第9話 冒険者登録試験④

オレは同士に声を掛ける。


「シン、どうだ?」

「ヒョウくん、オラ……どうしたらいいのか全然分からないだ」


取っ掛かりすらつかめず心底困ったという様子は、悲しげな子犬を思わせる。


「魔力を血液のように全身に循環させるイメージがいいようだぞ」


なんで分かるんだ?と突っ込まれるがイヤだったので、シンにだけ聞こえるように耳打ちしてやる。

シンは素直な性格からか、全く疑う様子がない。


「ありがとうだ!なんかできそうな気がしてきただ!」

「そうか」


ふうん、へえー、ほおー。


その様子を見ていたウィンザーさんが近付いてきた。


「一応、お前らの内纏も見せてもらおうか?」

「いや、でき―――」

「分かっただ」


オレの言葉を遮ったシンは、目を閉じる。

嘘だろ……ヤメテくれ。


……10秒ほど経つと、またもやウィンザーのシュールな独り芝居が開幕した。

あああ。ヤメロって言ったのに、やっぱり始まっちまった。オレは必死に笑いを堪える。

また笑ったら今度こそ殺される。

オレは顔の前に手を当て、うずくまるようにして笑っているのを悟られないようにする。


「シン、合格だ。おめでとう。お前も大したものだ」


シンに合格を告げる声が聞こえ、顔を上げる。

耐えきったか。


「では、最後にヒョウ。どうだ?お前はオレの内纏がおかしいと指摘できたのだから、できるんじゃないか?見せてくれ、お前の力を」

「確かにボクもウィンザーさんの内纏に違和感なんて感じ取れなかった。ヒョウならできるよ!」

「オラができたのはヒョウくんのおかげだ。オラができて、ヒョウくんができないわけないだ」


……なるほど。最後にそう来たか。油断したオレが悪いんだ。


ああ。見せてやるよ!オレの―――内纏を!!!


5分後―――

「まあそうだろうな。落ち込むなよ?それが普通で、ブレイブとムーアとシンが異例なんだからな」


それ、オレ以外の全員だけどな。

ウィンザーはオレにフォローを入れた後、全員を見回して口を開いた。


「よし。今年の冒険者登録試験はここまで!仮合格者はヒョウ。本合格者はブレイブ、ユーフィア、シンだ。本合格者はこの後、受付に行って冒険者についての説明を聞いていくか?もちろん、活動拠点に戻った後に最寄りのギルドで聞いてもいいぞ?」


「じゃあ、ボクは自分の街にあるギルドで」「わたしも」「オラも」

「では解散!」


終わった―――か。

仮合格。ギリギリではあったが、魔導具との未来を手放さずに済んだ。


ウィンザーの話では、仮合格さえすれば本合格までの期限はないんだけど……。

ギルドが借金を持つオレを無制限に待ってくれるはずがないんだよなあ。


ギルド長補佐のサンドラさんに詰められる想像をして―――寒くなった。

オレに限っては、内纏習得の期限は長くない。そう思っておいた方がいいな、うん!

気を緩める余裕などない。みんなにアドバイスを聞きに行こう。


~ ~ ~


ブレイブの場合―――

「ああ!もちろん、いいとも。ボクらは同期だし、お互い高めあおうじゃないか!ボクの内纏のイメージはこう……最初にとにかくグッとするとグルグルする感じがしてくるからグググってなる部分をシューってするんだ」


レベルが高すぎた。これが感覚派というやつか。


~ ~ ~


ウィンザーの場合―――

この男には頼りたくなかった。

しかし、オレは必要とあらば何でもやる男―――魔導具のためなら、この男との確執など忘れて見せる。一旦な。


「なんで試験官のオレに聞くんだよ?教えるわけないだろう。え?既に試験官じゃないって?まぁ……そうなんだが。チッ、しょうがねえな。いいか、お前は洗濯機だ。いや、比喩だよバカ野郎!いいから黙って聞け!お前という洗濯機の中に洗濯物という魔力がある。となれば洗濯機のやることは一つだ。回せ。以上!」


少し話していて分かったが、この男―――チョロい!

しかも、もらえたアドバイスはオレ向きかもしれない。


~ ~ ~


ユーフィアの場合―――

呼び止める声を無視してサッサと帰っていった。

クールすぎる。


~ ~ ~


シンの場合―――

シンにだけは聞けない。

さっき、したり顔でアドバイスしておいて、何を聞けるっていうんだ。


~ ~ ~


ウィンザーにオレたち3人は礼を言い、ギルドから出る。

時間は昼を過ぎた頃で外は明るい。


「昼飯でも食べにいくか?案内するぞ?」

「ありがたい申し出だけど、遠慮するよ。なるべく早くピッカンに帰って、家族に報告したい」

「じ、じゃあオイラも」


そういうことなら仕方ない。


「OK。じゃあ弁当屋にでも寄って、帰り道の途中で摘まめるものを買おう。オレも分岐路まで見送るよ」

「それは助かるよ!」

「本当にヒョウくんには感謝だ!必ずこの恩は返すだよ?」


しばらく雑談しながら歩き、分岐点に辿り着いた。


「ボクの街はこっちなんだ」

「オラの街はこっちだ」


二人が別々の道を指す。


オレは当然のことを言って別れを告げる。


「じゃあな。次会う時はお互い冒険者だ」

「じゃあボクは先輩冒険者として追い抜かれないように気を付けるよ。キミたち同期も頑張っていると思うと今まで以上に頑張れそうだ。また会おう!」

「オ、オラも一人前の冒険者になれるよう頑張るだ。また、必ず生きて会おうだ!」


オレは来た道を戻る。


アリス、オレは今日ブレイブたちに大切なことを教わったぜ。

『え?どうしたの、急にまともなこと言い出すなんて』


最後まで語らせろよ!もういい!

『ゴメンゴメン。聞かせて?』


オレは凡人だってことだ。あいつらに比べて凡人すぎる。才能のない凡人なオレはもっと普通ってやつから逸脱しないといけないと思うんだ。

『凡人……かなぁ?既に異常者のオープンリーチだと思うんだけど。これ以上逸脱したら間違いなく捕まるか、刺されると思うよ?』


そう!もっと攻めの姿勢が必要なんだ!

『聞いてる!?ホントに語りたいだけなんだ!?』

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