第二十九節:光の部屋の住人

「分った…この星を出る…ただし」


 あたしは恭一郎の目を見て一呼吸置いてから、あたしの要求を突き付けた。


「あと四人分確保して欲しいんだけど」

「四人?それは無理だ。脱出出来るのは俺とニーナの二人。それ以上のキャパシティは無い」

「じゃぁ行かない。あたしは、友達といっしょじゃなか行かないわ」


 リンダは、恭一郎に対して、くるりと背を向けて腕を組み、そのまま黙り込んでしまった。


「ニーナ、この二つを確保するだけでも大変だったんだ。今、この惑星から出るには、あの、赤いナノ・マシンの血中濃度を必ず測定してからでないと、出る事が出来ない」


 あたしは恭一郎のその言葉を聞いて首だけでちらりと彼を見て、自分の疑問をぶつけて見た。


「なにお~、だったら、ちゃんと測定して出れば良いだけの話じゃない」


 恭一郎はちょっと方をすくめて芝居じみた仕草でニーナに向かって答える。


「残念だが、この学園にいる人物は、全てアウトの筈だ。毎日花を弄っているし、花が有る環境で暮らしている。あそこまで小さいと、乾燥すれば、かなりの量が空気中に漂っている筈だからな」

「なら、あんたもアウトじゃない、この星から出る事は出来ないわ」

「だから苦労したんだ。審査なしで出られるのは、限られた人物に絞られる。ニーナの企業ですら、そこに力を及ぼす事が出来ないんだ」


 あたしは、恭一郎に向かってゆっくり振り向くと恭一郎の真似をして芝居がかった口調で言ってみた。


「あの、赤いスミレは、そんなに危ない物なの?」


 恭一郎はフリーズしたんじゃないかって思うくらい長い時間考えてから、更に躊躇いながらこう答えた。


「どちらかと言えば、親玉が危ないんだ。それを見つけ出して、破壊してしまう事が出来れば良いのだが……」


 あたしは、それを聞いて、何だと言う感じで恭一郎に答えた。結構簡単な話じゃないか。


「なんだ、親玉を壊しちゃえば良いんだ」


 あたしは、腰に手をあてて仁王立ち。そして、得意の絶頂を極めた態度で恭一郎に答えて見せた。


「あたし、知ってるわ、その、親玉の場所を」

「……な、なに?」


 呆気にとられた恭一郎の表情を横目に、あたしは窓のそばまで行くと、底から見える花壇の真ん中に建つ温室を指差して、こう答えた。


「あれよ、あれが親玉よ」


 恭一郎は、あたしの指さす方向を見た。そして、花壇中央の温室を確認した。


「あれって、ふむ、成程ね……」


 恭一郎は懐からカードサイズのデジタルカメラを取り出すと、何枚か、その写真を撮影した。


「これを証拠にして連邦警察に掛け合ってみる。場所さえ分れば、そこだけ攻撃すれば良い。惑星全体の封鎖は、回避できるかもしれない」


 かれはそう言って、窓から銀杏の木に器用にわたると、軽く手を振って、下に降りて行った。


「ふぅ…」


 怪しい動きで闇に紛れて行く恭一郎の姿を眺めながら、あたしは窓に頬杖をついて、月を見上げた。


「連邦警察に連邦宇宙軍か……」


 話が、いきなりでかくなってしまった事に困惑しながら、自分を見失わない様に気をしっかり持つ。この星の夜風は爽やかで、常春の星ならではの環境だと思う。あたしは、少しこの星が好きになっていた。勿論、地球には帰るつもりだ。だがしかし、あたしにはやるべき事が有る様だ。地球に帰るのは、それからでも遅くない。月は、そう言っている様に感じられた。


★★★


「誰…」


 光に満ちたその世界は、あたしに対して有効的であると思われた。あたしは、光の中心に向かって手を差し出すと、光はあたしに答えてくれた。そしてゆっくりと溶けて行く様な感覚に少し戸惑いながらもどうかする事は拒まない。あたしの終着点がそこで有る様な気がしたから。


「う、ん…」


 相変わらずの夢だった。あたしは、向かい側で眠るユキの寝顔を見ながら、出来るだけ静かに部屋を出た。廊下は照明がおとされて、非常口の表示だけが浮かび上がる。あたしは注意深く、非常口の表示が有る扉に向かって進んで行った。非常口を出ると、そこは直ぐに外。煌々と輝く月が昼間の熱を冷やしていた。あたしは周りの様子を見ながら、階段を下りて花壇中央の温室に向かった。

 生徒会長が使った、コンソールの前に立って見た。しかし、番号が分らない。あたしは小さく溜息を一つついてから、その場を立ち去ろうとした時、あたしの頭の中に、直接割り込む者が有った。

 それは、優しい女性の声で、あたしに暗証番号を教えてくれた。そしてあたしは再び、コンソールの前に立つと、さっきの番号を打ち込んでリターンキーを押した。同時に地下に続くエレベーターが動き始め、あたしを地下室に連れて行ってくれた。

 そして金属の扉前のキーボどの前に立つと、またしても女性の声…再びパスワードがあたしに告げられた。

 パスワードは受理され扉は、昼間の時と同様に、ゆっくりと開き、前室全体がぼんやりと浮かび上がる。全てがここから始まるのかと思うと、あたしの心臓は独楽こまねずみになったんじゃないかと思うくらい激しく打ち鳴らされた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る