第四節:夢の兆しⅡ
学校の授業と言うのは、何処も一緒で退屈な物だと改めて実感した。座席の一等地を頂いたあたしは、うららかに差し込む日の光が誘う睡魔と言う魔法から逃れるのに躍起となった。そして7割方負けて居た。眠い…
生物の時間、あたし向けにこの惑星の成り立ちについてざっくりと説明して貰ったのだが、この星のこの地方に関して言うならば、温暖な気候で一年を通して、殆ど気温や湿度の変化は無いのだそうだ。高所に行けば雪が降るが、それが平地まで及んだ事は、この100年で一度も記録されてないらしい。
パピルと言う星は常春の世界だった。あと、何かごちゃごちゃと言っていたが関係なさそうな細かい事は右から左に抜けてしまった。後でユキにでも聞いて見よう。などと、のほほんとしていたら、なんとなく一日の授業が終わった。まぁ、初日はこんなもんだろう。今日は軽くジャブをくれたと言う事で許してやろう、全ては明日からだ。
そう、あたしは素直にお譲さんになんかなる気は無い。この学園で悪の限りを尽くして退学に持ち込むと言う、大いなる野望が有ったのだ。それを曲げる事無く暮らさなければイケない。初志貫徹!あたしは、その思いを沈みゆく夕日に向かってぶつけて見たが何も帰っては来なかった。
★★★
「ねぇ、ニーナ」
悪の限りを尽くす筈なのにあたしは律儀に宿題などをやって居た。悪の限りは尽くすが、成績が悪くて笑われるのはあたしの美学に反するからだ。成績はキープした上で悪の限りを尽くすのだ。
「なに、ユキ」
そう返事をして、椅子に座ったまま上半身だけユキの方向に向けて彼女の話を聞いた。
「早速だけど、明日、花壇当番なのよ。朝5時集合だから、宿題は適当に切り上げて寝た方が良いわ」
おや、宿題よりも花壇が大事とな…
「何?花壇当番だと宿題免除して貰えるの?」
「うん、流石にまるっきりって言う訳には行かないけど、やったって言う努力の跡が見られればそれで良いの」
はぁ…宿題より大事なんだ…花壇。情操教育に力入れてるって事か…
あたしは素直にユキの助言に従った。一応誠意だけは伝わると伝わると思う。あたしは半分位終わった宿題のノートや教科書を鞄に仕舞うと、ベッドにもそもそ潜り込んだ。
★★★
幾筋もの光の中にあたしは立っていた。大きなドーム、壁には昨日の夢と同じ幾何学模様、舞い飛ぶ紙吹雪が、光の筋に反射して、きらきらと輝いている。昨日の様な不安感を抱く事は無かった。今日は極めて冷静に状況を見詰める余裕。
ドームの底を照らしていた光がゆっくりと動き出す。それはまるで光のショーの様だった。舞い飛ぶ紙吹雪と激しく点滅する光達に合わせて薄膜の壁が激しく収縮する。紙吹雪の密度が濃くなり視界が利かなくなる。しかし、あたしは極めて冷静だった。何かが起こる。漠然とした期待…あたしはそれを見上げながら、何故か涙を流しながら、その場に立ち尽くした。
――何かが…来る
「――ん」
ぼんやりする頭の中であたしは夢の光景を思い出した。昨日と同じ様な夢だったが威圧感は遥かに小さい。同じ様な夢だったのに。
そう思った処で眼覚ましが鳴った。時刻は午前4時30分。こんな時間に起きて活動しようなんて、地球に居た頃のあたしからは想像できない。下手をすると、未だ外で遊び呆けて、これから帰宅してひと眠りしようと言う時間だ。
「――う~~ん」
ユキがゆっくりとベッドに上半身を起こす。そして、先に起きて居たあたしを見て「なんだ、ちゃんと起きられたじゃない」と言って、にっこりとほほ笑み、ずるずるとベッドから這い出した。
「さ、準備して行こう。遅れたら叱られるぞ」
そう言うとユキはクローゼットからジャージを取り出し着替え始める。あたしも、ベッドに対する未練を捨ててのたくたと起き上がり、うんと伸びをして、ユキと同じく着替えを始めた。
★★★
集合場所で待っていたのは寮長のハルだった。
「皆、おはよう、全員居るかしら?」
ハル寮長は名簿を見ながら集まった生徒達をぐるっと見渡し、全員揃って居る事を確認した。
「じゃぁ今日は東の花壇と食堂の前の花壇の世話よ。二年生と三年生は、東の花壇、一年生は食堂の前の花壇ね」
ハル寮長の指示で生徒達は持ち場に向かって散らばって言った。あたしは渡されたバケツとスコップを持ってユキに尋ねてみた。
「なんだ、全部やるんじゃないんだ」
「うん、全部やったら朝だけじゃぁ終わらないし。それに寮長が昼間、有る程度手入れしてくれてるから、割と手間は無いの」
確かに十数人で全部手入れするには、この学校の花壇は広すぎる。誰かが手を回しているのだろうとは思ったのだが、ハル寮長だったのか。美人で園芸が出来て、多分料理とかも上手いんだろうな。彼氏は居るのだろうか、今度、かまかけて聞いて見よう。
★★★
あたしとユキは食堂の渡り廊下近くの花壇にやって来た。
「じゃぁ、始めますか」
あたしはスコップ持って腕まくり。
「先に雑草取っちゃいましょ。その後水を撒いて」
ユキが笑顔で作業にかかる、あたしもユキと反対側の方向から雑草むしりを開始した。確かに、早起きするのも良いかもしれない。空気の質が違う様に感じるからだ。交じりっけの無い純粋な空気。あたしはそれを感じながら雑草をむしる『黄色い花』の株をよけながら。
「ん?」
違和感…何か違う…ここに植えてあった花は『赤』じゃぁなかったっけ?いや、確かにそうだ。赤は印象に残りやすいから間違いないと思う。
「ねぇ、ユキ、ここの花だけど…」
花壇の反対側に居るユキがちょっと窮屈そうな体制であたしの方に振り向いた。
「え?なに?」
「ここに植えてあった花…赤い花じゃぁ無かったっけ?」
あたしの問いかけにユキは自分の周りを見る。ユキの周りも黄色い花だ。
「――そう言えば、そうね。寮長…植え替えたのかな」
「ふぅん、そうか、寮長か」
昼間、花壇の管理は寮長の仕事らしい。ハル寮長はマメそうだから、盛りが終わった花は植え替えてしまうのだろう――でも、盛りを過ぎたとは思えなかったが。まぁ、ちらっと見ただけで、花の色も、一瞬気が付かなかったし。毎日見てる人から見れば植え替え時期だったのかもしれない。特に気にすることはないか。さて、手を動かしましょ、その後には美味しい朝食が待っているのだ。
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