の味方につける事は難しくて『鍵』を盾にするしか無かったの」


 生徒会長の表情はあくまでも平坦で冷徹にも見えたが、その後ろにあるのは悲しさ、寂しさであることは紛れもない事実。自分の意思が通用しない問題を解決できないもどかしさを滲ませてのものだった。

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