第7話 冒険者登録試験②
3級冒険者が限界で引退したオレだが、その経験を活かしてくれ、とギルドに声を掛けてもらった。
そんなギルドには感謝しかない。
今年も冒険者登録試験の日がやってきた。
この仕事は極めて重要なものだ。
下手なやつを冒険者にしてしまうということは、そいつを殺すことにも繋がる。
そうでなくても、向いていないやつに新しい道を選ばせてやることは優しさというものだ。
冒険者は命懸けな上に、割に合わない仕事なのだから。
オレはいち早く集合部屋にある小部屋で待機し、参加者の様子を窺う。
既に30人近く集まっているな。
ちょうど時間になったので子部屋から出ようとする―――その直前、最後の受験者が入室してきた。
改めて、集合部屋に入り、そいつを見る。
中肉中背で黒髪の、どこにでもいそうなやつだ―――身体つきは悪くない。
しかし、不合格にしてやる。オレの経験上、時間にだらしないやつは大成しな―――
そこまで考えたところで、やつがニヤリと笑った。まるで考えていることはお見通しだというように。
オレが集合部屋に入るより前に入った以上、自分に理があると言いたいのか!?
まさか、オレが入るタイミングを読み切った上であえてギリギリに入ってきた!?
……フッ、見た目とは裏腹に中々面白いやつじゃないか。
そいつから目を切り、予定通りに話を進める。
シャトルランが始まって1時間―――
まだ残っているのは4人。豊作だといえる。
このシャトルラン、実は十分な体力を持っていることだけが合格条件ではない。
心・技・体を試しているのだ。
4人のうち1人は体力を技術で補って今も走っている。
心の問い方は簡単だ。
オレは決して、心が折れる前に声を掛けることをしない。
何度、線まで間に合わなかろうとも。
体力がない上に、オレが声を掛ける前に心が折れるようでは不合格は当然。
そこをいくと、あの最後に入室してきたやつは体力はまだ不十分だが、精神力は鍛えられている。間に合わないなりに、妥協なく限界まで振り絞り続けている。
心の強さで合格するやつは珍しい。
やつが今後どう成長するのか楽しみにさせてもらおう。
「そこまで。お前たち4人は合格!」
オレは彼らに声を掛け、シャトルランを終わらせた。
◇ ◇ ◇
試験合格を知らせるウィンザーの声に、体が震えるほど喜びがこみ上げる……いや違った。これ疲れて痙攣してるだけだ。
もちろん、嬉しいけど。
ウィンザーは続けて言う。
「休憩にしよう」
残った受験者を見渡す。3人とも同年代くらいだろう。
当然だが、みな動きやすい恰好をしている。
オレほど疲労しているようには見えないのは現時点での彼らとの差ということか。
体を休めながら、アリスに話しかける。
色んな意味で惨めな時間だったが、未来を勝ち取ったぜ。
『真ん中をウロウロしてたのヒョウだけだったもんね。でも、よく頑張れたね』
愛ゆえだ。
ちなみに、お前に抉られた傷はまだ癒えていないぞ。
それにしても、ウィンザーは何故オレを不合格にせず、活かさず殺さず長時間いたぶるようなことをしたんだ?
そういえば試験前にも、じっと見られてたぞ……まさか、イジメの対象に選ばれた?
『そう?たしかに注目されてる気はしたけど、そういう感じじゃないと思うけど』
アリスがそう言うならオレの勘違いだったか。
チラッとウィンザーの方を見ると、目が合ってしまった。
あの顔から読み取れる感情は―――期待!?
……つまり、次はどんな痴態をさらしてオレを楽しませてくれるんだ?ということか。
オレはまた震えた。
しばらくして、ウィンザーがオレたちに声を掛ける。
「そろそろ呼吸も落ち着いてきただろう。もう少し休んでていいから、その間に自己紹介してくれ。そっちから順に、名前と、どこから来たか程度でいいぞ」
1人目は短く切られた銀髪に暗い瞳。端正な顔立ちの女の子だ。
「わたしはユーフィア。Cランクダンジョンのあるザンバーから来たわ」
氷のような冷たい雰囲気で近寄りがたい。
2人目、金髪碧眼の少年が自分の胸に手を当てて口を開く。
「ボクはブレイブ。Bランクダンジョンのあるピッカンから来た」
華のある所作と整った顔立ちが相まって王子様のようだ。
3人目は―――
農作業に使う帽子だろうか、目深くかぶっていて顔が分からない。
「えっと、オラ、シンだ。Dランクダンジョンのあるドグランから来ただよ。よろしくだ」
気弱そうな雰囲気とは裏腹にガタイが良い。
自己紹介と共に、帽子を脱ぎ、頭を下げた。
茶髪のマッシュヘアに人懐こそうな澄んだ瞳、整った鼻筋……あれだな。
『わあ!みんな美形だね~!』
ああ言いやがったよ、こいつ!どうせオレだけ普通だよ。
親からもらったこの顔に不満なんてないけど、さすがに一人だけってのは気になる。
どいつもこいつも顔面偏差値どうなってるんだ。こいつらと並べば、オレなんかおげちゃだぜ。
せめて先だったなら、気にせず終えられたんだ。
こいつらの後に自己紹介なんて―――ハッ、そういうことか。これはウィンザーによるいじめ。
「オレはヒョウ。この街の出身だ」
屈辱の自己紹介をこなした。
オレの痴態を十分に楽しんだのであろうウィンザーが口を開く。
「よし。では休憩は終わりだ。次は座学をするから集合部屋に戻る」
座学?変な言い方をする。合格したのだから、冒険者についての説明をするという意味なのだろうが。
疑問をぶつける間もなく、ウィンザーは背を向け、歩き出した。
~ ~ ~
ウィンザーの後を追い、集合部屋へ移動している最中、ブレイブから声を掛けられる。
「キミの粘り強い走り、隣で見ていたけどすばらしかったよ!」
少し興奮気味に放たれたその言葉に嘘は感じない。こいつはいい奴だ。
「ありがとう。だが、お前らの方がずっとすごかった」
「いや、キミもこのくらいはすぐにできるようになるよ。もちろん、未来の勇者たるボクには追いつかせないけどね」
手を差し出してくる。
「未来の勇者と知り合えて光栄だ。よろしく」
彼の個性を秒で受け入れ、その手を握った。
自称勇者には慣れてる。
『!?』
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