第二章 2-7 婚活と戦争に禁じ手なし
「卑怯もラッキョウもないのじゃ、ショーセツカ殿。「婚活と戦争に禁じ手なし」という
あるじゃろ? じゃねーよババア!
不意打ちにも程がある!
「冷静になってちょうだい咲也、お婆ちゃんはあなたのことを思って、とってもいい人を紹介しているのよ? 一度、頭を冷やして考え直してみて!」
だからさルッカ・オーマイハニー嬢!
冷静に考えたら、ついうっかり縁談話を受けてしまいたくなるくらいの上玉候補を紹介される困ってるんだよ!
このクソババアは!
敏腕仲人として優秀すぎるのが最高によろしくない!
絶対に曲げないと決めたはずの目標まで、折られてしまいそうになる!
――アルコ婆、恐ろしい子!
(負けるもんか!)
僕は帰る!
無事に帰ってラノベ作家としてデビューするんだ!
龍の生贄にされるのもゴメンだし、異人種の嫁と幸せな異世界家族を作る気もない!
(クソッ! 誰か、僕を救ってくれる救世主はいないのか?)
災厄の龍【以外】で!
やり手見合い婆の婚活怪進撃を止めてくれるメシアは?
「いい加減、楽になりなされ、ショーセツカ殿」
左右から迫ってくる前門の婆、後門の孫娘。
「理想の娘子と安定した所帯を持つ。それが男子の甲斐性じゃ……ショーセツカ殿」
背後から裸締めで僕を抑え込むルッカ、婚姻届を頬に押し当ててくる。
ああ、もうこれまでか?
堀江咲也、異世界にて年貢の納め時か?
と、諦めかけた、その時……………………
「ちょぉぉぉぉーっと待ったぁぁぁぁ!!!!」
ダスティン・ホフマンの卒業は結婚式だ。葬式じゃないよ。
そうツッコみたくなるほど、既視感たっぷりに現れた――眼鏡のエルフ美女。
聡明で美しく、知性まで兼ね備えた理想の嫁候補第一号。
「ソノ男、アタシとメオトになーる男だよ! ドウボーネコはオトトイ来やがれダーヨ!」
ジュンコ・チアチアクラシカさんの、たどたどしい王国標準語が大聖堂に響いた。
「えーと……? この場合、ダブルブッキングでは?」
ジュンコさんからすれば、正式に僕から断られたワケではないんだから、優先権の主張も分からないではない。
「婚活サービス的に、これどうなの? …………アッー!」
いない!
見合い婆も、ハートフルケアマネージャーも、真っ先にトンヅラしやがった!
なんという逃げ足!
☆ ☆
「腕が千切れるかと思った……」
あの後、アナさんとジュンコさんから人間綱引きされる羽目になり……
大岡越前の居ない大岡裁きに、葬式も大混乱と成り果てた。
「ショーセツカ卿! 邪教徒どもの反撃に遭ったのでありますか?」
「いや、まぁ……なんというか……」
ボロボロの服を見れば、名誉の負傷と思われても無理はない。
(あのクソ婚活サービスめ……無責任にも程がある! ネットで星1評価を撒き散らして……)
ネットがあればな! ないんだけど、世界だし。
小説家の
(とはいえ……)
こんなダブルブッキングを招いてしまったのは、僕の責任もゼロではない。
見合いの席で、僕がジュンコさんへ【明確に】お断りを伝えられなかったからでもある。
ばあちゃんは僕に教えてくれた。
『いいか咲也、親切に接してくれた人には、横柄な対応してはならね』
うん、僕もそう思うよ、ばあちゃん。
誠実な応対してくれた人を、疎かにしてはいけないと思う。
断るにしたって、丁重に礼を以て断りを入れねば。
それが正しい人の
「キッチリと返さねば……」
施術台でポツリと呟くと、
「邪教信徒どもに倍返しですか? ショーセツカ卿!」
「あ、いや、まぁ……一応、男としてキッチリ落とし前を着けないと……」
「さすがです!」「それでこそ隊士の誉れ!」「邪教信徒も戦々恐々ですな!」
隊士たちも稽古の手を休め、僕に称賛の拍手。
いやいやいや……派手に誤解されてるけど、僕は木刀すら握ったことないからね!
邪教徒成敗なんて夢のまた夢………
バァン!
――――そんな緩んだ雰囲気を一閃!
屯所の扉が勢いよく開け放たれ、
「隊士諸君!」
空気が一気に張り詰める!
「中尉!」
突如現れた指揮官に、襟を正す隊士たち。僕も慌てて治療を中断し、上官へ向き直ると、
「朗報である! 吉報である!
稀代のカリスマ・テュルミー中尉が、高らかに宣言した。
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