第三章 3-7 異世界小説家の小説家宣言

「この馬を使って、咲也。捕まってれば、無事に帝都まで連れ帰ってくれる」

 と、愛馬・ヒステリックルーラ号を僕に差し出すルッカ。

「なに言ってんのさ? 僕は、この龍征伐軍の大将だよ? 司令官が逃げてどうすんのさ?」

 僕に徳川慶喜の汚名を着せる気か?

「咲也」

 いつになく真剣な顔のルッカは、

「あなた――この世界の人間じゃないんでしょ?」

「!!!!」

 彼女、僕の正体をズバリ言い当てた。

「い、いつから知ってたんだ?」

 「人を見る目が全くないポンコツ賢者」はブラフだったのか!? ルッカ・オーマイハニー!

「おばあちゃんが、そう言ってたんだけど……」

 あ……やっぱそうですか。あのババアの受け売りね……それなら分かるわ。

 ババアの人間洞察は恐ろしい精度だからな……大賢者の名に恥じない。


「この世界のことは、この世界の人間が解決する。それが筋でしょ? あなたの世界でも、私の世界でも」

「ルッカ……」

「私は賢者の議定書エルダーズ・プロトコールを信じる。賢者嫡流。オーマイハニーの血族が秘蔵してきた古文書は、真正なる契約の書。

 だけど……

 異世界人にまで、これを信じろ・・・・・・なんて無理強いはできない・・・・・・・・・

「…………」

「咲也、あなたはあなたの信じる神様に従って生きるべきよ」

「ルッカ……」

「だからあなたとはここでお別れ。ここから先は私がなんとかする。しなくちゃいけない」

 そう僕に宣言したルッカ、

「じゃ、バイバイ異邦人……いい人を紹介してあげられなかったことだけが心残りよ、婚活屋さんとして」

 馬を駆り、龍征伐軍の殿しんがりを追っていった。


 ふ……


 ふざけんなぁあああああああああ!


「ハイヨォオオー!」

 力任せに鞭をふるい、閉じかけのドラゴンゲートへ突っ込む!


「咲也!」

「あっぶねぇえええええええええ!」

 ほぼ逝きかけました。

 乗馬初心者が西部劇並みのスタントとか、正気の沙汰じゃない! こっわ!


「どうして来ちゃったのよ!」

「着いていくさ、ルッカ!」

「どうして? あんたは来る義務も責任もない、異邦人でしょ?」

「あるさ!」

「僕を見くびるなよ! 小説家だぞ!」

「は?」

「小説家たるもの、自分の「作品」を見届けないでどうする?」

「へ?」

「今回のプロットアルコ婆奪還作戦計画は僕が書いたんだぞ? 作者が作品のリアクションを確かめないでどうする? もし作品に瑕疵があったなら、それを修正するのは作者の領分だ!」

「でも……」

「プロットが破綻しかけても、僕が知恵を絞って推敲すればカタチなる可能性もある! 作者が完成と宣言するまで、どんな原稿だって作家には、手を入れる権利も努力義務もある!」

 我ながら強引な論理展開だと思う。

「ルッカ! 僕は君にハッピーエンドを見せたいんだよ! 作家として、君に!」

 だけど、この気持ちは本当だ。


 そんな僕の「作家宣言」に対し、

「……!」

 読者の反応は思いがけないものだった。

「……ルッカ?」

 胸に飛び込まれるって、こんな感じだったんだ……

 無様に倒れ込まないように必死に彼女の身体を支えてあげると、


「バカね……あんた死ぬわよ……」

 と呟くルッカ、軽く肩を震わせながら瞳を潤ませた。

「僕は死なない」

「咲也……」

「だって正しいんだろ? 賢者の議定書エルダーズ・プロトコールは?」

「ええ、もちろん」

「なら、上手くいくよ、僕のプロットは完璧さ!」

 台詞だけならムービースターでも、彼女を抱きしめる姿は全く以てぎこちない。

 やっぱり僕は小説家なんだよ。

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