第二十一節:正体に迫る

「普通に考えれば、通信端末が有るとすれば、それを束ねる親玉が居る筈でございましたわよね」


 ナルルが少し自信なげにそう言った。つまり、サーバーが有ると言う事だ。特にインターネットみたいな構造体だとすれば、中継地点は無数に有って、一に障害が起きても他のサーバーがバックアップする。そう言う構造に成って居る筈だ。


「親玉は何処に居るんでしょうか?」


 スェルがチキンコンソメスープをスプーンですくいながら、不思議そうな表情でそう言った。

 親玉…か。そう言う奴が居るとしたら厄介だ。そして、心当たりが有るとすれば生徒会。奴らが何か一枚絡んで居ると考えるのが自然だろう。


「生徒会…なんだろうな…」


 あたしの呟きに皆が顔を見合せながら小さく頷いた。


「でも、証拠は無いんだよな…今の処、おの話は、あくまで推理に過ぎないし、第一奴らは、何をしようとしてるんだ?」


 ケイラがちょっときつい口調でそう言った。


「思うに……」


 ナルルが再び口を開いた。彼女の推理によれば、このナノ・マシンは、聞いた話だけを総合して行くと、ウィルス見たいな性質を持っている。もしもこれが、宇宙に広がったとしたら、そのネットワーク機能で人を動かす事が出来るのではないか…そうやってじわじわと人間の世界に入り込んで、宇宙を影から操ろうと言う目論見ではないか…と言うのが彼女の推理だった。


「宇宙征服……ねぇ…」


 ケイラはナルルの意見にあまり乗り気ではなかった。だって、そんな回りくどい事するより、連邦政府の選挙に立候補して、まっとうに、支持を取り付けた方がなにかとやりやすいんではないかと言うのが彼女の主張。


「宇宙征服なんてアナクロな事、考える人も居ないんじゃぁないのかい?征服したって良いことなんてなさそうじゃない。ローマ帝国がいい例で、さんざっぱら煽った挙句に内部から崩壊してみんな不幸になっちゃったわけでしょ」


 皆、考え込んで黙り込む。朝の爽やかな空気の中、食堂の一角で妙な雰囲気を作る五人組だった。今日は妙な一日になりそうな予感がした。


★★★


「そう、元は黄色なの、このスミレは」


 生徒会長は、花壇に水をやりながら、ここのスミレが元々は黄色だった事を、あっさりと認めた。


「どうして、その黄色が赤になっちゃうんですか?」


 あたしは、出来るだけ落ち着いた口調で生徒会長にそう尋ねた。しかし、彼女のガードは結構堅い、今までの言動からわかるように簡単にぼろを出す様な人間では無かった。

 あたしと生徒会長のツーショットの理由は、昼休みの呼び出しから始まった。生徒会長の何時もの取り巻きに、体育館裏の花壇までクリ様に言われたのだ。生徒会長直々の呼び出し、しかも体育館裏。シチュエーションとしては、生意気な生徒にヤキを入れる。そんな感じに思えたのだが、いくらなんでも生徒会がそんな事をする訳も無く、あたしと生徒会長のツーショットが実現してしまったのだ。そして、生徒会長は、花壇に水をやりながら、あたしに向かって、トンデモ無く意外な事を切り出したのだ。


「ねぇ、ニーナさん…」


 優雅な物腰は決して嫌みでは無く、彼女の事は素直に優雅だと感じた。


「なんでしょう…あたしに、出来る事でしょうか?」


 生徒会長は神秘的な笑顔を絶やさな。そして少し、瞳を伏せて、あたしに向かってこう言った。


「あなた、時期生徒会長選挙に立候補しなさい」


 常春の惑星の風は柔らかく、日差しも麗らかで、ぼんやりして居ると、全て忘れてしまいそうだった。穏やかでのどか、惑星パピルの気候は相変わらずの常春。


「――はい?」


 あたしは、生徒会長が言った言葉の意味が一瞬理解できなくて、いや、一瞬どころか何か起こったのかすら把握できず、妙な調子で、そう聞き返した。


「わたし達三年は、もうすぐ卒業して、この学園から去らねばなりません。歴代の生徒会長は、自分でこの学園を仕切れそうな人物を探し出して、生徒会選挙に立候補する様に勧めて来たの」


 そう言って、スミレに水を撒く作業を一時中断してあたしに視線を送って来る。


「……な、なんで…あたしなんですか?」


 そう言ったあたしの表情を確認した生徒会長は、再び花壇に水を撒き始めた。


「わたくしの、直感…とでも言えば良いかしら」

「でも、あたしなんかに、そんな大役、務まる訳は…」

「何事も経験よ。わたくしもそうでした。祭りごとに対する興味も自信もまるで無かったけど、善人の生徒会長から指名されて、選挙に立候補したの。結果は満場一致で、私の勝ち」


 そこまで言うと生徒会長は、何故だか分らないけど、くすっと笑顔をこぼした。


「出来レースだったけど、選挙は楽しかったわ。その時ね、政権掌握って楽しい物だって」


 生徒会長は花壇に水をやり終えると、ゆっくりとあたしの前から立ち去ろうとした。こう、言い残して。


「一緒に全てを掌握しましょう、良い返事を待って居るわ」


 氷の微笑み……背筋に何か冷たい物がかけられた様な感覚に、あたしは思わず身震いした。もしもあたしが生徒会長選に立候補して当選しちゃったりしたら、彼女と同じような微笑みを零すことになるのだろうか。それこそ身震いするしかなかった。

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