第二章 2-5 仲間がxxで死んだのさ、とってもいい奴だったのに

 どうも、堀江咲也です。

 異世界の王、マクシミリアン帝に喚ばれた僕ら召喚者、

 昨日、七人が六人になりました。


 舞踊卿・小林が帰らぬ人となったのだ。


 死因は……何と書けばいいんだろう? ……蒸発死?

 通常の火事なら性別不明の焼死体くらいは残るんだろうけど……小林の場合、骨すら残らぬ温度で焼かれてしまったから――災龍ブレスの直撃を受けて。


 本来、離宮防空壕あの場には七人いなければいけなかった。

 なのに、集められた召喚者は六人。


 つまり――――

 舞踊卿・小林は既に影武者として着任させられており、災厄の龍襲来という非常時に際し、決戦の矢面に立たせられたのだ。

 僕らが知らぬうちに。


 ――そして使い捨てられた。

 災厄の龍に襲われても屈しない、不死身の王を演出させるために利用されたのだ。


 ハメられた。

 僕らは王にハメられたんだ。

 耳障りのいい「アメ」をエサにして、不平等条約を結ばされてたんだ。日米修好通商条約なんて目じゃないほどのアンフェアな契約を。

 そもそも!

 並行世界間の通行の自由がない時点で、僕らは王の隷従れいじゅう下にある。

 決して外せない枷を着けられているに等しい。

 この異世界という【檻】の中での、限られた自由を謳歌しているに過ぎない。

 『勝手気ままな貴族生活』などという耳障りの良い言葉に騙され、浮かれていたんだ!


 ☆


「アレ?」

 朝食タイム。

 王宮お抱えシェフのモーニングを頂きつつ、異世界貴族の生活を報告し合う(≒自慢し合う)のが僕ら召喚者の恒例行事だったのに……

「誰もいないじゃん……」

 テーブルには六人分の席が用意されているのに……食堂に現れたのは僕一人。

「他の奴らは?」

「皆様、お部屋でお休みでございます」


 ☆


「ほっといてくれ……堀江」

 食事を口実に召喚者たちの部屋を訪ねてみるも……

「食欲なんて、出ると思うか?」

「お先真っ暗だ……こんな世界、来るんじゃなかった……」

「もはや何をする気も起きねーわ……虚しい……」

「ジーザス・クライスト……」


 みんな、完全に心を折られている……

 そりゃそうだよな……

 精魂込めて打ち込んだ「王の理想郷」の作品が、一夜にして灰燼に帰してしまったのだ。

 芸術家を打ちのめすには十分の出来事だった。


 しかし……それだけなら、まだ救いはある。

 問題は僕らが【永遠の影武者候補】として囚われていることだ。

 舞踊卿・小林の例を鑑みても、影武者の指名は王の裁量次第、誰が、いつ指名されてもおかしくないし、いつまで続ければいいのかも知らされてない。

 確実にお役御免となるのは、【龍災】で消し炭にされた時だけだ。

 「不死身の王」の威光を高めるために、使い捨てにされる運命なのだ!



 昨夜、その事実に打ちひしがれた僕ら召喚者に、テュルミー中尉は言った。

「龍の機嫌など人には分かりかねる。来ない時は何年も来ない」

 つまり影武者に指名されても【龍災】を被らないまま、任を全うする可能性もある。


 つまり僕ら召喚者は、王の機嫌と龍の機嫌、どちらもクリアしないと元の世界へは帰れない!


「これが……これが【異世界の現実】…………」

 そんなのアリかよ?

 誰だ、こんな酷いプロットを考えた作家は?

 少しは当事者のことも考えろ!


 ☆ ☆ 


 【龍の災厄】到来によって、

 問答無用の生贄要員――その現実を突きつけられ、意気消沈の僕ら召喚者だったが……


 逆に【龍災】を自身の追い風に変えた男も、存在した。


「見たか臣民! 王の威光を!」

 邪教信徒の摘発を終えた思想警察、お決まりの路上アピールタイムである。

「我が王・マクシミリアンは不死身のカリスマ!」

 本日もテュルミー中尉による青空独演会の始まりだ。

「讃えよ、王を! 我らが偉大なる不死鳥王、マックス・ザ・ダイハーデッド!」

 思想警察隊士のシュプレヒコールも、より熱を帯びる。

「偉大なり! 偉大なり! マクシミリアン!」「讃えよ! 讃えよ! 不死鳥王!」


 龍災の痕も生々しい町並みを背に、テュルミー中尉の舌は冴え渡る一方、

 「文明開化の英名君主」に加え、「龍の襲来にも負けぬ不死身の帝」という惹句じゃっくを駆使し、帝を称える言葉が湯水のように湧いてくる。


「 む な し い … … 」


 僕も思想警察の一員として、中尉を囲む輪で拳を突き上げるものの……上司の熱弁が、右の耳から左の耳へと抜けていく……


 僕はこのままこの世界で、うだつの上がらない底辺公務員として人生をスポイルしてしまうんだろうか?

 あれから、藁にもすがる思いで、帝都各所の書庫を訪ね歩いたが……

 目立った成果は皆無。

 【異世界召喚の術式】に関する書物は、ただの一冊も発見できなかった。


 ああ……今頃、元の世界は、どうなっているんだろう?

 「失踪した奴に、大賞の資格なし!」ってことにされてるのかなぁ? やっぱり?

 こんだけ何日も音信不通じゃ、編集者も愛想をつかすよね……

 くそぅ……せっかく大賞を獲ったのに……僕の夢が実現したと思ったのに……



「諦めるな、帝都の子らよ!」

 塞ぎ込む僕を鼓舞するように響く声、カリスマの声。

「暴虐の龍により、諸君らの愛する都は大きく傷を負った! 家を失くした者、職を無くした者、夫を亡くした者……その爪痕は深い!」

 テュルミー中尉は

「しかしだ諸君! 復興を諦めてはならない! 我々には王がいる! 王が健在であれば、必ず復興は成るのだ!」


 僕は、その王のせいで、憂鬱を抱えているんですけどね……


「ショーセツカ卿!」

「はい?」

 まだテュルミー中尉の街頭パフォーマンスは続いているが、副長が僕を呼んだ。

「身内のご不幸の連絡が入った」

 身内ですか? 僕は身内なんていませんけど……この世界には誰一人?

「とにかく、ここはいい。君は大聖堂へ向かい給え」

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