第12話 相棒
『ヒョウ、これからダンジョンに入るの?』
いや、ダンジョン用のアイテムと武器を見に行くつもりだ。
『でも、ヒョウ……お金ないよね?』
ない!ギルドに借金追加だ。
冒険者になったら、という条件で、ちゃんと事前に了承はもらってるぞ。10万ゴルまでだけど。
~ ~ ~
冒険者専門雑貨店スマイリー・マート―――
ゲートの近く、ギルドの事務所隣りにあるこの店にはオレも入ったことがない。
『なんで?ヒョウは魔導具を扱っているお店は全てクビになったんじゃないの?』
オレは、店の外壁に貼ってある張り紙に指を指した。
そこには「冒険者以外入店禁止」とある。
『へえ~。じゃあ特別なアイテムが売ってるのかな?』
そうだと思う。冒険者専用って危険な響きだ。興奮してくる。
『……』
「いらっしゃい」
愛想の良さそうな恰幅の良い女性が声を掛けてくる。
「何をお求めで?」
「冒険者になったばかりなんだ。初心者にオススメのアイテムがあれば教えて欲しい」
「そりゃあ、おめでとう!そういうことならこの冒険者入門セットでバッチリだよ!入手した魔石を入れるためのポーチ、初級回復ポーションが3本、ダンジョンコンパスの3点セットで破格の5万ゴル。買わなきゃ損ってもんだ」
「……ポーションとダンジョンコンパスはどういう効果なんだ?」
「ポーションは怪我が治る飲み水だよ。集中的に効果を得るなら負傷箇所に振りかけるように使えばいいし、身体全体に効果を得るなら飲めばいい」
「それはすごい効果だ!何故、冒険者限定なんだ?」
「このポーションは生産数が限られている上に消費期限が長くないんだよ。大体1ヵ月くらいとみておいて?」
内纏してポーションを見ると、やはり魔力を帯びているのが分かる。
やっぱり魔石に込めた魔力と同じで徐々に抜けていくのか。それでも比べものにならないくらい長期間維持するんだな。それとも水にも秘密が?
『多分だけど、魔術の〈
「こっちのダンジョンコンパスは近くのゲートの方向を教えてくれるんだ。これがあれば、ダンジョン内で自分の居場所を見失わずに帰ってこれるよ」
チラリと店の商品についている値札を確認する。
初級回復ポーションは1本1万ゴル、ダンジョンコンパスは2万ゴル、ポーチは5千ゴル。
合計5万5千ゴルだから、5千ゴルお得ということか。
『ちょっと待って!ダンジョンコンパスは壊しちゃうんじゃないの?』
う……オレも薄々そう思ってたが、触ってみないと分からないだろう?
『これから武器も見るんでしょ?ここは我慢しよ?』
うぅぅ……そうだな。
『よろしい!』
「ポーション1本とポーチだけもらおうかな」
「セットの方がお得なんだけど、それでいいのかい?」
「ああ」
「じゃあ1万5千ゴルね!一応ギルドカード見せてね。」
ギルドカードを見せ、お金はギルドにツケてもらった。
「ごひいきに!」
店主の元気な声に見送られて店を出た。
次は武具店だ。
~ ~ ~
武具店アングリー・ギア―――
漆黒に塗られた外壁に、白い字で店名の「アングリー・ギア」が一筆されている外観。
相変わらず、周りから浮いている。店長の独特の趣味全開だ。
雑貨店の向かい側にあるここは、オレが最後にクビになった例の店だ。
入店すると、カランカラン、とベルが鳴る。
雑貨店とは違い、店内は広く、店長が声を掛けてくることはない。
どこをとっても客商売に向いていない店長だが、今回ばかりは助かる。
オレからも店長の方をなるべく見ないようにする。
経験上、オレが働いたことのある店に入店すると、店長は高確率でオレを追い出そうとするからだ。
高い武器は店の中央にあるショーケースに入れてあり、手に取ることができない。
安い武器は壁際に武器種別ごとに並んでいる。
オレの目的は当然安い武器。並べられた武器にギリギリまで顔を近づけ、自分が使うことを想像してみる。
本当なら、思う存分に触り、握り、できるなら素振りまでしたい。
しかし、もしも壊してしまったら―――弁償できる金がある訳もない。
さすがに冒険者になったその日に犯罪者落ちは間抜けすぎる。
オレは歯ぎしりする思いで自重しているのだ。
『【
?パッシング……?何を言ってるんだ?頭は大丈夫か?
『!?ヒョウが名付けたのに!』
片刃の剣や両刃の剣のラインナップが多い。それ以外にも、短剣や斧、槍がいくつかある。
最安値で短剣の4万ゴルだが、そのリーチの短さに頼りなさを感じる。
これなら殴った方がマシな気さえする。
その次に安いのが片刃の剣と両刃の剣で10万ゴル。予算オーバーだ。
武器を買うことを諦め、入り口に向かう―――そのとき、入口付近にある棒が目に入った。
店に入ってすぐ目に入ったときは武器だと認識できなかったため、見逃していたのだろう。
しかし、これは立派な武器だ。短剣を見た後だからだろうか、リーチの長さに惹かれる。
値段を見ると4万ゴル。長さは180センチ前後だろうか。握りやすい太さだ。
一切の装飾がない真っ黒なその棒をオレは気に入った。
あとは、【
オレは弁償する覚悟で棒に触れる―――壊れない。
良かった。心の底から安堵した。
購入を決めたオレは入店後ようやく店長に声を掛ける。
「店長!お久しぶりです!」
「!!!お前……いつの間に。何も壊してねえだろうな!?」
『歓迎されてないね……』
失礼すぎるだろう。店長という肩書を持つ人はなんでこうも同じようなことを言うんだろうか。
「勘弁してくださいよ。今のオレは客ですよ?ほら、この棒を買います」
棒を持って店長に近付く。
店長は棒を見て、言いずらそうに口を開いた。
「この棒、実はつい最近、客の誰かが置いていったみたいなんだよ。いつの間にか置いてあった。オレの目から見て、武器として使えるから商品にしてるが、気持ち悪ければやめとけ」
そんなことか。思わず笑ってしまう。
「オレが触って壊れない、イコール、品質に問題なし、ってことですよ」
「……お前、それよく笑って言えるな?」
『確かに』
「ギルドへツケておいてください」
そう言って、ギルドカードを渡す。
「よし!大切に使えよ?絶対に壊さずに使い続けろよ?武具店なんてそう何度も来る場所じゃねぇぞ?」
……嫌われたものだ。
客としての権利で居座り、もっと武器を見ていたいが、さすがに居心地が悪い。
大人しく店を後にする。
『いい買い物ができたね!』
ああ。これからの冒険者活動は常にこの棒と一緒だと思うと心強い。
頼むぞ、相棒!
『……意思疎通が取れる相棒も大事にしようね?』
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