第11話 新人

小鳥のさえずりと窓から差し込む明るい陽射しが心地よい。

新たな門出にふさわしい気持ちのよい朝だ。


『いよいよ冒険者だね!』

ああ。内纏はもうバッチリだぜ。アリスには色々助けられた。ありがとうな。


『ううん。言ったでしょ?ヒョウに助けられたのはわたしの方だよ。だから、これからも力になるからね!』

そうか?助けたつもりはなかったからそこは気にしなくていいんだが。


……でも、まあ確かにオレの中にいるってことは家主として間借り料くらい受け取って当然だし、多少助けてもらうのも当然だな。

『え゛!?う、うん。ソウダネ』


~ ~ ~


ギルドの受付・ジュディスに要件を話し、内纏の確認ができるギルド員を呼んでもらう。

来たのは知り合いのスランジだった。


「よう。試験から1ヵ月も経ってねえだろ?ホントに使えるようになったのか?」

「ああ。バッチリだ。あの日……スランジに教えてもらったトレーニングをしていなかったら、こんなに早く習得することはできなかったと思う」

「じゃあ見せてもらおうか」

「分かった」


オレは特に気負わず、内纏を使う。

もはや、それは気合を入れてするようなことではなく、歩いたり走ったりするくらい、できて当たり前のこと。

身体中の魔力が最初の頃とは比べものにならないくらいスムーズに循環する。


それを確認したスランジがニヤッと笑い、口を開く。


「いいだろう。ヒョウ、今日からお前は冒険者だ」

「っしゃー!!!」


ガッツポーズをとって喜びを爆発させる。

これで魔導具との楽しい毎日が開幕だぜ。


そんなオレに、スランジが顔を引き締めて注意を入れる。


「このタイミングで無粋だろうが、その力に振り回されないように注意しろよ?内纏を習得した以上、お前は既に一般人とは比べ物にならない力を持ってるんだ。その力を悪用することは絶対に許されねぇ」

「オレが冒険者をクビになるようなことをする訳がないじゃないか」


そんなことになったら、今度こそ魔導具に一切触れないような仕事を強制されるに違いない。


「ならいいがな。しかし、もし仮にそんな真似をしたら―――オレたちに仕事させないでくれよ?」


仕事―――退職の書類手続きのこと―――ではないよな。いわゆる汚れ仕事ってやつか。


そんな仕事も元冒険者のギルド員はやってたのか。のんびり働けるセカンドキャリアだと思ってたけど、結構世知辛いな。


「後はジュディスから説明を受けろ」


そこまで言って、スランジはジュディスに顔を向け、口を開く。


「あとの説明は頼んだぞ?オレは持ち場に戻る」

「は、はい。私から説明させていただきます」


ジュディスさんが声をうわずらせながら引き受ける。


「……よろしく」


実績がありすぎて、不安になる。


「はい!おめでとうございます、ヒョウくん。まず、こちらがヒョウくんの冒険者証明書になるギルドカードです。ダンジョンに入る時やギルド内の施設を利用する際に提示を求められることがありますので、常に携帯することをオススメします」


ギルドカードを受け取り、確認する。顔写真つきだ。


「では、説明させていただきますね。ご存じだと思いますが、新人はみな5級冒険者に位置付けられます。よって、当面の目標は4級冒険者への昇格、ということになります。昇格条件ですが、任意のDランクダンジョンに出現するモンスター全種類の魔石を売却して頂く事です。達成できた時点で、昇格となります」


この1年間でリサーチはバッチリだ。

既にこの街のダンジョンに出現するモンスターは全て覚えている。


「ダンジョンで得た魔石は必ずあちらの鑑定所に持って行ってください。鑑定ののち、売却額を算出します。もし、額に納得がいかない場合は、魔石をお持ち帰りいただいてもかまいませんが、昇格条件の達成にならないのでご注意ください。また、横流し行為は判明し次第、冒険者登録の抹消となります」


ギルドの借金返済するまでは売却一択だろう。早く自由になりたい。


「次に、パーティについて説明します。パーティを組む、つまり複数人数での活動をギルドは推奨しています。等級が上がり、入るダンジョンの難易度も上がってくると、常にパーティで活動することも珍しくありません。等級が低い内は一人でも問題ないかもしれませんが、安全面や効率面で考えると早めの検討をオススメしています」


パーティか。

オレは冒険者1年目で右も左も分からない新人だ。

できれば、頼りがいのある先輩に面倒を見てもらい、楽々昇格したいところだが、そんな展開はまずあり得ないことは重々承知だ。

このギルドで何年も過ごしていて、オレはよく知っているんだ。

ここにいる現役冒険者には2種類いるってことを。つまり、上にいけるやつとずっとここにいるやつ。

酒場でバイトをしていると、頻繁に現役冒険者を見るが、その目を見れば大体予想がつく。

ズバリ―――目が淀んでいるやつは既に上にいくことを諦めている。

そうでないやつは半年もすればいつの間にかいなくなる。このダンジョンを卒業したってことだ。

つまり、このダンジョンにいるわけがないのだ。後輩想いの良い先輩など。そうなる資質があるやつはすぐ上位のダンジョンに行くから、ここに残っているのは、自分のことで手一杯のやつだけ。


オレはしばらくソロ活動が続くことを覚悟した。


「どうでした?完璧な説明でしたよね!バッチリ予習してきたんですよ!」


「すごいな」


色んな意味で。


「……一つ忘れてました」


あなたの凄さは、さらに増したよ。


「レベルのお話です。ダンジョンではモンスターを倒すと、自分の魔力が濃くなる感覚があります……ありますって、まるでわたしが経験したみたいな言い方ですけど、上から言われてる内容を読んでるだけですよ?」

「分かってる」

ボロが出始めちゃった。


「どこまで話しましたっけ……あ、ここからですね。魔力が濃くなることで、内纏の効果は高くなり、よりモンスターと有利に戦えるようになりますし、より強いモンスターとも戦えるようになります。これを『レベルが上がる』と表現します」


レベル……。

ブレイブのような才能の塊みたいなやつでも、必ずオレと同じ5級冒険者からスタートする理由はこれか。


「レベルが上がることによるメリットはそれだけじゃありません。一定のレベルに達することで、必ず魔術が発現します。魔術というのは、超常的技能だと思ってください。必ずしもみな同じものが目覚めるとは限りません。例えば、ギルドが管理している魔術一覧の中には、〈浮遊〉や〈嗅覚強化〉などがあります。使い方は発現した人には自然と分かるので心配ありません」


魔術!

なにが出るのか分からないって、ちょっと怖いけど滅茶苦茶楽しみだ。


アリスの魔術は何だったんだ?

『わたしのはね―――ヒミツ!でも、強いよ~』

どうせ、〈ツッコミ〉だろ?

『違うよ!?強い〈ツッコミ〉ってなに!?』


「ヒョウさんも魔術が発現したら、必ずギルド員に声を掛けて自分の魔術を確認してもらってください。魔術を使っての犯罪を防止・解決するために、ギルドで全ての冒険者の魔術を管理しているんです」


魔術はそこまで対策が必要なくらい、現実離れしたことができるってことか。

なんかさらに期待のハードル上がるなあ。


「ヒョウさんはやはりこの街のDランクダンジョンで4級を目指すんですか?」

「まあそうなる。ダンジョンについて下調べができてるのはここだけだし」

「困ったことがあったら気軽に声を掛けてください。冒険者の力になることが私たちの一番の仕事なんですから!」


ジュディスさんは暖かさを感じる笑顔で言った。


この人がギルドの顔である受付にいる理由が分かった気がする。

この人はみんなにとっての魔導具なんだ。

『!?』

魔導具は、そこにいるだけでオレを元気にしてくれる。たとえ―――機能的にポンコツだとしても。

『良いこと言ってる風だけど、ポンコツで台無しだよ!』

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