第8話 冒険者登録試験③
集合部屋に着くと、ウィンザーが教壇に立ったので、オレたちも合わせて椅子に座る。
最初にこの部屋に入ったとき、集まった人数に対して椅子が少ないと思ったけど、元々合格者用の椅子だったのか。
「ダンジョンにいるモンスターは常時魔力を体表に纏わせている。これはやつらにとって武器であり鎧でもある。並みの防具は貫いてくるし、並みの攻撃では大した痛手にはならない。ではどうする?」
こちらに目を向け、聞いてくる。
伊達にギルドに住んでいない。この程度の知識は持ち合わせている。
「魔導具の武器を使って攻撃する」
「50点だ。確かに魔導具の武器に魔力を込めれば、攻撃力は十分だろう。しかし、防御力はどうする?それにお前らの身体能力でモンスターと太刀打ちできると思うか?モンスターはお前らが思っているほど弱い存在じゃない」
そういえば、魔導具の鎧は見たことがない。
ウィンザーはニカッと笑い、話を再開した。
「答えは、魔力運用法における基礎中の基礎、魔力を身体の内に纏わせることだ。この技を内纏と呼ぶ。これを使うことでお前らの身体能力は大幅に強化され、モンスターとも戦うことができるようになる。次の試験は内纏を習得すること。できた者は本合格。晴れて冒険者だ」
「「「「!」」」」
「驚いた顔をしているな。しかし、オレは試験が1つで終わりとは言っていないぞ?お前らは現時点で、まだ仮合格という訳だ。どうせ他の冒険者に話でも聞いたんだろうが、この試験については口外禁止となっているんだよ。お前らも気を付けろよ?」
スランジ達の笑い声が聞こえるようだ。あいつらめ……。
「この試験は無期限。各ギルドにお前らの名前を通達しておくから、内纏が習得できたと思ったら最寄りのギルドで確認してもらえ。ここまでで質問はあるか?」
オレはすぐ口を開く。
「どうやってその内纏というのを習得するんだ?」
「まぁ、当然の質問だな。習得の方法は秘密であり自由だ。要は、情報収集も試験の一部ってことだな」
なるほど。
自由なんて言うけど、現実的に考えると、冒険者に教えを乞う、一択だ。
弟子入りするなりして懐に飛び込むか、お金などの相手が求める物を代価にして……。
どちらにせよ、教えを乞う相手次第で天国と地獄に分かれかねない。
たちの悪いやつに目をつけられたら最悪だ。
その点、オレは有利だ。アリスがいる。
『分かってるね!わたしに任せて!』
元冒険者のスランジ達に聞いてもいい。あいつらはデリカシーのないやつらだが、信頼できる。
『……分かってるよね?まず、わたしに頼ってね?』
そんなことをつらつらと考えていると―――
「できた!」
ブレイブの弾んだ声が聞こえ、オレはそちらに顔を向ける。
そこにはなにも変わらないブレイブがいる。
「……?なにも―――」
変わらないじゃないか、と言いかけた瞬間―――
「まだぎこちないが……できている!お前、さっきの説明だけで―――なんてセンスだ」
「!?―――!?」
オレは思わず、ブレイブとウィンザーへ交互に目をやる。
何も変わっている様子がないブレイブと、そのブレイブに驚きながらも称賛するウィンザー―――下手な芝居でも見ているかのようなシュールな光景に笑ってしまいそうだ。
そんなオレの様子に気付いたウィンザーは怒気を宿らせた顔で言う。
「なにをニヤニヤしているんだ!?」
しまった。顔に出ていたのか。
咄嗟に嘘がつけなくて素直に口に出してしまう。
「い、いや。ちょっとウィンザーが可笑しくて……」
「!!!」
ウィンザーは驚いた顔をした後に口を開いた。
「そうか。よく分かったな。確かにオレの内纏は本来、人にどうこういえるほど上手くない。見る人が見れば、違和感を感じるかもしれん」
何やら語りだしてしまった。しかし、オレは今、あなたの言っていることが分かっていないことを分かってほしい。
「現役の頃こそ、それを認められなかったが教える立場になって自分の立ち位置がよく分かった」
オレは、あなたの中でオレがどんな立ち位置なのかさっぱり分からない。
「今だからわかる。オレが3級冒険者で頭打ちだったのは内纏を疎かにしたからだ。お前たちはオレ程度の内纏で満足するなよ!」
『いいこと言うね!』
そうなんだろうな。オレは気になることが多すぎて全く話が入ってこなかった。
自分語りが終わって満足した顔のウィンザーは改めてブレイブに告げる。
「ブレイブ、合格だ。おめでとう。お前ほどの才能を持つやつは初めて見た。しかし、才能に溺れるなよ?あとは―――」
ウィンザーさんはユーフィアに顔を向けて告げた。
「ユーフィア、合格だ。おめでとう。お前は元々できてたからな。今回はオレが気付いていたからいいが、自己主張しないといかんぞ?」
ユーフィアもできてたのか。ウィンザーの話で、普通は試験日当日に本合格するものではないと分かってはいるが、焦るぞ。
『ヒョウもやってみよう?』
そうだな。とりあえず、やってみないと始まらない。
オレは魔力を魔石に入れる要領で手足から放出する。
……こうじゃないんだよな?
『うん。わたしのイメージだと、魔力を血液のように全身に循環させるイメージ』
分かりやすいぞ!
心臓の魔力を意識してそれを全身に駆け巡らせようとする。
中々動いてくれない魔力を無理やり動かしていく。
えっちらおっちら1周2周と駆け巡らせてみたが、これは―――プールをスプーンでかき混ぜているような感覚。
これは練習してどうこうなるか!?
どんなに高速でかき混ぜても混ざる気がしないんだけど。
これを初見で、しかもアリスのヒントなしにできてしまうブレイブが本当にすごいのだと実感した。
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