第二十三節:生徒会長の告白…
識がはっきりしない。しかしこれは夢ではない。確かに現実だった。生徒会長の言葉が、はっきりと耳に残って居るし感覚も有る。あたしは頭を抱えてその場に蹲った。それは言い様のない恐怖に襲われたからだ。自分が自分で無くなる恐怖、何かに乗っ取られてしまう様な焦燥感、実態のない焦り…
あたしは窓の外に目をやった。外の景色は相変わらずのどかで平和その物の世界だった。しかし、このケリは付けないとイケない。たしはふらふらと立ち上がると、レポートの宿題を放り出して生徒会櫃に向かって行った。
★★★
夕暮れが迫って居た。どの星でもそうあのかも知れないが。夕暮れは一日の熱を冷ます。どんなに高揚していても沈む夕日は心をも沈めてしまう物だ。しかし、今日のあたしは、そうでは無かった。あたしは直接聞いてみるのが一番の近道…力技で有るが、あたしはなんだか、事を急がなければならない気がして深く考える余裕も無く、緻密に作戦を練る事も無くこう言う行動に出たのだ。
生徒会室…扉はノックして開くのがエチケットであるが、今の自分にそんな事をする余裕は無かった。
あたしは躊躇う事無く、生徒会室の扉を開いた。其処にはあたしが会いたい人物が一人で待っていたのだ。その人物は生徒会長席の机に座り、足をぶらぶらさせながら子供の様に微笑んでいる。
「来たわね……」
自分の机に腰掛けていた生徒会長は、赤いスミレの香りを嗅ぎ、あたしに向かって幼い子供の様な微笑みを見せている。窓から差し込む西日が、逆光に成って彼女の輪郭が、ぼうっと浮かんで見えたが逆光で読み取りきれない彼女の表情は、少し神々しくさえも見えた。そして彼女は躊躇う事無く口を開く。
「どう、私の力…実感して貰えたかしら」
力?何を言ってるんだ、生徒会長は……
「ええ、つまらない手品だわ」
あたしは極めて冷静だった。これ程冷めた心に成った事は、生まれて子の肩記憶が無い。
「種明かし…ねぇ…そうね、そういう表現が一番しっくり来るかもしれないわね。でも、事実はあなたが経験した通り、それその物よ」
「はぐらかさないで…随分手の込んだ手品だったけど、何をしたの…」
生徒会長は机の上からゆっくり下りて窓に向かって進んで行く。
「マーチン一家が見つけたのは、地中深く処分されていたと思われる赤い色素。彼等は開拓時代に、この星の古代文明を掘り当てて居たの。遺跡は彼らが処分してしまったから、公式な記録としては残っていない」
あたしは自分で自分の事を感心した。こんなに重大な事を打ち明けられているのに、これ程にも冷静でいられる事に。
「彼らが掘り当てた遺跡の中には、もう一つの遺物が有った。それは恐らく旧文明が作り上げたのだろうと思われるコンピューターシステムだった。マーチンはそれをサーバーと呼んだ」
生徒会長はあたしの方に振り向き、窓に寄りかかりながら更に言葉を続けた。
「そして、マーチンは、そのコンピューターシステムの再起動に成功した。彼は元々ハイテク系のエンジニアだったから、未知のシステムで有ったとしても、経験からそれを操る事が出来た。そして、そのシステムには、かなり巨大なデータベースが搭載されて居る事が分ったの」
生徒会長はそこまで言って、一度、外の景色に…遠くの山脈に目をやってから再び話を続けた。
「マーチンはデータベースの解析に没頭した。その性で惑星開発のスケジュールは遅れたけど、この発見を振っておく事は出来なかった。もしかしたら、宇宙の成り立ちの定説を、ひっくり返してしまうかもしれない発見だったから…」
あたしは生徒会長に尋ねた。
「あの、赤いスミレは何なの?」
「――あれ?はね、植物の形はしてるけど…いえ、植物である事には変わりは無いけど、ネットワーク用ナノ・マシンを作る為の工場。マーチンが発見したそれは、水分だけで自己増殖する。その性質を利用して植物に吸わせる事で安定した生産を行う事が出来る」
「あなた、以前食堂の裏手に生えて居た赤いスミレを食べてた事が有ったわよね」
生徒会長の表情が少し強張った様に感じられたが、彼女は直ぐに話し始めた。
「サーバーと共に有る為には血液中のナノ・マシンの濃度を一定以上にしておく必要が有る。若い時は新陳代謝の関係で密度が低くなる事が有るのだけど、その時の一番手っ取り早い解決方法が、食べる事…」
つまり、生徒会長が赤いスミレの近くに居る意味は自分の体の中のナノ・マシンの濃度を一定に保つため…と言う事だ。
生徒会長は不敵に笑う。その笑みには、少しの狂喜が含まれる。あたしは、その表情に飲まれそうになった。そしてあたしは勇気を振るって生徒会長に尋ねた。
「その、サーバーって、どこに有るの?」
生徒会長はまっすぐあたしを見詰めてこう言った。
「あなたの、心の中…」
「生徒会長…あなた、一体、何を考えてるの……」
「何、かしらね。あなたには察しがついて居るんじゃぁ無いの?」
そう言うと生徒会長は、普段の落ち着きを取り戻し、狂喜の消えた笑顔であたしを見ると、ゆっくりとあたしの前から立ち去った。ほのかにスミレの香りを残して…
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