第二十二節:白日夢…
生徒会長の言葉が頭から離れなかった。授業は全く実が入らない。何故、あたしなのだろう。転校して来たばかりで事情すら完全に把握出来て居ないこのあたしに、生徒会選挙に立候補しろと言う意味は…
「分かって無いから操りやすい?」
いや、生徒会長は卒業したらこのまま大学に入学するだろ。大学生に成って、この小さな学園に影響力を残す事に、何の意味が有るのだろうか」
あたしは窓の外に視線を移す。グラウンドでは体育の授業風景が見られた。相変わらず日差しが穏やかで陽気は良い。しかし、あたしの胸には、生徒会長の声が響く「生徒会選挙に立候補しなさい」と。
こちん……
突然あたしの頭に何かが当たった。
「体育の授業にはちょうど良い陽気ね、ニーナ・アンダーソン」
国語の教師が、あたしの横で仁王立ちしていた。今の衝撃は、彼女が持っていた教科書の角っ子だった様だ。
「――あ、いえ、その、別に、何と言うか、こう…」
作り笑いを必死で作って、その場を取り繕うとしたのだが、この教師は罰がきつい。明日までに、教科書の教材に関しての感想をレポート用紙に纏めて提出する様に言われて、あたしは激しく落ち込んだ。
★★★
「うう…」
放課後の図書室。あたしは、国語教師の課題を片付ける為に一人参考書と、教科書と、図書室の資料をかき集め、必至で格闘していた。あたしは、レポートが苦手だ。筋立て手何かを説明すると言う事が苦手なのだ、直感勝負の芸術家肌。だから文章が書けない。こう言う時はユキに泣きつくのだが、今日は彼女も課題が有って、あたしの面倒を見て居る暇は無さそうだ。悪だくみ同好会の面々も同様で、久しぶりに一人で時間を過ごしていた。
「ああ、もう、ホントに、いい加減にしてほしいなぁ。こんな事、社会に出たって何の役に立つんだよ」
学校の勉強は知識を蓄えると言う訳では無く、知識を蓄える術を学ぶ処だと言う事を、頭に中では分っては居るのだが、これはあんまりにも苦痛が酷すぎやしないだろうか。
国語教師の顔が心の中に浮かぶ、彼女は一生あたしの天敵で居るのだろうか。
そして、兎に角集中、真っ白なレポート用紙を何とかして埋めなければイケない。店などこの際関係無い。スペースが埋まって居れば良いと言うスタンスにあたしの思考は移りつつあった。
ふわり………
突然雰囲気が変わった様な気がした。空気が入れ替わった様なその感覚は、心地酔良い物だったが、逆にその理由が分らない分、不安を煽る物でも有った。
「こんにちは、ニーナ」
現れたのは生徒会長だった。あたしは彼女の顔を見て空気の雰囲気が変わった原因が彼女に有る事を実感した。
「宿題?性が出るわね」
生徒会長は優しく微笑みながらあたしに向かってそう言った。
そしてその瞬間、周りの景色が一変した。
爆発的に一変する周りの風景。光の嵐、眩暈がするほどの眩い光…
ここは沢山の色の光が渦巻く今迄経験した事のない世界。あたしは高速で何処かに向かって運ばれて行く。
眩い光はあちらこちらから集まって一点を目指し点滅を繰り返して進んで行く。そして光が目指す先には光の塔が聳え、その前には生徒会長が全てを見下ろす様に凛とした面持ちで立っている。有る意味神秘的で、慈愛に満ちた眼差しで…信じられない光景。あたしは自分の呼吸が荒くなって行くのを感じた。
『はあ、はあ、はあ、ゆ、夢?』
あたしは咄嗟にそう思ったが、これは現実だ、それは断言出来る。あたしの目の前で起こって居る事は全て現実の物で、これは生徒会長の力その物だと感じる事が出来た。人の心の中を自由に覗く力、それは支配者にが心から欲する強力な力。
「あたしと一緒にこの世界を…」
逆光の中、生徒会長がここまで呟いた。同時にゆっくりと生徒会長は光に飲み込まれて消えて行く。そして残ったのは光あふれる無限の空間を隅の隅迄照らし出す。そして、その光は頂点に達したところで、爆発して光の粒があたりに飛び散る。
「私と一緒に……」
強烈な光の爆発――湧きあがる輝く破片、まるでそれは――ビッグバン……
そして光がゆっくりと消えて行く、ゆっくりと……ゆっくりと…闇が見える様になった処で、あたしは現実の世界に引き戻された。
小鳥のさえずりが図書室に響く…
あたしは茫然としたまま、ここを動く事が出来なかった。
『白実夢はくじつむ?』
あたしは両手で自分の顔を覆っていた事に気がついて、周りの様子を伺いながらそれを膝の上に下ろしてごくりと唾を飲み込んだ。
「生徒会長は…」
そうだ、確かに彼女はここにいた筈だが、しかし、今此処に居るのは、はあたし一人だけだった。
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