第三章 3-8 異世界小説家、清河八郎になる

「ほぉぉ……」

 内側から見ると、よく分かる。外から見るより分かりやすい。

 龍の巣=カルデラの様子が。

 切り立った「天然の要害」はカルデラの外輪山だ。綺麗なミルククラウン状に囲われている。

 カルデラ内は鬱蒼とした森が広がり、龍の巣はその中央火口丘に存在するらしい。


 その龍。

 賢者の末裔・ルッカ・オーマイハニー曰く、賢者の議定書エルダーズ・プロトコールに則って儀礼を尽くせば、人と龍は和合する――――ってこと、らしいが……

 僕は未だに半信半疑。

 だが、もう龍の巣ここまで来てしまっては進むしかない。

「よろしくおねがいします」

 再び石化して動かなくなったギガンテスに、柏手を打って成功を祈願する。

 もうこんだけ大きな御神体とか、奈良か鎌倉の大仏レベルに御利益ありそうだ。

 壮大さは信仰への根源の一つだからね。

 なむなむ……

 ありがたい像は取り敢えず拝むのが日本人なのだ。


 よし!


 隊列を整え直し、準備万端、

「征くぞ! 龍征伐軍ドラゴノーツ・ザ・レジデンス! 行軍再開!」

 たまには将軍らしく、兵たちへ号令したところ……


「ちょっと待ったああああああああああああ!」

 間髪を入れず、突き上げを食らってしまった。

「これ、どういうことよ! 将軍! フザケてんの????」

 パラマウント曹長が、敵対チームを恫喝する勢いで食いついてきた!

「え? 何の話? 何を怒られてるの?」

 将軍の威厳もクソもない、ド直球の質問を返すと……

「アレッスよ! アレ! なんで拝んでオシマイなんすか!」

 そうだそうだ! と子飼いのチーマーたちも騒ぎ出す。

「せっかくあんな強力な味方がいるのに、置いていくつもりすか? マジで?」

「あ~、その考えはなかったわ」

 パラマウント曹長、心底呆れ果てた顔で、

「将軍……あんたホントに龍を倒す気あるんすか?」

「ある! ……というか、ない!

「意味ワカンネ……龍だよ? あの災厄の龍と俺たちは戦うんだゼ? これから! 決死の覚悟で龍の巣へ特攻するってのにヨウ! 王様の音響兵器もなければ、天才錬金術師のギガンテスも連れて行かないのなら、どうやって戦うんだよ? 素手で? 徒手空拳でやれってのか?」

 パラマウント曹長に主張に、兵たちから熱烈な賛同が挙がる。

 まずい、こりゃまずい。

 このままでは僕は、大航海時代の、船員に叛乱を起こされて吊るされる船長になりかねない!

「命、張ってきてんだよ俺たちわよォ! ガキの使いじゃねぇんだよ!」

 しかしこれは必然だ。

 そもそも、僕のプロットには「龍を倒す」というオプションはない・・

 賢者の正しさを証明することができればいい。

 つまり――パラマウント曹長から見れば、僕は清河八郎だ。

 将軍警護を隠れ蓑にして、浪士たちを勤王倒幕の尖兵に仕立て上げようとしたフィクサーだ。

「オラ! なんとか言えよ貴族さま! 龍を倒す秘策をよ!」

 どうやって、この問題を穏便に解決するべきか?

 ここまで来る道すがら、馬車の中でもウンウン考えてきたが……結局思い浮かばなかった。

 僕は小説家失格だ。

 ここで上手いハッタリの一つも浮かばないようじゃ、プロットは自然に流れない。

 クソッ!


「あるわよ、秘策なら!」

 え? あるの?

「これよ!」

 堂々と【聖典】賢者の議定書エルダーズ・プロトコールを高く掲げるルッカ・オーマイハニー!

 これじゃ私は邪教信徒です、と宣言したも同様!

 曲がりなりにも王の後援を受けた遠征軍に、邪教信徒!

 あってはならない事態に、動揺が広がる兵士たち。


「かの龍は災厄の龍に非ず! 人を加護する慈悲の龍である!」

 絶対君主マクシミリアン帝から【偽書】と認定された書物を根拠に、ルッカは毅然とした態度で言い放った。

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